第二百七十五話 思案した結果
思案した結果、馬を貸している店主の提案が採用される事になった。
「待って待って待って待って!!!!速い!!!!!無理!!!!!」
「はい!?なんですか!?聞こえないです!」
「止まれって言ってんですよ!!!」
馬が速すぎて二人乗りしてるのに会話すらままならない今の現状を誰か説明してくれ!!無理!死ぬ!何これ怖い!!!
目の前を走るリアンに置いていかれないため、何より安全面的な事を考慮して後ろの私の様子を確認できないライアンが「すみません!!!」と意味もなく謝ってくる。いや、うん、配慮してくれてるのはわかってるんだけどもね!?
「あの店主次会ったら文句言ってやる!!!」
店主が提案してきたのは、二頭を貸し、そのうちの一頭に速さをアップさせる魔道具をつけるというもの。店主自身も客の要望に応えられない事を申し訳なく思っていたようで、魔道具はタダで貸してくれた。そこまでは優しい人だと思った。うん、思っていたよ!その時までは!!
けど実際乗ってみたら心臓止まるレベルで怖いんですけど!?
そもそもろくに馬に乗った事のない人間がいきなり早馬に乗せられるってどういう事だよ!仕方ないにしてもどういう事だよ!
リアンとライアンは乗馬もお手の物で、わけもわからず叫び続ける私を無視してさっさと先へ進んでいく。途中で気絶しそうになったが、保護魔術やらのおかげで無理だった。もういっその事気絶できてしまえばどんなに良いか…!!
そんな状態が、一晩続いた。
───
「お前らは私を殺す気か」
濡れたタオルを額に置いて背中を大岩に任せ、ギロリと睨み付ける。
正座しながらプルプルと震えてこちらを伺ってくるリアンとライアンは、さながらチワワのようだ。
「ま、まぁ皇女様、おかげで三日かかる距離を一晩で来られたわけですし…」
「そうです第二皇女殿下!もう目の前は東の森!エルフが守る森の中でも一番忌み者が多いと言われてますし…ね!」
「そうそう!良い事言うなライアン君!」
「当たり前の事だわアホリアン。ライアンも、謝るより先に言い訳するなんて良い度胸だね」
「「うっ……すみません…」」
声を合わせて謝ってくる二人が一層縮こまり、なんだか私が悪者みたいになってきた。………そろそろ許してやるか…被害者は!こっちだけど!ね!
「はぁ……まぁ、二人が十分配慮してくれてたのはわかってるよ。確かにノンストップだったけど、それは神龍に会う事が最優先事項だからだし…」
神龍に会っても何ができるかわからない。けどもし何もせずに時が経って、神龍がリリアの味方についたら、きっと姉様が幸せになる未来は完全に消えてしまう。それだけは阻止しないといけない。だから、どこにいるかわからない神龍を探し出して、どうにかリリアに協力しないでほしいとすがる。それしか今できる事はないと思うから。
「……先に進もうか」
「お体の方は大丈夫ですか?」
「馬に乗りっぱなしで筋肉痛だけど、それ以外は回復したよ。もう馬に乗って酔うなんて体験はしたくないわ…」
「ははっ、すみません…。ここからは探索が目的なのであそこまでの速さは出しませんから安心してください」
当たり前だ!と言いたくなったけど、気遣われてる自覚はあるのでグッと抑える。額に当てていた濡れタオルを退かして、風が吹き抜ける東の森へ視線をやった。
少し濡れた額に風が当たって気持ち良いけど、それ以上に空気が美味しい場所だ。きっと森の中はもっと空気が澄んでいるんだろうなと想像して、確かにエルフが住むに相応しい森だとも思う。
「森全体を見るのは無理だから、できるだけ神龍がいそうな場所を絞りたいよね」
「案内人になってくれる人がいれば良かったんですが…」
「神龍探しなんて絵空事を真に受ける案内人なんていないでしょ…それに、私達の正体を万が一にも知られると困るし」
「ですね。色々と考慮して一番手っ取り早い方法は…その、一つしか思いつかないのですが」
「わかってる!わかってるけど待ってくれ!」
それを選択した場合、最悪三日以上拘束される可能性があるし、ていうか殺される可能性も出てくるって事を分かってるのかなリアン君!!いやそれが今の最善なのかもしれないけども!!
「一番良い方法があるんですか?」
ライアァァン!!!なんて純粋な眼で見てくるの!?え!?この子ここで鈍感を発動させるの!?
「…ライアン君、エルフの事についてどれだけ知ってる?」
「身体能力が高く、清い森に好んで住んでいる種族だとは授業で習いました」
「じゃあその性格は?大雑把で良いから」
「確か…誇りが高く、他種族とはあまり交流を持たないと。警戒心も強くて余所者が里に入ってくるとすぐに排除しようとする、という話は聞いた事があります」
リアンの質問に真摯に答えるライアンの言葉を聞くたび、私とリアンの肩には重い何かが積み重なっていく。どうして私とリアンが肩を落とし続けているのかと首を傾げるライアンに、正直に教えてやった。
「一番手っ取り早い方法はね、ライアン。そのエルフの里に入って、案内を頼む事なんだよ」
ライアンが目を見開く。それもそのはずだろう。だって、ライアンの答えはある程度オブラートに包んでいたものであって、実際エルフはここ数十年の間、人間と一切交流をとってこなかった種族なんだから。
「………えっ」
やっとライアンの口から溢れた一音が、虚しく風に拐われて行った。
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