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第二百九十三話 神龍が高々と

「お前、自分が何を言っているのかわかっているんですか!?主催者…つまりは神に反逆すると…!?」

「そんな大層な話じゃありません」


ただ殴るだけ。一発で済むかはわからないけど、この怒りが収まるだけ何度も殴りたいだけなのだ。物騒?どうとでも言え。今までこうやって人生を生きてきたんだから今更変える気はない。


「で、この願い聞き届けてくれますか」


ジッと真上にある神龍の顔を見つめる。神龍は数秒だけこの状況を整理するために黙り込むと、『一つ聞きたい』と言った。


「聞く聞かない以前にあり得ない!判断力がなくなったあなただってわかっているはずでしょう。今すぐその女を…!」

「ああうるさいな!!ちょっと黙ってるって事ができないわけ!?」

「っ…!人如きが…!」


さっきから余裕ふかしてうざったらしかった顔が幾分かマシになったのは良い事だけど、大事な話の最中に口を挟んでくるなんて良い度胸じゃないか。主催者側の奴はマナーすらまともになってないみたいだ。


「空気になってるそこ三人!足止めして!」

「………へ!?」

「あ、は、はい…!」

「え、いや、は!?」


状況についてきているのかは知らないが、いち早く反応したのはライアンとリアンで、ワイアットはどうしてもヨルの側を離れる気はないようだった。………まぁそっちの方がヨルに危険が及ばず、私の心に多少の余裕が出るかもしれないから有難いな。たとえ死体だとしても、ヨルにはこれ以上傷ついてほしくはないから。


「ッ…鬱陶しい…!」


キンッ──


剣を振っているのはライアンとリアンだけなのに、魔術で防御した男と打ち合って金属音が洞窟に鳴り響く。なんだかよくわからないままに戦闘に発展してしまったけど、ライアンとリアンは何も言わずただ戦ってくれた。


『……良い騎士だ。どんな状況でも主人の命に即座に対応している』

「私の騎士じゃないですよ。多少は慕われてるのかもしれませんけど…それより、聞きたい事ってなんですか」


聞けば、神龍は少し口ごもり、けれど響く剣の金属音を聴きながら頷いた。


『お前は死んだあの子を、大切に思い続ける事ができるか?』

「………はい?」


大切に思っていなければここまで怒っていませんが?


『人の思いや感情は流されやすく忘れ去られやすい。記憶もまた然り。今の一時の感情で動くお前が本当だったとしても、未来永劫あの子を忘れる事なく思い続けると保証できるのかという事だ』

「…「あの子」っていうのはヨルの事ですよね」

『あぁ』


「それなら保証できません」


『!』


神龍の言っている事が間違いだとは思わないが、正しいとも思えない。人というのは確かに大切なものも時の流れとともに忘れてしまう事があるけれど、ふと思い出すのだ。

あの時あの瞬間、何よりも大切だと思ったものを、ふと一瞬。たった一瞬思い出して懐かしんでは悲しくなって、それでまた一時忘れては思い出す。

そうやって結局はずっと思い出し続けている生き物なのだ。だから。


「思い続ける事は、できません」


これがなんの確認かなんてわからない。けれど嘘はつきたくない。きっと私は心から喜んだ時、悲しんだ時、怒った時、ヨルを忘れるだろう。

まっすぐ神龍の目を見つめれば、なぜだか優しい瞳と目があった。


『そうか。それが、答えか』


柔らかな声に頷けば、なぜだかライアンとリアンが足止めをしている男に焦りの色が浮かぶ。それがなぜかはわからなかったけれど、どこか神龍の表情に決意が見えたのはわかった。


「待っ…」


『人の子よ、その願い神龍の誇りにかけて聞き届けよう』


男が静止の声を上げる前に、神龍が高々と宣言をした。その姿は神と言って他になく、どこか満足げな神龍の瞳が男を見下げる。


『私はこれにて退場だ』

「ふざけるな!そんな事が許されてなるものか。結局はまた神の身元に生まれ変わるだけ。あなたがしている事は反逆にすらなっていない…!」

『幾万年という月日を生き息吹を吹き返し続ける事と、一度死んで生まれ変わる事では意味が違う。それに輪廻を司る神はこの遊戯に全く興味がないだろう。そして慈悲深い。きっと私に慈悲をかけてくださるさ』

「生まれ変わったとしても逃れられはしないぞ…!」

『はっ!確かにこの遊戯においては絶対かもしれないが、所詮は一柱。上の神々相手では赤子のようなものじゃないか!馬鹿馬鹿しい!』


小馬鹿にするように、あるいは自嘲するように笑った神龍が私を翼で覆い隠す。体温はないに等しいのに何故だか温かくで、こんな状況なのに心が落ち着いた。


『人の子よ、あの子を頼む』

「…神龍様?」

『もう少しだけでも手助けしてやりたいが、私の望む形がこうなんだ。受け入れておくれ。君がいるなら、あの子もこの運命を受け入れる事ができるはずだ』

「?…さっきからなんの話を…」


ブワッ──


ただただ大きく。私の体なんて簡単に浮いてしまいそうなほどの風圧を起こして、神龍が、飛んだ。

お読みくださりありがとうございました。

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