第三十八話 可愛いの塊すぎて固まってる
クリフィード・フィニーティス・フェルンは、攻略対象の中でのレベルで言えば中くらいだ。
シスコンである兄様や、実の兄という壁があるアルベルトは当然の如く難易度が高い。クリフィードは女嫌いなところと、ヤンデレを加速させないように注意すればハッピーエンドだ。というか、ヤンデレって設定要らなくない?とも思ったが、そこはまぁやっぱり製作者の趣味だろう。
クリフィードとヒロインであるリリアがくっつくと、クリフィードの跡取り、つまりは国の王太子を産む事になる女性は、戦で毒を被り命短くなった元王太子と結婚する。だが、リリアが子供を産めるようになると、元王太子であるクリフィードの兄ブラッドフォードが急死し、女性は未亡人となり、子供は立場をなくし、女性自身はリリアを恨むようになる。
その女性は男爵家の末っ子で、政界的な立場が元々なく、元皇太子に力を与えたくなかった第二王子派の貴族達に半ば無理矢理結婚させられる。それが…。
──サーレ・デュールマン──
私の目の前で焦っている桃色をイメージしてキャラクターデザインされた少女だ。少し癖のついた明るい茶色の髪に、可愛らしいピンクの瞳。まさに絵に描いたような美少女と言って相違ないだろう。
個人的にはサーレの方がヒロイン向きの見た目をしていると思う。
個人的にだけどね。
「す、すみません!まさか人がいるなんて思わなくて!!」
「大丈夫ですよ。怪我もしてないですし…」
「騎士の方も大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ」
慌ててる姿がこんなにも可愛い。ほんっとにキャラデザだけは神ってるんだよな、クロス・クリーンでいうゲーム様は!
「本当にすみません…リンク君にもらった魔道具が嬉しくて乗ってたんですけど、操縦を誤ってしまって…」
「リンク君…もしかしてリディア小伯爵ですか?」
「あ、はい…今はそう、なってます…」
落ち込んだ姿も可愛いって可愛いの塊すぎて固まってる……言葉オカシクナッタ。まぁ可愛いという事実だけが伝われば私的にはオールオッケー。
それにしても、「リンク君」ねぇ。あの弟こんな可愛い知り合いが…って、あ。
リンクって、そうかリンク・リディアってどっかで聞いた事があると思ったらそういう事だったのか!あー、すっごいスッキリした!今ピンときた!
リンク・リディアってサーレの片想いの相手だ!
サーレが闇落ちする理由の一つとして挙げられる事でもあるけど、サーレとリンクは幼馴染で、リンクはサーレの想い人だ。しかも出会った瞬間に一目惚れしたから十年以上片想いしている事になる。
なのに好きでもない、すぐに死んでしまう人と無理矢理結婚させられてしまうのだから、哀れなものだ。転生して改めて思ったが、悪役となる女性達はだいたい恋に関する事で闇落ちしてしまう。………製作者のクズめ。可愛い女の子から恋を奪うなんて、可愛い女の子には良い恋させろよ!私はそれを望んでんだよ!!
「そうですか。デュールマン家の御令嬢は可愛らしい方のようですね」
「な、なんで私の事を!?」
「たまたまですよ。それより、小伯爵とは仲が良ろしいんですか?魔道具はずいぶん高価なものなのにお贈りになられるなんて」
私が言えば、サーレは顔を俯かせて、「そんな事はありませんよ…」と呟いた。
「リンク君は、ただ昔から一緒にいたから家族として大切にしてくれてるだけで…妹みたいに思われてるだけです…」
………なんてわかりやすいんだろうか。私はクロスのストーリーを把握してるから知っているけど、この口振りだとヨルも勘付くぞ。
案の定私の後ろに控えていたヨルは、微妙な顔をしていた。恋愛ごとに興味はないようだ。
「この魔道具だって、リンク君の試作品を無理言って貰っただけですし…」
ん?
「試作品…ですか?」
私の目の視力が物凄く下がっていない限り、サーレが持っているのはスクーター型の魔道具だ。この世界では自転車のような役割をしているが、人を乗せて運べる魔道具なんて高い技術がある魔術師と技術者にしか作れないものなので、上流階級の貴族しか手が出せない代物。
それなのに、試作品って事は、まさか手作りなのか?
「リディア伯爵家は騎士を多く輩出している家柄だったはずでは?」
「そうなんですけど、リンク君は昔から魔道具を作るのが得意で、今も趣味で作ってるんです!」
いや、そのスクーター型の魔道具は趣味で作れる範疇を超えてるよ?
魔道具は基本、魔術を付与する魔術師と、魔道具の本体を作る技術者の二人がかりでないと作る事ができない。趣味にしている人にしたって、技術者が予め作っておいた本体を購入して、魔術を付与するくらいしかできないはずだ。
でも、もし、魔術師と技術者の両方の役割をこなせる人がいるとしたら…?
それは、天才と言って過言ではないんじゃないか。
まだ予想する事しかできないけど、その予想が当たっているとすれば、リアンの弟は伯爵家の当主にしておくには勿体なさ過ぎる人材だ。
「デュールマン男爵令嬢、私フィニーティスにお友達がいないのですけど、もし宜しければサーレと呼んでも良いかしら」
「嬉しいです!ぜひお友達になりましょう!」
リンクの情報を得られて、可愛いサーレと友達にもなれる!まさに一石二鳥だわ!
お読みくださりありがとうございました。




