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第四十五話 来るものは仕方ないから

「カタルシア帝国、第一皇女カリアーナ・カタルシア・ランドルク殿下、並びに第二皇女アステア・カタルシア・ランドルク殿下の御到着です!!」


司会のような立ち位置の人間が声を張り上げて宣言するのは、アルバとそう変わりはないらしい。

私はヨルにエスコートされながら、緩い速度で開かれる大扉を抜けた。前を歩いている姉様をエスコートしているのはレイラで、色々なところに出向いているからか慣れた様子ではあるけど、私からしてみれば違和感ばっかりだ。それでも会場中の視線を釘付けにできるのは、きっと姉様とレイラが綺麗だからなのだろう。

女性らしいけれど騎士として誇りを持ち、胸を張っているレイラは男装の麗人と言って違いないし、姉様は言わずもがなだ。薄く爽やかな緑と金色の装飾を見ればおのずと風を思い浮かべ、体のラインがわかるそのドレスは姉様だからこそ着こなせる。例えるなら風の妖精であるシルフか。

二人が登場するならば、どんなみすぼらしい会場も一瞬にして華やかになってしまう事だろう。


………なんて、目の前を歩く姉様達を見てボーッと思ったのはつい先ほど。


今は絶賛フィニーティスの国王陛下達にご挨拶の真只中である。


「お久しぶりです。相変わらずお元気そうで何よりですわ。王妃様」

「貴女も相変わらずみたいね。何度も見ているはずなのに見惚れてしまうわ」

「お世辞でも嬉しいです」


世の中、外面というものは誰しもが持っているもので。

いつもの優しげな笑顔はどこへやら、姉様の顔に張り付いているのは外交用の笑顔だ。こっちも、孤高の人っぽくて好きですよ、私。


「妹君は本当に久しぶりだね。来るのを楽しみにしていたよ」


父様とも、アルバの国王とも違う優しげな声色で話しかけてきたのは、何を隠そうこの国の王様だ。すぐに「ありがとうございます」と答えれば、やっぱり国王陛下は優しげに頷く。


「しっかりしてるね〜。やっぱり姉妹は似るものなのかな」

「それなら嬉しいですが、第一皇女殿下は私などより優秀ですから」

「お姉ちゃんの事、そんな堅苦しい呼び方しなくて良いよ。ディルクとは友人だし、近所のおじさんだとでも思ってよ。…あれ、これ昔から言ってるっけ?」


なんというか、本当に天然な王様なのだ。この人は。戦場を駆け回る男と、女嫌いのヤンデレツンデレ男の親とは思えないおっとりっぷり。優しいし良い人なのだが、時々抜け過ぎていて心配になる。


「あなた、近所のおじさんはないでしょう」


そう言って国王陛下にツッコんだのは王妃だった。


「え〜…そう?」

「そうです。あ、そんな事よりカリアーナちゃん。今からブラッドが来るからここで待っていてくれる?」


おおっと、王妃様よ、それはいかんと思うよ。


「ごめんなさい。第一皇女殿下は私と一緒にテラスに出ると約束してくださっていて、その、久しぶりのフィニーティスを姉様と見たいんです…」


普通はこんな事他国で言えるわけがない。そもそもこんな意味不明な事を言って、変な目で見られる以外の選択肢などない。でも、ここは友好のあるフィニーティスで、何より国王陛下はおっとりお父さんだ。付け足すと、娘ができなくてちょっと落ち込み気味だったらしいお父さん。

二つ返事で「行っておいで」という言葉が返ってきて、私は王妃様にニッコリ笑って見せると、すぐに姉様とその場を後にした。


───







会場の外にある一階のテラスに出る。物語に出てくるような可愛らしくも気品を忘れないデザインのこの場所は、案外人が来なくて穴場のようだ。


「いきなりどうしたの?」

「姉様、あのままあそこにいたらどうなってたかわかる?」

「え?…まぁ、第一王子殿下に紹介されそうな雰囲気ではあったわね…」


わかってるなら避けようよ!

姉様は私がいない時でも一応は交わしているから大丈夫かもしれないけど、今日は第一王子本人が来るんだから警戒するに越した事はないはずだ。

私の焦りようを見て、姉様は何を思ったのかクスクスと笑い始めた。


「な、なんで笑うの…」

「だって、心配のし過ぎなんだもの。ふふっ、本当にアステアは心配性ね。あ、私の事を好いてくれているからなのかしら?」

「……悪いですか」

「悪くないわよ。ごめんなさいね、気をつけるわ」


私の頭を撫でる手つきは優しいけれど、どこか本気にしていない雰囲気に腹が立って、それ以上に姉様が笑っているなら良いかと思ってしまった。末っ子の怒りが純粋に受け止められず、本気にされないのは痛いところだ。


「とにかく!姉様はできるだけ第一王子殿下とは会わないでね!」

「はいはい。じゃあ外にいようかしらね。寒いわけでもないから」

「ぜひそうしてください」


ふん!と胸を張って「やっとわかりましたか」という態度を隠さずに言えば、姉様はまた面白そうに笑って、もう一度私の頭を撫でる。

こういう時、姉様が不幸になる未来なんて実は来ないんじゃないかと思う。けど、来るものは仕方ないから、私がやっぱりなんとかしないといけないなとも、思う。

姉様の笑顔を見ながら、改めて思った。

お読みくださりありがとうございました。

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