第四十七話 いや、だって、姉様と話してる相手って…
なぜーか、女嫌いのクリフィードに連れられてやってきたのは、なぜーか、物静かな中庭だった。水の音が聞こえるので、近くには噴水でもあるのだろう。
さぁ、みなさん。ここでおさらいの時間です。
私的にはすごく衝撃的な登場だったクリフィードなのだが、文面にしてみると意外にヌルッと登場した感じが否めない。え?なんで文面にしたかって?今までの事を振り返ってたからだよ。
………やめよ、心の声の人と喋るの虚しいわ。
まぁ、とりあえずクリフィードはここまで一切口を開かずに、ただ私を睨みながらチラチラと様子を伺っているようだった。
「…あの」
「………」
私が声を発すると物凄い剣幕で睨みつけてくるこの馬鹿男をどうにかしたい。切実にそう思うよ。言っちゃなんだけど、私他国の姫よ?それがこんな態度取られて笑顔で接してやってるのに、なんだその嫌悪感丸出しの対応は。
「………お前、先生になんかする気なのか」
やっと口を開いたかと思えば、またわけのわからない事を言う。
「先生とは誰の事なのでしょうか」
「父上の騎士団長と言えば、鈍感な女でもわかるだろ。さっさと答えろ」
って、事はリディア伯爵?…えっ、待って今思い出すから。クリフィードルートでリディア伯爵って出てくるっけ…?いや、出てこない。騎士団長という名前は出てきても、リディア伯爵本人が登場する事はなかったはずだ。………なら、先生は?…確か、剣術を兄であるブラッドフォードと習っていたというエピソードがあるくらいだよね…。え、じゃぁまさか…。
「リディア伯爵が…剣術の師匠…?」
最悪だ。可能性としてある話だけど、それなら私がやろうとしてる事は、物凄く面倒な事かもしれない。
ショックを受ける私を見て、クリフィードは何を思ったのか大きな溜息をついた。
「お前、先生に何かする気なら本気でやめろ。気持ちの悪い女であるお前が先生に近づく事すら恐れ多いのに、何か企んで先生を陥れようなんて馬鹿馬鹿しすぎる。今すぐ先生に頭を下げるか、王城へ一切立ち入るな」
………リディア伯爵が王子の剣の師匠だったのはさておいて、コイツ、私がカタルシアの姫だってわかってるのか?こんなの父様に聞かれでもしたら戦争だぞ。
「あの、第二王子殿下…」
「言い訳は聞きたくない。女の言葉なんて信用できるか」
いや話聞けよ。
「とにかく、お前は今すぐここから出て行け。目障りな女が消えるのは俺としても万々歳だからな」
「………」
私を追い出した場合、恥をかくのは国王陛下や第一王子のブラッドフォードなんだけども。なぜに招待客をいきなり追い出そうとするのか…あ、もしかして馬鹿なの?私があり得ないものを見るような目を向ければ、黙っていた私を不審に思ったのだろう。クリフィードが顔を上げた。
だが、その瞬間、噴水の方から女性の声が聞こえて、その声があまりにも聞き覚えのあるものだったから、思わずクリフィードの頭を引っ掴んで蹲み込んだ。
「いっ!?」
「うるさい!ちょっと黙ってて!!」
ふわふわと猫のような髪の毛は触り心地抜群だけど、そんな事今は関係ない。というか、気にできるわけがなかった。だって、私はなんとか女性の声を聞こうと必死なんだから。
「だ──ち─じ殿下、─んなところで──な─れ──ですか?」
距離があるからなのか聞き取り辛い。でも、聞いていてわかった。これは確実に姉様の声だ。
そうとわかれば私の体は勝手に動きだして、片手でクリフィードの頭を掴んでいる事も忘れて水の音がする方へ足が向く。
「いって、おい、やめろッ」
「うるさいってんでしょ!ちょっとは黙れないわけ!?」
「はぁ!?」
いつまでもうるさいクリフィードを睨み付ける。すると都合の良い事にショックを受けたとばかりに固まってくれた。そのお綺麗な顔のせいで女に蔑ろにされた事ないもんな、お前。
「良いから黙ってて。アンタが戻るとバレるかもだから」
良い?と念を押すように聞けば、クリフィードは何が何だかわからないという顔をして、一つ頷いた。
そうして、やっと噴水の近くの草木の影までやってくる事ができた。
ドレスが汚れない程度に屈んで、様子を伺う。
すると見えたのは、黒髪の男と何故か楽しそうに話している姉様の姿だった。
「えっ…」
思わず溢れた言葉にならない声に、隣のクリフィードが不思議そうに私を見る。そこでやっとクリフィードも噴水の方に視線をやり、やはり私と同じように「なんだアレ…」と幽霊でも見るかのような顔をした。
いや、だって、姉様と話してる相手って…。
クリフィードの兄、サーレの未来の旦那様、戦場を駆けるその姿を見て「戦神」とまで呼ばれた、けれど毒をかぶった事によって死ぬ事になる人。
正真正銘のブラッドフォードなんですから……!?
お読みくださりありがとうございました。




