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第三十二話 そのパターンなのか?

ヨル視点になります。

月明かり照らす冷たく静かな廊下。コツコツと響く三人の足音だけが耳に届くという、なんとも気まずい空気が流れている。俺は本日何度目かの溜息をついて、「あのよぉ」と誰ともなく声をかけた。


「どうかされましたかな?」


穏やかな声色で爺さんが反応すると、逆にメイドが不機嫌そうに俺を睨みつける。あからさまに敵意を向けられ黙っているほど大人しいつもりはないが、それでも俺はなんとか感情を抑え、爺さんに質問をした。


「俺、あんたらの名前しらねぇんだよな」

「あぁ、そうでしたか。それは申し訳ない。歩きながらで良ければ自己紹介させていただきますよ」


それ、歩きながらじゃないと自己紹介しないと言っている様なもんじゃねぇか…。面倒な言い回しをする爺さんだな。


「それでいい」

「そうですか。では、私はクレイグと申します。人ではなくアンデッドでアステア様専属執事でございます。以後よろしくお願いしますね、ヨル様」


ニッコリ、どこか姫さんの上機嫌な時の笑みを思わせる笑顔で告げられる。従者が主人に似るのか、主人が従者に似るのか。この場合どちらなのかわからないな。そもそもアンデッドってなんだ、あの姫さんそんなの執事にしてんのか。やっぱ変人だな。


「…アステア様専属メイドのエスターと申します。狐の獣人です。アステア様のためにヨル様とは仲良くする事にしています。以上」


元々愛想がないのか知らないが、どうやら俺を怒らせたいらしいメイド…もとい、エスター。これでよくあの姫さんに気に入られたな。愛想って言葉を知らねぇんじゃねぇのか?


「エスター」


クレイグの爺さんが咎める様に名前を呼べば、一瞬怯んだらしいエスターは口を噤んだ。


「申し訳ありません。そのうち慣れると思いますので多めに見てやってくださいませんか」

「…メイドがどんな女だろうと興味はねぇよ。あと、その様付けなんとかできねぇのか?」

「できかねます。ヨル様はアステア様の近衛騎士であらせられますから」


ここでもそれか。

どうやらこの国じゃ、近衛騎士ってのは大層立派な職業らしい。まぁ、皇族を守るんだってんだからそうなんだろうが、近衛騎士って名前を出すだけで誰もが頭を下げる。正直言って気味が悪いレベルだ。


「…近衛騎士になりたかったわけじゃねぇから、そういうの嫌なんだけどなぁ」

「!!!」


その瞬間、体を刺す様な殺気を感じ、俺は反射的にエスターの首元へ、忍ばせていたナイフを向けていた。


「……手癖の悪い人ですね」

「ハッ、殺気向けてくるメイドに言われたかねぇよ」


確かに姫さんの部屋から拝借したもんだが、役に立ったんだから良いだろ?それより今はこのメイドだ。こいつ、本気の殺気を向けてきやがった。


「おやめなさい!」


カンッ──


大理石の冷たい床に、いつの間にか現れた白い杖がクレイグの爺さんの手によって突かれる。素材は相当固いもんなんだろう。

強く突かれた音が静かな廊下に響いた。


「ここはアステア様のお屋敷。何よりお部屋ではアステア様がお眠りになられているんですよ?エスター、分不相応な嫉妬は見苦しいだけです。今すぐやめなさい」


クレイグの爺さんは淡々と、だが多少の怒りが伝わる程度に声を震わせていた。おそらくそれは演技なんだろうが、エスターには効果があった様で、ピンッと立っていた耳が軽く下がっていた。


「…申し訳ない限りです。エスターは元々アステア様をお守りする事が望みでして。今までいなかった近衛騎士が現れて気が立っているんです」


困ったものだ、と付け加えられた言葉を聞いて、「ただの嫉妬か」と呆れる。まぁ、異常っちゃ異常な執着なんだろうが、興味がないから知る気もない。とりあえず俺の中でエスターの位置が、「頭のおかしな執着女」になっただけの話だ。

エスターの首元に向けていたナイフを下げる。すると、なぜかエスターが「ずるぃ」とか細い声で呟いた。


「わ、私だって、アステア様にこの身を捧げたかったのに、近衛騎士なんて、あの方の一番お側にいれる場所なのに…」


………女に情緒不安定な奴が多いのは知っていた。けど殺気の次は泣くか。そうか、お前の情緒は崩壊してんだな、今理解したぜ。

クレイグの爺さんが「またですか…」と呆れているから、常習犯なんだろう。これ、姫さん知ってんのか?ちゃんと構ってやれよ。

俺がどうして良いか分からず額に手をやれば、エスターはいきなり俺をキッと睨んだ。お次はなんだよ。


「私は、リアン様の様に努力もしようとしない貴方が嫌いです。でも、アステア様に選ばれた貴方を追い出す力は私にはありません。なので仲良くしてください、上っ面だけ」

「はっきり言い過ぎだろ…」


主人が変人だと、従者も変なのが集まんのか?


「ふむ、なんとかまとまった様ですね」

「いや、まとまってねぇからな!?」

「大丈夫ですよ。エスターは一人で完結させられるタイプですし、いつもは仕事のできる子ですから」

「あっ、犯人あんただろ!あんたが甘やかしたからこんな女ができたんだろ!」

「うるさいです。仲良くしなくて良い時はできるだけ静かにお願いします」


待て、待ってくれ。もしかして俺が疲れるパターンか?そのパターンなのか?


………これなら、奴隷として鎖に繋がれてた方が楽だったかもな。

お読みくださりありがとうございました。

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