第四十二話 私の不機嫌は変わらんけどな!!!
サーレが訪ねてきたのが数時間前。私がいきなりの訪問者で疲れたと言って自室へ戻ったのが一時間ほど前。ここでひとつ、思い出しました。
私、姉様と全く一緒にいないのでは…?
そうだよ、色々あったけど、私純粋に姉様と一緒にいたい妹なのよ。なのになんだ最近は。やれヒロインと兄様の遭遇を阻止するだ、やれ拾ったダークエルフを騎士にできてウキウキだ、やれなぜか貴族の長男拾っちゃっただ、やれ長男の弟の幼馴染と友達になって悩み相談されるだ……色々ありすぎじゃない!?
確かにクロス・クリーンのストーリーが始まって物語自体が動き始めたのはわかるよ?でも、それと私が姉様と一緒にいられないのは違うと思うの。元々私はヒロインであるリリアと兄様を会わせないようにするだけで、他はなんもする気なかったんだよ!
なのに今私は、攻略対象がいる国で、攻略対象の兄である王太子の帰還を祝うパーティーに大好きな姉様と一緒に参加よ。しかも姉様と最初の服屋以外は全く話してない。いや、話しますよ?話すけど!前はもっと話してた!!
「姉様不足だ……よく持った方だよ…」
言葉にしても虚しいだけなのだが、それでも姉様と仲良く笑顔で喋りたい。くっだらない事でも良いから姉様の笑顔見たい。私よりレイラの方が姉様と話してるよねきっと、もしかしたら、レイラの方が姉様と仲良かったりして……きっとそうだ。絶対そうだ。
「こうしちゃいられん!姉様はみんなの綺麗な憧れだけど、私だけの姉だもん!絶対渡さん!!」
寝転がっていたベッドから飛び降りれば、最近激しい運動をしていなかった体がピシッと悲鳴を上げそうになったが、耐えた。これも姉様に会うための試練だ。
自分でも変なテンションになっているのがわかるが、それより何より姉様不足を解消しなければ先へは進めん。明日はとうとうパーティーなのだ。
おそらく攻略対象であるクリフィード第二王子とも会う事になるだろう。きっとその時私は必死に皇女の顔をしているだろうから、消費カロリーは半端ないはずだ。今のうちに姉様で癒されておかなければ!!
「アステア様、お客様です」
ものすっごいキメ顔で扉を開けようとした瞬間、扉の向こうからクレイグの声が聞こえて絶望したのは、言うまでもないだろう。
───
「…なんの御用でしょうか。リディア伯爵」
今日は来客が多い日だな〜なんて呑気な事を言っていられるほど私の気分は上向きではない。微かに不機嫌さを滲み出す私を見て、ソファに座っていたリディア伯爵は重い腰をあげた。
「突然の訪問ご容赦願いたい。少しお話をと思いましてな」
昨日の大声がどこへやら、これは相当真面目な内容の話なのだろう。………ま、私の不機嫌は変わらんけどな!!!
さっさとリディア伯爵をソファに座らせ、自分も向かいの席に座る。
「遠回しな話は苦手でして、単刀直入に言わせていただきますとリアンを姫殿下の騎士にしていただきたいのです」
………感想、「そんな事で来たのか」です。
私の記憶が正しければ断ったはずなんだけどなぁ、この人の頭って鳥なの?三歩で忘れる鳥頭なの?
「実はですな、リアンには私同様騎士として生きてほしく思っておりまして。家の家紋は弟のリンクに継がせようと思っておるのです」
「はぁ、そうですか」
他国の姫になんの話をしてんだか。私のイライラゲージマックス寸前よ。
「なのでリアンが家を出た時にはすぐにリンクを跡継ぎにしたのですがねぇ。リアンが帰ってきたからにはリアンを跡継ぎにしなければ、少々周りがうるさいのですよ」
そんなん自分でなんとかせんかいコラ!!!
「しかしリンクは跡継ぎにするために生んでいますから、リンクでなければ成立しないのですよ」
この親父は頭のネジが一本外れてんだな、私理解シタヨ。
「…それで、リアンを私の騎士にしてカタルシアへ連れて行けと?」
「そうです。どうかお願いできませんか」
意味不明な事を言って頭を下げてくるリディア伯爵への溜息をなんとか抑える。この人は馬鹿だし意味不明だけど、一応は伯爵で国王の騎士だ。フィニーティスの国王には昔から良くしてもらっているし、良い人だから迷惑はかけたくない。
………でも、別にサーレみたいに可愛い女の子ってわけでもないし、少しキツく言ったってバチは当たらないよね…?
「……伯爵、はっきりと言わせていただきますが私はリアンを騎士にするつもりはありません。そちらの事情がどうにしろ、リアンを騎士にしたいとは思わないのです。私には一切関係のない話ですよね。リアンとリディア小伯爵の何が違うのか知りませんし知る気もないですが、それを私に押し付けないでいただきたい。私はただ保護した彼を家へ送り届けただけに過ぎませんから」
皇女として発言できるギリギリのラインでつらつらと言葉を並べる。するとリディア伯爵はポカン、と間抜け面を晒した後に、「わかりました」と呟いた。
これで帰ってくれるか、と胸を撫で下ろしたのも一瞬。次の瞬間、伯爵がとった行動は、まさかの。
「この通りです!!どうか!!どうか!!」
土下座だった。
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