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第二十八話 精霊の宿らない物の加護

「少し遅れましたが改めて、ヨル、私の近衛騎士になってください」


ニッコリ、本当にニッコリ言いやがった目の前の嬢ちゃん、いや、姫さんに舌打ちをかます。すると、そんな俺を見て一瞬驚いた様に目を見開くが、姫さんは「やっぱりヨルの方が良いね」と呟いた。


「……お姫さんよ、俺はアンタの犬になる気なんてないぜ」

「誰が犬にするなんて言ったんですか。犬…っていうか、狐はもう可愛いエスターで間に合ってますし、ヨルにそれは求めてませんよ」


貴族を泊めるべきだろう豪勢な部屋に、忌み者と言われる俺を泊めるくらいだ。相当な変人だろうとは思っていたが、思っていた以上なのかもしれない。何より俺を見るその目が、承認もしてない俺の名前を呼ぶ声が、自分は変人だと宣っている様なものじゃないか。忌み者に、そんな楽しそうに接する馬鹿なんていない。


「ヨル、私は忠義とか重たいものが嫌いです。私には背負いきれないし、押し潰されたくもない」

「………そうかよ」

「そこでヨルは理想的なんですよ。私に過度な期待をせず、執着もせず、忠義もない。だから、私の近衛騎士になってくれませんか?」


さっきよりは随分マシな口説き方だが、それでも俺の利益はない。そもそも俺を側におこうなんざ、裏に何かあるに決まってるだろ。


「忠義だなんだと…俺を騎士にしたいと本気で思ってんのか?例えば俺がここで姫さんの首を折ろうとしたら?騎士になった後、簡単に裏切ったら?後悔するのは目に見えてんだろ」

「折られそうになったら折られないよう一生懸命口説き落とします。裏切られたら……たぶんクレイグとエスターが黙ってないので大丈夫です」


前者は確実に口説く前に死ぬだろ…。この姫さんホントに何考えてんだ。

おそらく俺の困惑を察したのだろう、姫さんは初めて会った時の様に不敵に笑う。


「ヨルはそんな事しそうにないですから。私の勘です」


クスッと笑う姿が、どこぞの義父と重なった。

………あぁ、なるほど。俺がこの姫さんを助けて賭けに乗ったのも、今、少しばかり苦手だと思ってるのも、たぶんアレだ。

親に似てる奴は、性別年齢問わず苦手なもんなんだな。子供ってのは。


「……忌み者の意味は知ってるよな?」


俺が聞けば、姫さんは一度頷くと「もちろん」と答えた。


「確かエルフの忌み者は、自然の力を使う事のできない者で、自然の力の代わりに()()()宿()()()()()()()()を得る事のできる人の事だったはずですよね?」


森の守り人とまで呼ばれるエルフは、その呼び名が意味する通り、森を愛し、森に愛され、森を守る存在だ。そんな種族の中で森に愛されず、森には存在しない、精霊の宿らない物質に愛されている俺は、忌み者と呼ばれてきた。

エルフは仲間意識が強い種族だ。異物と認識されれば迫害は当然で、追い出す事が最優先。俺が同じエルフに手を出せば容赦無く殺しにくる事だろう。

しかも酷い事に、エルフの守る森の全ての物は生物にとって有益なのだ。食物連鎖はあるが、それでもエルフと仲良くしていて損はない。だから、俺を救う者は人間にもいない。いるとすれば、俺を殺してエルフの機嫌を取ろうとする奴だけだ。

………そう考えると、俺を捕まえていた辺境伯は馬鹿だったな。さっさと差し出せば良いのに、見世物にするは、誰かに引き取らせようとするは。さすが、義父が選んだおもちゃなだけはある。


「でも、私それっておかしいと思うんですよね〜」


姫さんから外れかけていた意識が急激に戻される。おかしい?何がだ?


「だって、精霊の宿らない物が加護っておかしくないですか?私のくに…じゃなかった。私の考えだと、万物全てに命は宿ると思うんですよ」

「はぁ?」

「命って言うか、意思?長く使われていた物には付喪神が宿るって言いません?」

「つくも…なんだ?」


あ〜知らないか〜!なんて残念がる目の前の姫さんに、目を見開かずにはいられない。


「まぁ私が言いたいのは、精霊云々の話には心底興味がないって事です。そんなくだらない事で悩んでるんだったら私の近衛騎士になるって早く言ってください」


頭を強く、殴られた様な衝撃だ。

精霊はこの世界の魔を司る全ての物の基準だ。魔術然り、今では滅多に見なくなった魔法然り。なのに、もしかしたら世界をひっくり返すだけの力があるかもしれない精霊に、興味がないと。

しかも、くだらない?忌み者はどこに行っても忌み嫌われる存在だ。それをくだらないなんて言った人間は、俺の知る限り目の前の姫さんだけだった。


「はっ…はははっ!アンタヤベェな!」

「…そこまで変な人間ではないですけど」

「十分変だろ!良いぜ、犬になる気はねぇが、面白そうだからアンタの賭けには乗ってやるよ」


ニヒルな笑み、今の俺にはそんな言葉が似合うのかもしれない。だが、楽しくなってくるとこの顔になっちまうんだから仕方ねぇだろ?

あん時姫さんとの賭けに乗った俺の勘ってのは、結構冴えてたのかもしれねぇな。


「賭け事ってした事ないですけど、まぁ、楽しくやりましょうね」


満足そうに笑う姫さんに、「おう」と言葉を返せば、姫さんはやはり不敵な笑みを見せた。


お読みくださりありがとうございました。

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