第二百七十八話 守る力が足りないって気づいたから
パチッ──
目を開ければ木の天井、体はふかふかのベッドに包まれて、だけど身動きは全く取れない。
「………」
どういう状況だコレ。
え、マジで何。なんでこんな森の中とは思えないほど贅沢な空間にいるの。木の匂いで安心してふかふかベッドの魔力で寝ちゃいそうだよ。
私あれだよね、気失ったよね。なんかリアンとライアンが焦る様子を見ながら気絶した記憶があるもん。
ならどこだよここ。
「前にも似たような事あったな…」
フェアリーコロシアムで気絶させられて、全く知らない部屋に放り込まれてた。そこでディウネ達に出会って……そういえば、あそこで見たヨルが最後だったっけ。私が眠っている間に消えちゃったから。
「…はぁ、やめよ。今思い出す事じゃない。とりあえず身動きを…」
ギチッ──
はい!出来ません!何このキッツイ縛り方は!痛いにもほどがあると思います!
この状況で寝てたって、私どんだけ図太いんだろう…。自分に感心するわ。
自覚すると自分を縛っている縄が腕に食い込んでいるのもめっちゃ痛くなってきた。マジで早く抜け出したい。………この際、大声出して人を呼ぶのもアリか?何もせずに待ってても時間が過ぎるだけだし、早く神龍を探さないといけないし…。
「あーあー……よし」
発声良し!
ここがどこだかわかんないけど、敵味方どっちにしろ私をベッドの上に寝転がらせてる程度には丁寧に扱ってる。すぐに殺されるとかそういう事はないだろう。きつめに縛られてるから大きく息を吸うのも痛いけどできる限り息を吸い込む。
だけど、私が大声を出す事は叶わなかった。
ガチャッ──
「ゲホッ!ッ…ケホッ!」
「あれま、起きたのかい?」
吸いすぎた息の行き場がなくなった事で咽せてしまった私に声をかけたのは、この部屋の扉を開けた老婆だった。
「なんだいアンタ、喉でも悪いのかい?それなら薬でも持ってくるよ」
「だ、だいじょ、ぶ…です…」
「女の子が無理しちゃ……って、なんだいコレは。こんなキツい縛り方したらそりゃ苦しいさね」
「えっ」
お婆さんが手伝ってくれた事で起き上がる事が出来て、お婆さんは咽せた喉が治るまで私の背中をさすってくれた。え、何コレ。すごい優しいぞ…?
「最近の若いもんには困ったよ。女の扱い方もろくに知らないとは…」
「あ、あの…」
「あぁ悪いね。森にアンタらが入ってきたってんで悪ガキどもが悪戯しちまったんだよ。それでアンタらの馬が暴走したのさ。もう落ち着かせてあるから、アンタらもさっさと出て行った方が良いよ。あとは私が話をつけておくから」
説明しながら器用に縄を解いてくれたお婆さんは「アンタの連れのところに行こうか」と私を立たせようとする。
いや、ちょっと待ってくれ。私の目的はそれじゃない!
「あの!お婆さんってエルフですよね…?」
長く尖った耳に色素の薄い銀髪。エルフの特徴とバッチリ合うその人は、私の問いに眉を潜めた。
「…アンタ、もしかしてエルフを探してこの森に入ったのかい?それなら本当にさっさと出て行っとくれ。ここには人嫌いが多いんだから」
「あ、いや、確かにエルフは探してましたけどそういう事じゃなくて!少し協力してほしい事があるんです…!」
「………」
少しの間黙り込んだお婆さんが、諦めた様子で溜息をつく。
「アンタ、高位のお貴族様ってとこだろう?」
「えっ、なんで…」
「見りゃわかるよ、年の功ってやつさ。………良いかい?世の中なんでも自分の思い通りになると思ってんじゃないよ」
「そんな事は…!」
「思ってるやつは大抵、自分はそんな事思ってないと思い込んでるもんさ。アンタの連れの男どももだいぶ腕が立つみたいだね。うちの若い衆が重症負うなんて相当だよ。そういう奴らに守られてきたお姫様には、さっさとお家に帰る事をお勧めするよ」
並べ立てられた言葉はどれも私に当て嵌まる事だった。確かに私は守られてきたお姫様だから。強い人に守ってもらって、力がある人に協力してもらって自分の思い通りにしてきた。それができる立場だったから、思い通りにならない事の方がきっと少ない。
けど、だから何?
私は、自分だけを守りたいなんて思ってない。他の人を守ろうとして、守る力が足りないって気づいたからここにいるんだ。
「全部が全部思い通りになった事なんて一つもない…だから、だからここにいるんです…。会えるかもわからない存在を探して、そうしないと何をして良いかわからないからっ。自分にできる事がどれだけ少ないのか突きつけられたからここにいる…っ!勝手に私の今までとか、気持ちとか思い込みまで全部決めつけないで!」
人に「お前はこういう奴だ」と決めつけられるのは凄く嫌いだ。自分の今の気持ちを否定される事を良しとする人なんているはずがない。指示を待つのは簡単だから良いかもしれないけど、全部決めつけられてレッテルを貼られるのは苦しくて仕方ない。
ていうか、そもそも私なんで見ず知らずのお婆さんにこんな窘められてるわけ?いや、こうやって反論してる状況自体がよくわからないわけだけども。
「……年の功か何か知りませんけど、全部わかった気で話すのやめてもらえますか?」
ギロリと睨みつければ、お婆さんは目を見開いて驚いていた。
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