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第二百六十五話 こんなに心強い事はない

途中から視点なしです。

『好き勝手にも程があるだろう、それは…』


若干引き気味に返事をして来たブラッドフォードに、確かにな、と心の中で相槌を打つ。

けど後ろに控えているクレイグならわかってくれるだろう。私は一度キレたら国の王様の頬でも、未来ある次期宰相様でも殴ってしまうんだから。


「あとできれば賊を装うでも、戦争するでも良いのでアルバを襲ってくれるとありがたいですね」

『待て待て待て待て!そ、それはつまりどういう事だ…?』


混乱して焦っている顔は存外クリフィードに似ていて、やっぱり兄弟なんだなぁと実感する。けど癇癪を起こさずに聞いてくるあたりはブラッドフォードの方が幾分か大人だ。


「姉様がいなくなった場合、疑われるのはカタルシアです。そうなると父様が探しに乗り出るのは確実なので、それを隠す意味でも、揺動する意味でも賊や戦争を仕掛けるのが一番なんですよね」

『そういう事なら理解はできるが……たとえ揺動が成功したとしても、アルバに姫君が着かなければ結局皇帝は捜索するんじゃないか?』

「あぁ、その点はご安心を。今回は、父様に対して最強のカードがあるので」

『?』


クロス・クリーンのストーリー上、父様はどうしてもヒロイン側についてしまう。闇落ちした姉様を最後まで信じてはいたけど、結局は最初にヒロインとクロードの結婚を認め、姉様が「兄の代わりに後継者を産む事を望んでいる」と勘違いして結婚させてしまう父様だからだ。現に今だって姉様を止めるどころか、ヒロインがいるアルバへ送り出そうとしている。

けどクロス・クリーンで唯一、姉様の結婚を反対した人がいた。

あまり描かれてはいなかったけど、最初から最後まで娘の言葉に耳を傾け続けてくれた人。外へ出歩く事すら滅多にないが、皇城内外での影響力は皇帝と同等だ。あの人が味方でいてくれるなんて、こんなに心強い事はない。


「大丈夫です。私達の母は、子供を見捨てるような人じゃないですから」


───












時は数時間前に遡る。ブラッドフォードとの話し合いを控えていたアステアは、急遽皇后であるロゼッタに呼び出されていた。


「私もお会いしなければと思っていたので有難いです、お母様」

「有り難がられる理由はないわ。それよりさっさと座りなさい」


アステアは素直に椅子に座る。この場には従者の誰一人として同席していない。皇后が許していないのだ。


「………カリアーナの件、どういう事かしら」


苛立ちを隠さない声に、アステアが「やっぱり…」と声を溢す。


「母様は、姉様を引き止めてくれるんですね…」

「?」


皇帝はゲームの流れに飲み込まれたようにカリアーナを説得する事もなく結婚を承諾してしまった。攻略対象すら決まっていないはずなのにストーリーが進むわけがない。その考えは覆され、世界はヒロインを中心にしているように大きく回り始めている。少なくとも、アステアの周りでは頭を抱える事ばかりが起きているのだ。けれど確かに、ゲームでも姉を大切にしてくれていた母は、現実でも姉のために怒ってくれている。その事実が、純粋にアステアは嬉しかった。


「姉様には事前に教えてもらっていたので、知っていました」

「…そう。ごめんなさいね、少し貴女を責めるような口調になってしまったわ。ここに呼んだのは貴女の事が心配だったからなのだけど……もしかして、カリアーナの結婚を容認したわけじゃないわよね?」

「声を大にして言わせてもらいますけど、あり得ないですね。私が止めようとした時に問題が起こって引き止められなかっただけです。なのでお母様には協力してもらって、一緒に姉様を止めたいと思っています」


酷く開けっ広げに告げられた言葉はお願いとは言えず、ロゼッタは完全に「協力しろ」と言われているような気分になった。まぁ最初からそのつもりだったので構わないのだが、アステアは相当頭に血が昇っているようだ。


「頭に血が昇りすぎて判断を鈍らせないようにね」

「わかってます…それで母様には…」

「基本的に自由に動かせてもらいます。貴女の不利にならないように動くつもりだから大丈夫よ。何をするのか具体的に決まり次第伝えなさい」

「わかりました。では、これからフィニーティスの王太子殿下との話し合いがありますので…」

「あらまぁ、カリアーナの白馬の王子様かしら?」

「そうです。けど今回は、ちょっと山賊とかのところまで落ちてもらおうかと」


冗談交じりに笑うアステアはどこか楽しそうだけれど、確かに怒っていた。ロゼッタは娘のそんな姿を見て「随分と気に入られているのね、珍しい」なんて、これから娘と話し合いをするという王太子に同情的な気持ちになってしまった。今の娘と話して誰が優位に立てるというのか。きっと口で勝てたとしても、結局はアステアの側にいる執事やらに暴力的なまでの力を見せつけられて脅されて終わりだろう。けれど、自分だって怒っているのだ。

夫に対しても、長女に対しても。きっと沈黙を守るのだろう皇太子に対しても。


「カミラ、今すぐ正装のドレスを持ってきてちょうだい。久々に皇城へ行く事になったわ」

「かしこまりました」


アステアと入れ替わりで現れたメイドに、ロゼッタは妖美なまでの顔で微笑んだ。

お読みくださりありがとうございました。

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