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第二百七十四話 プレゼントした黒馬

最後だけ視点なしです。

ブレアが知っている神龍の情報と、ラニット、ライアン、リアンの三人から聞いたエルフの里の場所。その全てを総合すると神龍がいるだろう場所をほぼ二箇所に絞る事ができた。


「二手に分かれるか…」

「僕と皇女殿下がそれぞれ分かれるとして……もし万が一僕が行く方に神龍がいた場合、皇女殿下のお願いは僕から言う?それとも皇女殿下を呼んだ方が良いのかな」

「どっちでも。話を聞いてくれそうなら早い方がいいし、聞いてくれないなら直接私が言う」

「うん、わかった」


面倒事は嫌いだが、一度決めたなら即行動。それはブレアも同じだったようで、結局私はライアンとリアンを連れて、ブレアはラニットを連れて二手に分かれる事となった。

一緒に行動しなくて良いのは不幸中の幸いってやつだろう。私の目の前で怪我でもされたらその瞬間にサディアス教国を敵に回すかもしれないし…まぁ、ついて来たのはブレアだから自業自得だと言い張る事もできるけど。ラニットが付いていればとりあえず死ぬ事はないはずだ。

そうとわかれば勝手にやろう。手間なく二箇所を攻められる事に感謝しようじゃないか。


「え?二頭しかいない…?」


と、思っていたらこれである。私達が向かうエルフの森は東に位置しており、私達がいるサディアス教国とは結構離れていたりする。そのため魔術を施しても平気な馬を借りて向かおうという事になったのだが、どうやら残りわずかなようで私が乗るための馬がいないようだった。


「いや、それ以前に馬乗れないからね、私」

「そんな事はわかっています、皇女様。ですが二人乗りですとどうしても速度が落ちるので魔道具フル活用で皇女様一人でも馬に乗ってもらおうと思っていたのに…」

「リアンって意外とスパルタ?そういうところリンクとそっくりだわ…」


扱かれていたイザベラ達の姿が目に浮かぶ。不意に弟と似ていると言われてどう反応して良いのかわからなかったのかリアンが「えっ」と驚きながらも、馬を貸し出している店主が妥協案を提案してくるとすぐに話し込み始めた。こうして見るとリアンはすごく仕事ができるように見える。リディア夫人の教育の賜物なのかね。


「ねぇライアン、私よく知らないんだけど魔術を施せる馬ってどれくらい速いの?」

「そうですね…普通の馬で一週間かかる距離を最低でも三日で行けます」

「そんな速いの!?」

「いや、最低でも、という話ですよ。第二皇女様のような皇族の方々は最上級の馬をご使用でしょう?馬車で寝泊りなんて滅多にないのでは?」

「え?あぁ、確かに他国に行く時も1日で着いてたかも…」


寝泊りをした事ないわけじゃないけど、それはどれもイレギュラーな場面だったような気がする。あと、外に行く時はいつもクレイグが一緒にいたから魔術系は全部任せてたんだよね…そのせいで魔術関連の知識が皆無だわ…。うん、これ自業自得だわ。ちゃんと勉強しとかないと世間知らずどころの話じゃ済まなくなりそうだ。


「まぁ転移術式や馬車自体に魔術をかけるとかもないわけじゃないですけど…森に入るなら馬の方が良いですね」

「そういうもんなのか…」


よくわからない場所に無理やり転移するより、早馬で探索しながら進んだ方が良いというのは理解できる。私は一人納得し、そして思い出した。そう言えばヨルにプレゼントした黒馬はどうしていたっけ、と。ヨルと一緒に消えたならクレイグが報告するはずだし、もしかしてあの子も置いて行ったのか、ヨルは。

随分と足の速い子だったけど、もしかしてあの子も魔術を施してたのかもしれない。一番綺麗な子を選んだだけなんだけど、今考えるとあの子を買った商人も皇族御用達の人だったし、性能は保証できてるはず…。


「相場がわかんないからどうも言えないけど、もしかして私結構ヨルに貢いでいたのでは…」


浮かれて正装まで特注で作らせたし……なんか、ちょっと恥ずかしくなってきた。はぁ、今頃ヨルも、あの黒馬の子もどうしているのやら…。


───











「お疲れ様です」


馬の厩舎に顔を出したのは第三屋敷に住み込みで働いている職人だった。屋敷内に厩舎を作ったは良いものの馬の世話をする人間がいなかったために、皇族がよく利用している厩舎にある一頭の馬を預けているのだ。


「リンク様が顔を出してくださるなんて珍しいっすね」


まだ年若い厩舎の使用人がにこやかに話しかける。


「色々忙しかったんだ…まだ落ち着いたとは言えないけど、ここにいるのはあの人の馬ですからね。しばらく忙しくて会えなくなる前に、一度だけでも顔を見ておこうかと思って…」


そう言って預けた一頭の馬がいる馬房を覗き込んだ。

そこには大層綺麗な黒い毛並みをした黒馬がおり、手入れが行き届いているところを見ると職人が嬉しそうに笑う。


「クレイグさん達は怒ってるけど、正直俺はなぁ…」


ぼそっと呟かれた言葉は、できれば誰にも聞かれたくないものだった。ピリピリした屋敷内では特にだ。正直な話、少し息抜きをするために顔を出したと言っても過言ではない。


「………帰るか」


本当に気休めばかりの息抜きをして、職人が浅いため息をついた。屋敷にいる学生達の対応で疲れが溜まっているのだろう。だから、気づかなかった。


ヒヒィーン──


いつもは大人しくしているはずの黒馬が、荒々しく足を上げていた事に。


「なっ…!?」

お読みくださりありがとうございました。

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