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第二百五十八話 違和感に顔を顰めて

視点なしです。

最初におかしいと気づいたのはクレイグだった。

部屋にエスターも一緒にいるのだからと応接間の扉の前で待機していたクレイグに、アステアがカリアーナを案内すると言ったのがつい先ほど。自分もそれについて行こうと申し出たクレイグに、カリアーナが無言で首を振ったのだ。


「…?」


どこか引っ掛かりを感じるその行為に、アステアとカリアーナの後ろをついてきていたエスターも首を傾げている。結局、エスターと揃ってついて来ないでほしいと言われてしまい、クレイグとエスターの二人は取り残されてしまった。


「第一皇女様にしては珍しいですね。私達が一緒に行くのを許してくれないんて…屋敷の中だからかな…?」


そんな理由ではないだろう。カリアーナはアステアの姉として、アステアが異常なほどに慕うだけの聡明さを持ち合わせている。何も考えず、剰え屋敷の中だから良いだろうと、最近倒れたばかりのアステアから従者を引き離したりはしないはずだ。

エスターもクレイグが腑に落ちていないとわかったのか、数秒押し黙ると「レイラ様に話を聞いてきます」と呟いた。


「レイラ様は玄関で待っておられるので…」

「近衛騎士が…ですか?」

「はい。一緒にいなくて良いんですかって聞いたんですけど、今日は大丈夫だとかで」


それもおかしな話だろう。アステアはともかくとして、クロードやカリアーナの近衛騎士は模範のように主人にべったりなはずだ。

なのに今日に限っては側を離れている…?

クレイグは嫌な予感が胸を騒がせる不快感に眉間の皺を深めた。思考を巡らせるばかりでは何もわからないのだから動くしかない。

エスターにレイラから話を聞くようにと指示を出し、クレイグは足音を潜めてアステアとカリアーナの後を追う事にした。


───











アステアとカリアーナは子供達が遊んでいる庭へ来ていた。最初こそカリアーナに怯えていた子供達だが、アステアが気を許しているところを見て安心したのかすぐに慣れる事ができていた。

これも人慣れの第一歩だとアステアが子供達を褒める。


「おかし!」

「それとこれとは話が別です〜。エスターに許可もらえたら良いよ」

「エスターのお姉ちゃん怖いもん!」

「そーだそーだ!!」

「クレイグ先生も飴くれるけど怖いもんね〜」


内心自分に「これは餌付けか…?」なんて、お菓子をねだってくる子供達を見て呆れたアステアは、後ろでクスクスと笑っている姉を見やった。


「アステアが幼い子供達と遊んでいるって、なんだか不思議ね。今までに見た事ない組み合わせだわ」

「わ、笑わないでよ…!」


なんだか恥ずかしくなって顔を赤らめたアステアは、くいくいと服を引っ張って来るノノの頭を撫でる。可愛い子供達に最愛の姉、なんとも幸せな空間だけれど、アステアは何か様子がおかしい姉に違和感を感じていた。

お互い普通を装っているが、アステアは探るように、カリアーナは隠すように笑っている。


「アステア様〜!」


そんな中だ、少し能天気な声が聞こえてきたのは。最近なぜだか機嫌の良いリンクが、対照的にゲッソリと痩せ細ったライアン達を連れてやってきた。


「………一応聞いとくけど、その後ろのは?」

「少し扱いただけです」

「絶対違うでしょ!なんなの!イザベラとロックはわかるけどなぜにライアン達まで!!」

「扱いてほしいってお願いしてきたのはライアン達の方ですよ?ソフィアは扱く以前の問題で体力なさすぎでしたけど」

「元小伯爵のくせに女の子相手にも容赦ないのね…」

「女性以前に騎士でしょう」


もう何も言うまい…アステアはリンクの後ろで真っ白に燃え尽きているライアン達を見て思った。


「ふふっ、昔のレイラみたいね」


そう言って笑ったのは、いつの間にか子供達から花冠を贈られていたカリアーナだ。脳内カメラで連写を始めたアステアが「昔のレイラ?」と平常心を保って聞き返す。


「えぇ。レイラも昔は扱かれて彼らのように窶れていたのよ。懐かしいわ」


きっとレイラにしてみれば思い出したくない過去だろうな、なんて燃え切っているライアン達を見て思ったアステアが、「一応紹介する?」と聞く。するとカリアーナは、「彼らは平気よ」と答えた。


「だって、この子達はアステアの元を離れるんでしょう?」

「え?あぁ、まぁ…ライアンは兄様の騎士になるだろうし、他の子も私の騎士になる可能性は限りなく低いけど…」


そんな事を聞くなんて姉様らしくないね、と言う言葉はなぜだか出なかった。アステアはだんだんと嫌な予感へと変わっていく違和感に顔を顰めて、けれど平常を装う。


「良いのよ、今日はアステアの側にいてくれる人達を見に来たんだから」

「?…それってどういう…」


アステアが首を傾げるけれど、その問いに答えずにカリアーナが屋敷の方へ戻っていく。アステアはいつもならあり得ない姉の行動にさらに首を傾げながら、「姉様!」と呼び止めながらもその後を追った。

───…もしかしたら、ディウネがいたならば分かったのかもしれない。水面に浮かぶカリアーナの心が、まるで操り人形のように冷え、苦痛の念に蓋をするように閉ざされていた事に。

お読みくださりありがとうございました。

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