第二百六十三話 問答無用で欲張りに行こう
「アステア様!!」
ノノを寝かせている部屋から一歩出ると、いきなり目の前に現れたのはディウネだった。ノノが暴走した時にはジュードの元へ行って勉強していたので、おそらく帰ってきてから事の顛末を聞いたのだろう。
出来るだけ安心させるように笑いかけ、ディウネと同じく心配そうに駆け寄ってきた面々を見渡す。各々が罪悪感やら心配やらで暗い顔をしていて、全員が全く似合わない顔をしている事に胸が痛んだ。
「とりあえず、落ち着いて話をしよう」
部屋の前で突っ立っていても足が痛くなるだけだろう。私が提案するとみんな素直に言う事を聞いてくれて、掃除だけは丁寧にされている全く使った事のない会議室へ入った。
ちなみに子供達や魔法の事を教えていなかったイザベラ達には自室にて待機してもらっている。ノノの暴走を見られたからには後で説明しないといけない。子供達はノノが暴走した事によって恐怖心が煽られてしまい、部屋から出てくる様子すらない有様だ。あと、ライアンは自室へ戻るように言うと風呂嫌いの犬並みに暴れ回ったので、秘密を何があっても守るようにと騎士の誓いを立てさせる事で会議室へ通す事にした。私にヨルの事を聞いてきた時のように、一時的にとはいえ近衛騎士としての仕事を完遂しようとしているのだろう。
全員が席についた事を確認し、部屋を出た時同様各々の顔を見渡して行く。
クレイグ、エスター、リンク、ディウネ、ライアン、レントさん。姉様とレイラは私の知らない間にさっさと帰ってしまった。じっと私を見つめる六人に、最初に自分の思っている事を伝えよう。
「私は今まで忠誠が重いモノだと思って背負わないようにしてきた。それが私にとっての最善だったから、今でも後悔はしてない。そう思いながらここまでやってきたら、クレイグもエスターもリンクも私に着いてきてくれた。後ろを振り向いたら心強いクレイグ達がいる事に安心しきってた。………けど、その安心は私が無茶をして、それによって降りかかる火の粉を払い除ける事ができる力への安心だった部分もあると思うんだよね。もちろんクレイグ達が側にいてくれるだけで安心していた事は事実だけど。けどさ、今私にはなんの火の粉も降りかかっていないんだ。勘違い変態野郎に襲われているわけでもない、ムカついた人に殴り込みに行くでもない、リンクを家から引っ張り出すわけでもない、馬鹿親を迎え撃つわけでもない、皇帝に歯向かうなんて馬鹿な夢を見ている奴を懲らしめるわけでもない。ただ、ノノが死にかけているだけ」
それなのに、私は今何もできない。
「クレイグ達は私の力そのものだよ。私に降りかかる火の粉を払うために走り回ってもらうし、私がやりたいと思った事には全力で協力してもらう。けど今、私がノノを救いたいって思ったら、走り回っても迷うだけだし、協力したとしても何をすれば良いのかわからなくなる。クレイグ達が劣ってるんじゃない。私が欲しいものだけ手に入れようとして、私の側に来てくれた人達の事を深く考えてなかったからこうなってる。攻撃する力だけがあっても駄目なんだって、思い知った」
突き進む力があっても、振り返る事ができなきゃ足元を掬われるし、守るべきものを置いて行っちゃいだけなんだ。そんな当たり前の事に、気づく事ができていなかった。
「───…だからこそ、強く思った。手放したくない、嫌だって」
ノノが控えめに服の袖を掴んできたり、笑ってくれた時の事を思い出す。拙いながらに書いてくれた手紙は大切に保管してる。もうすでに情があるんだ。可愛い弟のようだと、決して死なせたくはないと。
そして何より、大好きな姉様が勝手に…言い直そう。私をムカつかせるほどに意味不明な行動をとった事にも当然怒っている。
ノノを守れない事と同じように、姉様を救い出す力もない。
だけど、どっちも手放したくない。
弱気になっていたからか忘れていたけど、私は元々欲張りなんだ。兄様とヒロインの縁を姉様のために切ってやったり、鎖に繋がれていたヨルを問答無用で騎士にしたり、リンクを引き抜いたり、姉様の恋が成就するために走り回ったり、馬鹿親をムカつくから退治したり、ジュードにこき使われてた子供達を引き取ったり。本当、欲張り過ぎて笑えてくるくらいなんだ。
だから。
「………クレイグ達は私の力なんだから、私のために走り回って私に協力してくれるでしょ?」
当然のように言ってやり、クレイグとリンクが呆れたように、エスターが自信満々に笑うのを見て笑い返した。自分も協力する!と主張するかのように見つめてくるディウネとライアンにも頷き返して、呆れ返っているレントさんには苦笑いをする。
「これが私の思ってる事。みんなが頷いてくれて良かったよ。これで思う存分、欲張りになれるから」
弱気になるのは人間仕方ない事で、心が変わるのも仕方ない。………ここからは弱気になるより先に、問答無用で欲張りに行こう。
お読みくださりありがとうございました。
※最近読み返して色々と矛盾点や設定違いが起こっている事に気づきまして、出来るだけ修正しています。ですが基本的に趣味で書いているものなので、もし気付いたとしてもお見逃しください。申し訳ありません。




