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第二百八十七話 この世界は

後半視点なしです。

神龍が眠る聖域だからなのか少し息が詰まる。体全体がピリピリと緊張を帯びていて、ワイアットも私やリアン達の雰囲気を察して冗談を言わなくなっていた。


「皆さん緊張しすぎない方がいいですよ。リラックスリラックス」

「そうは言っても聖域に入るなんて初めてだからちょっと不思議な感じが…」

「あぁ。そういえばカタルシアには聖域ないんでしたっけ」

「普通どの国にもありませんって。ね、リアン」


私が転ばない様に後ろからついて来てくれているリアンに振り返ると、リアンと揃ってライアンも頷いていた。


「聖域が常にある国と言ったらサディアス教国くらいじゃないかと。あとは神の信仰が深い国には何百年かごとに聖域が現れるという話も聞きますが…」

「千年以上昔は各国にそれぞれ聖域があって、神が国を守護していたっていうのを授業で習った気がします」


さすが魔術や魔法があるファンタジー世界だ。ヒロインのリリアも神様に直談判しちゃうし、私もこうやって会いに行こうとしてるし、この世界は何かと神様との距離が近いよなぁ。


「うわ〜マジですか。婆様の話ばっかり聞いてるんで、てっきり今も聖域は各国にあるとばかり思ってました」

「あぁ、お婆さんは何千年も生きてるんですよね。そりゃ千年以上前の事も知ってるのか」

「??エルフって何千年も生きるっけ…??」

「ライアン君、こういう時は理解するんじゃなくて受け入れるんだ」


年長者らしく助言してるとこ悪いけど、別に聞いても問題ないからねリアン君。


「はははっ!まぁ婆様は規格外ですから。理解する方が難しいと思いますよ。神龍様と行動をともにして暮らしてる、みたいな噂まである人なんで」

「?どういう事ですか…?」

「八千年前にこっちに引っ越してくる前は神龍様も他の森にいたんですけど、その時も婆様が一緒にいたかもしれない、みたいな話ですよ。神龍様にやけに詳しいし、神龍様関連の事は婆様が一任してますしね。そんな噂が流れるのも無理ないでしょう」

「そうなんですか…」


本当にお婆さんって何者なんだ…ていうかそれを笑いながら話す君も何者なんだワイアット…。


「八千年以上前に国が吹っ飛んだって話も婆様が関わってるとかいないとか……って、あれ。ますます面白い事になってる」


ピタリと足を止めたワイアットは、その言葉とは裏腹に警戒するように目を細めた。聖域内は植物以外の生き物は生息していないため、神龍が何か仕掛けてこない限り問題はないはずだ。ならワイアットにしかわからない何かがあったのか。

リアン達と揃って首を傾げると、ワイアットは少年のような笑みを浮かべた。


「どうも神龍様に歓迎されてるらしいですね。わかりやすい道標まで置いてくれてますよ」

「道標…?」


そんなものあるだろうか。ワイアットが見つめていた場所を見てみてもそんなものは見当たらなかった。


「エルフと神龍様の縁は濃いですから、エルフにしか見えないものもあるんですよ。ま、そんなのはどうでも良いや。とりあえずこっちです」


ワイアットに嘘をつかれたとしてもわかるわけがない。なら素直について行った方が良いだろう。

私はリアン達に振り返り二人の顔を確認してから、笑みを浮かべながらも警戒を緩めないワイアットの背中を追いかけた。


───












「?…珍しいな。私以外に来客とは…」


神龍が住処とする場所は代々エルフが守っている。であれば、聖域に足を踏み入れたのはエルフか。

いつもならば生き物の気配すらしない聖域に幾つかの暖かみを感じ、男は密かに舌を打った。まだ聖域内に足を踏み入れていないので神龍に気づかれてはいないだろうが、これは少々厄介だ。

人間を改竄する事など容易いが、この遊戯の主催者がそれを望んではいないために禁止事項がいくつか設けられてしまっている。しかも神龍が聖域に入る事を許しているのなら、下手に手出しはできない。


「面倒だな…さっさと引き合わせなければいけないのに…」


大きく変動する物語を元に戻す必要はない。ただ変動しすぎては何度も繰り返している遊戯と変わらないので、元の道筋にも干渉しようという話だ。


まぁ詰まるところ、聖域に入ってしまっている邪魔な奴らのせいで、目的が達成できないかもしれないという事で。


男はうーんと悩み、閃いたように手を叩いた。


「邪魔な存在は後回しにして、プランを変えるか」


臨機応変に。やりようはいくらでもあるのだ。

龍が一等可愛がっている森人の気配が聖域内にないのでそれを利用すれば良いだろう。聖域の中でないなら龍に気づかれる心配もなく好都合だ。龍を動かすためなのだから主催者だって多少の無茶は許してくれるはず。男は自分の考えながら名案を思いついてしまった、と上機嫌で聖域を後にしたのだった。

お読みくださりありがとうございました。

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