第四話 女騎士団長のお願い
「相談事?」
私が鸚鵡返しに聞き返せば、レイラは一度頷いてから「はい」と答えた。
「姉様には言えない話なの?」
「いえ…そういうわけではないのですが、色々と事情がありまして…」
事情があるなしに関わらず、姉様に仕えているなら姉様に隠し事はしない方が良いと思うけど…。
それが近衛騎士団の団長ともなれば尚更。
でもレイラはいつも姉様の事守ってくれてるし、話だけなら聞いても良いけど…。
「良いよ。話を聞くだけならタダだしね」
「感謝します!第二皇女様!」
おうおう、本当に嬉しそうだな。
そんなに大変な事があったのかな?でも、それだったら姉様に言ってないのはおかしいか。
「相談事というのは、私の知人を第二皇女様の近衛騎士にしていただけないかという事なのです」
「近衛騎士って……本気で言ってる?」
「はい」
皇族を守る近衛には「近衛兵」と「近衛騎士」がいる。
近衛兵は屋敷や城を守る事が主な仕事であるため貴族でも保有する事を許されているのだが、近衛騎士は皇族でなければ保有する事が許されない。
近衛騎士は主人の盾となり矛となり、忠義を誓った主人に対し一生を持って仕える者達。
その忠誠心の強さ故にどんな高位の者にも主人以外には跪かず、皇族をトップとするカタルシアでは皇族以外が近衛騎士を持つ事を禁じられているのだ。
私の場合その忠誠心が重いというか、ちょっと遠慮したいなぁ…と思ったので一人も近衛騎士を持っていないのが現状なわけなんだけど…。
「第二皇女様が近衛騎士を作らないというのは重々承知の上……ですが、どうかお聞き届けいただきたい!この命はカリアーナ様に捧げておりますが、それ以外ならなんでも致します!どうか!あの者を救っていただけませんでしょうか!」
いつも冷静なレイラのあまりに必死な姿は、私まで焦らせる。
救う、という言葉を使っているほどだ。
その知人は危機的状況にあるのだろう。
どうにかレイラを落ち着かせ、話を聞く。
レイラが語ったのは、知人が「他国の貴族と揉め事を起こし、牢に入れられてしまった」という事だった。
「相手は辺境伯…自国ならまだしも、他国では私一人の力ではどうにもできなくて…」
「それで私に?…他国で罪人を救うには、皇女が召抱えたいって言うくらいじゃないとダメなわけか。微妙なとこだけど、レイラが言うより可能性はあるね」
「その通りでございます。知人は男でして、我らの騎士団に迎える事もできません」
姉様の近衛騎士団は女性だけで構成されている。
元々立場が弱かった女性騎士の力を示すために姉様が作った騎士団なのだが、これがお世辞抜きにしても強い。
男にはできないしなやかな動きでどこから攻撃してくるか予測するのは難しいらしく、兄の近衛騎士が「女だからと言って油断できない」と言っていた。
そこに男を入れてしまうと、姉様をよく思わない貴族連中が「やはり男でなければ皇女は守れないのか!」とか言って騒ぎ出すに違いない。
姉様や騎士団に所属する女性騎士達の努力が無駄になってしまう。
「姉様なら助けてくれるだろうけど、問題ごとは避けたいから私に助けてほしいって事ね。なるほど」
私が何度か頷けば、レイラは申し訳なさそうに「どうか、お願いいたします」と小さな声で、祈るように囁いた。
「ちなみに他国ってどこ?それによっては兄様を巻き込まないといけなくなるよ」
私が聞くと、レイラはグッと下唇を噛んで下を向いてしまった。
この反応、兄様も巻き込まないといけないっぽいな。
私がどう兄に協力してもらおうか考え始めてたのを見て、レイラは小さな声で呟いた。
「……アルバ…です」
………………は?
え?待って、今アルバって言った?
私の知る限り攻略対象は五人で、隠れ攻略対象は一人だけ。そのうちの二人がアルバにはいる。
だけどアルバに捕らえられている罪人なんてクロスのストーリーには登場しない。レイラの知人ってだけだし、そんなに重要なキャラなわけじゃないのか?
けど、私が知らないクエストやストーリーが存在してる可能性はある。
私の顔色が悪くなったのを見てレイラは焦ったのか、頭を目一杯に下げた。
「お願い致します!アイツを救えるのはアステア様だけなのです!どうか!どうか!」
ここまで頼み込まれると断るに断れない。
それに引っ掛かりを感じてるのは確かだし、可能性を考え出したらキリがないけど、今回はレイラの頼みでもあるしな…。
「わかった…後はこっちでするから、レイラは姉様に気づかれないようにしてね。近衛騎士にするかはわかんないけど」
「!!あ、ありがとうございます!!」
………この時、私は思ってもみなかった。
ヒロインであるリリアと兄の接触を止めようと向かったアルバで、初めての近衛騎士を得る事になるなんて。
お読みくださりありがとうございました。