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第二百八十四話 体の力が抜けるのがわかった

「ふっざけんじゃないよ!!!」


ドォォォン──


「!?」


地下の入り口。門番がいた場所に着くと、そこには阿修羅と化したお婆さんがいた。え、なんでよ。


「あぁお嬢ちゃん。すまないね。今このバカを八つ裂きにしてやるからちょっと待ってな」

「いやいや!?どう言う状況ですか!?」


お婆さんが首根っこ掴んでいるのは門番のエルフで、私の目がおかしくなったわけではないのであれば成人男性である門番がお婆さんの細腕で宙に吊るされていた。


「いやねぇ、会議に参加してなかった連中にあんた達の事を早速伝えに行ったら、若い衆が遅れてきたんだよ。しかも方向的に地下の牢屋がある方から帰ってきやがった。そりゃ嫌な予感がするさね。まぁワイアットが一緒だから平気だろうと思ったんだけどね…来てみりゃ若い衆と結託して門番がよからぬ事を企んでいるようじゃないか」


族長さんの時で学んだが、どうやらお婆さんはキレると饒舌になるらしい。話している最中にも門番の襟元を掴み上げ腕の力を弱めないとは流石の一言だ。って、そんな事思ってる場合じゃない!


「あ、あの!その人はいいので誰か治癒魔術を扱える人はいませんか!?リアンとライアンが…!」

「!もうしでかしてたのかい…!」


般若のような形相、と言えばきっと伝わると思う。すでに意識が朦朧としてきている門番は顔をさらに青くしてジタバタと最後の足掻きを始めた。


「安心しなお嬢ちゃん。どこにだって、私みたいな変わりもんはいるんだ」


ニッと笑ったお婆さんは本当に綺麗で、そこに年齢なんてものは関係なかった。お婆さんの言葉を合図にしたように若い風貌のエルフ達が数人地下へ駆け込んでいく。私は目を瞬かせて、すでに意識を手放してしまった門番を地面へ放り投げたお婆さんに視線を向けた。


「人間嫌いのエルフは多い。それはどうしようもない事実だよ。それ相応の事をされてきた結果だ」

「!」

「けどね、あんたみたいに他人のために必死になって、私らみたいな人間嫌いに気を遣ってくれる人間もいるって知ってる奴らもいるんだよ。今入って行ったのはそういう奴らさね。だから安心おし。あんたの連れがどれだけ死にかけだろうと呪いでもかけられてようと、あの子らの手にかかれば完璧に治っちまうから」


一気に、体の力が抜けるのがわかった。


「よかっ…よかった…っ」


騎士として私の側にいる事を許さなかったリアン。将来は兄様の騎士となる事が確定されているだろうライアン。

二人とも私の側にずっとはいられないし、いさせるつもりもない。けど、それでも死んで良いなんて思えるわけがないんだ。ましてや私都合でこんなところまで付き合わせて、それで死なせるなんてリディア夫人にもサーレにも、デーヴィドにもイザベラ達にも顔向けできない。大切な人がいなくなる事がどれだけ辛いのか、今自分自身が一番よくわかってるから。


「あれ、泣いてるんですか?」

「っ!」


真後ろから声がして体がビクつく。振り向けば飄々としたワイアットが立っていて、先ほどのエルフ達にリアン達を任せてきたのだと察する事ができた。すぐに「泣いてません!」と反応すると、ワイアットは「さいですか」なんて言ってふざけながらお婆さんに近づく。道すがら門番を踏みつけにして………ん!?


「あ、あの、ワイアットさん?足の下…」

「え?あぁ気にしないでください。馬鹿したこいつもちゃんと罰しますし、他の若い衆も見つけ出し次第半殺し……あ、いやえーと、拷問するんで!」

「それだと言い直した意味がないです!」

「そもそもあんたの監督不行届だろうがこの馬鹿ガキが!!!!」

「いっ!?」


ゴンッと盛大に鈍い音が響く。見ればワイアットの頭には大きなタンコブができていて、お婆さんはふんっと鼻を鳴らしていた。


「馬鹿野郎どもの始末は私がしとくから、お嬢ちゃんをちゃんと案内してあげな」

「え、休ませてもらえないんですか!?俺全くと言って良いほどできない治癒魔術頑張ったのに!」

「全くできない奴はハイレベルの治癒魔術使おうとした時点で自爆してるよ。それにこんな事態になったんだ。これ以上お嬢ちゃん達をこの里に居させるのは得策じゃない」

「うっ……わかりましたよ…行けば良いんでしょ行けば」

「なんだいその生意気な態度はー!!」

「いふぇ!!」


びにょーんと頬が伸ばされワイアットが涙目になる。さすがに可哀想だと思って止めに入れば、十分も経っていないのに気絶したままのリアンとライアンがエルフ達に担がれて地下から戻ってきた。


「とりあえずその二人を担いだまま里の外に出な。エルフが一緒だったら獣も襲ってこないだろうから癒しの泉に行って浸からせてあげるんだよ。人間にエルフの魔力は強すぎる事があるから、あとは泉の力で治してあげるんだ。良いね?」


エルフ達が大きな声で揃って「はい!」と答え、ワイアットが肩を落としながらも「じゃ、行きましょーか」と言って私を担い……なんで担ぐの!?


「こっちの方が早いんで。早馬乗ってきたなら少し魔術で速さ上乗せしても平気ですよね?」

「いや…いやいやいや!早馬無理でしたから!ちょ、待って、心の準備が!いやー!!!」


その後はとりあえず森に私の絶叫が響いたと言えばお察し願えるだろうと思います、ハイ。

お読みくださりありがとうございました。

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