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第二百五十三話 その決意に応えるとしよう

クリフィードから手紙の返しが来てから少ししてドリューからも返事が来た。どうやらドリューは今回我関せずを貫くらしい。アルベルト側につかれると複雑ではあったので有難い事だ。


「クレイグ、ドリューのところにお酒…はやめた方がいいか。香りの良いお茶を送っておいてくれる?」

「かしこまりました。今日はどうされますか?」


クレイグに問われ、少し考える。生徒達はクレイグに課された訓練を黙々と進めているし、今はライアンも訓練に参加しているところだろう。リンクとエスターは子供達と一緒に代わりばんこに見張り…もとい、様子を見てくれている。

正直私が今、早急にしなければいけない事はないんだけど…。


「………そういえば、ジュードの処罰は決まってなかったっけ」


子供達を地下に閉じ込めて魔力を吸い取り続けていた、馬鹿な男。ふと思い出してしまえば胸の内に不快感が広がったが、それと同時に母様と話した時の言葉も思い出した。


──近々処罰される予定でいるけれど、まぁそれは貴女次第って感じね──


ごく自然に流してしまったがあれは本気だったんだろうか。ジュードが処罰されればまず最初に怪我を負わされた私のところに話が回ってくるはずだ。けど今はアルバから姉様を要求されてピリピリしているからジュードの処罰どころではないのだろう。………あの言葉が本気なのだとすれば。


「クレイグ、今日の予定が決まった。ディウネ呼んで来てくれる?」


私自ら会いに行ってやろうじゃないか。


───











「あ、ああああああの!こここここどこですか!!」

「そんな震えなくても怖くないよ」


携帯のマナーモードばりに震えているディウネに苦笑いしながら、小さな明かりだけが頼りの道を進む。先導してくれているクレイグも少し肩を震わせているから絶対笑ってる。それくらいに怖がっているディウネは、ここがどこかまだいまいちわかっていないようだ。


「あ、アステア様…?」

「……うん、もうそろそろだよ」


そう言って先導してくれているクレイグの前方を見る。すると見えてきたのは、たった一つある牢屋だった。


「!!」


ディウネの纏う空気がブワッと恐怖から警戒を帯びたものに変わる。もしかしたらそこには憎しみなんてものもあるのかもしれない。


「久しぶり、ジュード」


私が声をかけると鎖で繋がれた男がのそのそと顔をあげた。顔は痩せこけていて、初めて会った時の笑い顔とは雲泥の差だった。


「俺を笑いにきたか」


その言葉は誰に向けられたものだったのか。私とディウネを見据えた瞳は虚だ。


「随分と自分を過大評価してるみたいだね。あんたを笑うためにこんな暗いところに来ないでしょ」


ハッと鼻で笑ってやればジュードは緩やかに頷き「そうだな」と答えた。その姿があまりに素直で、一人で投獄されるとここまで人が変わるのかと驚いてしまう。

けれど隣で何故かクレイグが物悲しそうな顔をしているものだから、ジュードがここまで弱っているのには他の理由があるのかもしれないと思った。


「………ここに来た理由は、貴方の処分を決めるため」

「!」

「処罰を拒否する事はできないから覚悟しといてね」


最後の良心なんてものではない。ただ、お母様が私次第だと言ったのだから、処罰の下し方も私が決める。そして私よりジュードの被害に遭っていたのは、間違いなく子供達だから。


「ディウネ、どうしたい?」

「えっ」

「年齢的にディウネが代表になってるから連れてきたわけだけど」

「あ、あの、それはどういう…」


「ジュードの処罰だよ」


ディウネの両手をとって真っ直ぐに見つめければ、涙が溢れる瞳が驚きの色に染まった。


「ジュードの命をディウネに背負わせるのは気が引ける。けどそれ以上に子供達にこの現状を突きつけるのは心が苦しかったから、身勝手に私はディウネを連れてきたの。だから、嫌だったらそれでも良い」


体が逃げようとしているディウネの手を強く掴み、言葉とは裏腹に逃げないようキツくディウネを睨みつけた。


「良いけど、これだけは決めなさい」


逃げるのか、逃げないのか──


ジュードの処罰を私に委ねるという事は、自分の過去から逃げると同義だと私は思う。このまま逃げてしまえば過去と向き合い、過去を背負い生きていく人生を送れないという事だ。背負わなくても良い過去もあるだろうけど、ディウネや子供達はこれから魔法っていう強すぎる力と付き合っていかなくちゃいけない。心を強くする機会をみすみす逃すなんて事はさせたくない。

いつものように溢れていた涙がピタリと止まる。最後の一滴が地面に落ちて馴染んだ頃に、ディウネは口を開いた。


「ルフは、この人に殺されました」


零れた言葉にジュードが反応する。ルフの事を覚えていたのか、それとも憎しみゆえに殺されると思ったのか。どちらにしても口を挟む気配はない。


「でも、だからこそ、私はルフが抱いていなかった憎しみを抱きたくはありません。私は…──」


涙をいっぱいに溜めた綺麗な瞳が私を射抜く。


「ルフみたいに、みんなを守って笑顔にできるくらい強くなりたいッ…!」


それがどんな手段を用いる事だとしても、ディウネはきっと頷くのだろう。なら私も、その決意に応えるとしよう。

お読みくださりありがとうございました。

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