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第二百七十九話 最悪なタイミングでバトンタッチ

「………昔、アンタみたいな事言ってた奴がいたね」


ぼそっと呟かれたのは予想もしてなかった独り言。首を傾げると、返ってきたのは「わかった」という言葉だった。


「何かしたい事があるからここに来たんだろう?それくらいはわかってるさ。だったら自分でどうにかしな。族長には話を通してやる」

「!い、良いんですか!?」

「あぁ。そこまで言うなら、どこまでやれるか見てやろうじゃないか」


意地悪そうに笑われて、これは試されているというより、現実を突き付けようとしてるんだろうなと直感する。けど大丈夫だ。策とは言えないけど、ちゃんと考えがあるから。


「……それに、私も少し言い過ぎたみたいだしね。アンタの事を決めつけてかかったのは悪かった。若い衆が怪我して少し気が立ってるんだよ、許しておくれ」


そういえば、さっきお婆さんは「腕の立つ連れの男ども」の話をしてた。私の連れと言えばリアンとライアンで、確実に若い衆に怪我をさせたのもその二人……。あれ?もしかして私ってこのお婆さんに結構助けられたのでは?


「…こっちこそすいませんでした……あの、助けてくれてありがとうございます」


仲間意識の強いエルフが同族を傷つけられたら怒り狂うに決まってる。リアンとライアンが若いエルフ達を怪我させたなら、二人が守っていた私だって怒りの対象になるはずだ。なのに縛られるだけでここに寝転がされていた。加えてお婆さんの優しい態度。さっき窘めたのだって、私が世間知らずのお姫様だと気づいてこその言葉だろう。

………そう考えると物凄く失礼な事をしてしまった。私がお婆さんの顔色を伺いながら謝ると、聞こえてきたのは愉快そうな笑い声。


「あはははは!自分の立場わかってんじゃないか!賢い奴は嫌いじゃないよ!」


そう言って頭を乱暴に撫でられ、ますます居た堪れない気持ちになったのだった。


───












バンッ──


派手な音とともに木の扉が蹴破られる。え、あれ、ここ族長さんとか偉い人がいるお部屋なのでは?


「邪魔するよ」

「婆様…またですか…」

「またとはなんだい。アンタの指導が行き届いてないせいで私の仕事が増えてんだよ、謝罪しな」

「!?」


驚きすぎて目を見開く。族長がいるからと言われてついて来たのは良いものの、なんだこの展開。え、あの誕生日席に座ってる人ってあれだよね、族長さんだよね。確実に今お婆さんが喋ってる人だよね!?


「?…!婆様よ!なぜその小娘がここにいるのですか!?」

「すぐに声を荒げんじゃないよ。はぁ…先代はもっと落ち着いてたのになんでこうなったのか」

「そのお小言は聞き飽きました!良いから答えてください!」

「私が連れて来たからに決まってんだろう」


ドンッと胸を張るお婆さんのなんと頼もしい事か。族長さんと会話をしていても誰一人として「無礼者」とか「控えなさい」と口を挟まないあたり、お婆さんは確かに偉い人らしい。

けどやっぱり私がいるせいでお婆さんに鋭い声をかける人はいた。


「婆様、あなたが自由な方だとはわかっておりますが、流石に拘束を解いて連れ回すのはやめていただきたい。族長殿を支えるべき婆様がそれでどうするんですか」

「相変わらずお堅いねぇ。昔は可愛げがあったのに」

「昔の話を持ち出す前にご自分の行動をよくお考えください」


まるで蛇と蛇の睨み合いだ。喧嘩っ早いらしいお婆さんが「喧嘩なら買うよ?」と挑発すると、お婆さんを諌めようとしたエルフのおじさんもギロリと睨み返す。私が何か言う前に一触即発の雰囲気なんですけど…。


「あのー…先にその人間の事説明してもらいません?婆様とグレイソンさんが仲悪いのはいつもの事ですけど、意味ない事はしないじゃないですか、婆様って」


ね?と首を傾げて周りに同意を求めたのは、私と同い年ほどのエルフ。まぁエルフは長命だから実年齢はわかったものではないのだけど。

若いエルフの言葉で周りも納得したように頷き、グレイソン?と言う人は少し不服そうだったけど、お婆さんが高位の人だからなのか黙り込む事で意向を示した。


「ありがとうねワイアット。ほらお姫様、言ってやりな」

「えっ」


お婆さんに背中を押された事で、お婆さんが立っていた場所に私が立つことになった。この雰囲気最悪なタイミングでバトンタッチですか、そうですか。


「突然の訪問失礼いたします。皆様にお話があり訪ねさせていただきました。どうか聞いてくださると幸いです」


皇族に代々行う教育だとか言ってみっちり扱かれた事もある。その時の経験を生かして精一杯の美しい所作と姉様と兄様を見本にした綺麗な笑顔で挨拶すれば、族長さんが値踏みするように目を細めた。


「………婆様が連れて来たんだ。話くらいは聞こう」


諦めたように視線を落とした族長さんを見て、なぜだか父様のようだと思ってしまった。きっとレントさんに怒られている時の父様とよく似ているからだ。

私は驚きっぱなしの心を笑顔で取り繕い、冷静に話し始めた。

お読みくださりありがとうございました。

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