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第二百五十一話 最悪と

『ふざけるのも大概にしろ!』


龍の咆哮が響き渡り、木々が揺れ花々が燃える。けれど咆哮を浴びた者はなんの焦りもなく答えた。


『ふざけてなどいませんとも。ただお告げを伝えに来ただけなのに何故そうもお怒りになるのかな?』

『龍の逆鱗に触れれば神とてただでは済まんと言うのによほど死にたいらしいな!!その手に握られているものはなんだ!!』

『……あぁ、あなたがこの森人を可愛がってくれていたおかげで干渉する事ができましたよ。嬉しい誤算でしたね』


震える空気が地面に罅を作り、美しかった景色が姿を変える。それはマグマのようでありその身を突き刺す針の山のようでもあった。

その真ん中で、龍を恐れなかった者だけが笑う。これこそ望んだものだと言わんばかりに。


その手には、血だらけの………。


───











「───ッ…!?」


寝起きとは思えないほどに冷や汗をかき、どうすれば良いのか分からずにあたりを見渡す。爽やかな風が舞い込んでくる窓の外に目をやれば、日はすでに空高く登っていた。


………そうだ、日差しが暖かくて少し寝てたんだっけ…。


国が臨戦態勢に入ろうとしていても、この屋敷は変わらない。何も知らない学生に、強過ぎる力を制御する事で手一杯の子供達。何より国の末である姫がいる場所にどんな危険が及ぶというのか。

……少し、気が抜けていた。それであんな夢を見るんだから、神様がもしいるとするならきっと私に一時の休憩も与えてくれる気はないんだろう。


「はぁ……気分悪っ…」


予知夢…で良いんだよね。まだこの夢の正体は定かではないけど、とりあえずそう思わなければ話が進まない。…けどそれにしたって、なんでこうも飛躍した、もしくは今考えている事が夢に出てくるのか。


龍と、見知らぬ男。


しかも龍は怒っているときた。これが近い将来起こり得る事態だとして、あの龍はきっと神龍だ。神様を怒らせるなんて馬鹿な事をした男は、考えなしにそんな事をしたのだろうか。否、そんな能無しは神龍の住処にすら辿り着けない。神龍っていうのはそういう存在だ。

けど何より一番気分が悪いのは見知らぬ男が手に持っていたモノ……いや、あれをモノと言っては失礼すぎるか。一応まだ人の心は捨ててはいない。


───人だった、死体だ。


初めて姉様が死ぬ夢を見た時と少し似ている。姉様の夢も姉様が死んで、笑っている人なんて一人もいない酷い夢だから。何より「近しい人」が死んで初めて感じるあの悪寒のような気持ち悪さ。頭が割れそうな程に痛い悲しみと恐怖…。


「………近しい人?」


え、あれ?近しい人って…なんで、あれ?でも、夢じゃ姿は見えなかった。近しい人と決まったわけじゃない……けど、ダメだ。なんでか確信できている。今感じている悪寒が気持ち悪さが痛みが悲しみが恐怖全てが、あれは私の近しい人なのだと、教えている。


「………最悪」


今にも吐きそうだ。龍の側にいる人間なんて知らない。そんな人知っていたらすぐに今の状況をどうにかするために相談しているはずだ。

背中でぐっしょりと存在感を放っている冷や汗をどうにかするため、とりあえず背もたれに預けていた背中を伸ばす。すると同じタイミングで聞こえてきたのは、可愛らしい控えめなノック音だった。


「…どうしたの?」


ドアを開けて招き入れたのは、可愛らしい天使二人。


「あの、お手紙のお届けです!」

「この部屋ひろーい!遊んで良い!?」


ノノから手渡された手紙には、確かに先日送った相手の名前が書かれていた。一通しかないという事は片方は返事を書いていないのか、それとも田舎だから届くのが遅いだけか。まぁどちらにしてもこちらが早く届けば問題はない。

私の部屋の広さに興奮している二人に「物は壊さないでね」とだけ注意し、手紙の封を開ける。馬鹿正直に「クソ女!」から始まった手紙に青筋が立ちそうになったがなんとか抑えて読み進めると、内容は…。


「なんでやねん!!!!」

「!?」

「ど、どうしたの!?」


側でキャッキャと遊んでいた天使もといノノとサラちゃんが驚くほどの内容…ではなく、私が目を見開いて叫ぶほどの内容だったのである。いや実際は叫ぶほどのものでもないけど、うちにはこの手紙に書かれてる相手と相性最悪というかなんというか会わせちゃいけない人がいるんですけど!?


「あんのクソ王子が」


そう叫んだ瞬間、どこかで「うっせぇクソ女!」と言う声が聞こえたような気がした。空耳でも口答えするとは良い度胸じゃねぇか!お前の兄貴が王太子になる後押しをしてやったのは私だぞ!?


「とりあえず今度会ったらシメる」


自分で自分の首を絞める馬鹿王子に目の前で従者の首を締められているような気分だった。つまり訳すと、最悪って事である。

お読みくださりありがとうございました。

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