第二百五十五話 第四章では
…………おかしい。
何がおかしいと言えば今現在の状況だ。アルバに姉様を要求されて早四日。インターンシップでイザベラ達が来たり、リンクがイザベラ達を扱いて生き生きしていたり、ディウネにジュードの処罰を決めさせたりと色々あったけど、まぁ至って平和だった。
なのだけども。
平和が一番だと思うが、この屋敷の中が平和だとしてもなんで外も平和なのか。
姉様を要求されて父様と兄様が黙っているわけがない。なのに二人が動く気配はなく、要求している側であるアルバも様子を伺っているのか動く気配はない。
秘密裏に動いている可能性も捨て切れないけど、どうも嫌な予感がするのは気のせいだろうか。姉様や私の事になると血の気が多くなる父様と兄様や、何を考えているのかわからないアルバが動きを止めている原因…まるで何か得体の知れない力が動いているような感じ…。
「………一番怪しい線は、やっぱりアレなのかな」
聖女の力、またの名をヒロイン補正。リリアの内に秘められたヒロイン特有のチートみたいな力だ。その力のせいで最後の最後、悪役である姉様がリリアを殺してもリリアは無傷の復活を遂げちゃうわけで。
リリアが聖女の力を持つ人間だと判明するのは、クロス・クリーン第二章。
清らかな聖女ゆえに子供を作る人間的機能は不要であり、その存在はただ世界のためにのみ有れば良いという話だった。だがそこで口を出すのがもちろん攻略対象とヒロインで、ヒロインは聖女としてではなく人として生きたいと願ってしまう。
その声に耳を傾けたのは、好いた人を一途に思うヒロインの健気さに胸打たれた神様。ヒロインの祈りが届き、晴れてヒロインは攻略対象と皆から祝福される恋人または夫婦になる。
まぁそこで問題になるのがすでに無理矢理結婚させられて子供を産んでしまっている哀れな悪役達で、そこから第三章に突入するんだけど。
今、リリアは聖女から人間に戻っていない。
攻略対象と結ばれていないんだから普通の人間に戻りたいと思う以前に、なぜ自分が子供を産めないのか原因すら知らない状態のはずだ。だから今、リリアは純然たる聖女。存在する事で世界の平穏を守り、何も知らず生きているはずなのである。
あ、ちなみにリリアが第二章で聖女をやめたはずなのに第三章で聖女の力ゆえに復活しているのは一重にヒロイン補正の力です。窮地の時はなりふり構わず神様に祈って助けてもらえるとかさすがヒロイン。
まぁ長々と話したけど、問題は第四章。
第四章になるとやっと隠れ攻略対象、神龍の出番が回ってくる。
そう、そうなんですよ奥さん。クロス・クリーンって隠れ攻略対象がいるんですよ、第四章にしか出てこないからって全く気にしてなかったんだけど!!いや、ちょうど手元に龍の本とかがあった時は気にして読んでみましたけど!?まさかこのタイミングで思い出すとかいやにリリアと神龍と繋げちゃうじゃんか!!
第四章では、リリアに聖女であるという事実を伝えた張本人である謎の老人が再登場し、リリアに「世界が危機に瀕している」と告げるのだ。
悪役を倒し幸せを手に入れていたリリアは大慌て。なぜだと聞けば、老人は「世界の平穏を保つ存在である聖女が消えたから」と、遠回しにリリアのせいだと教える。そして苦悩しまくった末にリリアは聖女に戻る事を決め、神様に直談判する。
だけど神様は心が広いのか狭いのかリリアの願いを突っぱねて、もう世界滅ぼすとか言っちゃうわけでして。
結果、登場するのが神龍だ。
森深くに眠っていた神龍に力を借り、どうしてもこの世界を救いたいのだと神様に縋り付いたヒロインに、神様も「わかったわかった」と許可を出す。
そして子供が産めない代償に聖女に戻ったヒロインは、悪役達の実子である罪なき子供を引き取り、攻略対象と仲良く暮らすのでした、チャンチャン。
「説明するだけでなっがいわ…」
でも一番の問題が残ってる。ストーリー全てが終わった後に隠しルートとして神龍を攻略できるようになるのだが、そこで明かされた事実が一番厄介なのだ。
──神龍は聖女に逆らえない──
神龍がリリアを聖女と認めて初めて逆らえなくなってしまうのだが、それが妙に引っかかって仕方ない。
だって、アルバがカタルシアに喧嘩を売って勝てる可能性なんてゼロに等しいんだから。けどアルバが神龍を従わせる事ができれば、カタルシアには大勢の死人が出るだろう。
あり得ない、と言えなくもない話だ。現にリリアには聖女の力があって、その力がなくなれば世界は終わるとかよくわからない設定があるんだし…。
でも、もし神龍が今回の事に関与しているとして、だったらなんでアルバは力尽くで奪いに来ない…?
何か神龍を動かせない理由があるのか、王が崩御してすぐにカタルシアに喧嘩を売ったせいで内紛でも起きているのか……それとも、まさかまだ神龍を手に入れられていない…?
「これは専門家に詳しく聞くしかないかな…」
お読みくださりありがとうございました。




