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第二百四十九話 真っ白な便箋

視点なしです。

天使の羽を思わせる真っ白な便箋を手に取り、崩御した王に仕えていた臣下は沈む夕焼けを見つめていた。


「………これも運命…私はまた、選択を誤ってしまったのだろうか…」


臣下だった男の名はドリュー、旧姓ドリュー・マクミラン。アルバ国の元伯爵であり、現在はアルバの片田舎で息子と一人のメイドと共に余生を過ごしている男である。ドリューの元に王の崩御の知らせが届いたのは、王が死んでから数時間後の事だった。

王太子であるアルベルトが、父である国王が貴族位を返上しても気にかけていた存在であるドリューに知らせの手紙を書き綴ってくれたのだ。


だが、ドリューは知っていた。


王の崩御が誰の手によって起こったかという事を。自分自身の能力である予知夢によって知っていたのだ。

数日前ならいざ知らず、前日に予知夢を見てしまった事が運の尽きだったが、それでもドリューは全てを知っている。それはあまりに残酷で、ドリューに己の無力さを突きつけるには十分だった。


だからこそ、ドリューは王太子から送られてきた手紙よりも、真っ白な便箋を手に取っていた。


一度は忠誠を捧げ一生を持って支えようと誓った男を殺されたのだ。ドリューはその優しい心に刺を巻き付け、手紙の送り主を憎悪した。昔から知っているからなんだと言うのか、忠誠を捧げた男の息子だからなんだと言うのか。

ドリューはどろりとした感情が溢れてくるのを抑え、夕陽に照らされながら屋敷に帰ってくる二人の愛しい若者を視界の端に見つけた。


二人がいるから、耐えられる。


今のドリューにとって、あの二人はこの世で最も大切な存在だ。白髪の令嬢が訪れた日を境に酒を控えるようになり、すっかり顔色も体つきも回復した息子はよく笑うようになった。最初は予知夢を見たからと言う理由で連れてきたメイドも、毎日一緒に生活する中でかけがえのない家族になっている。

あの二人が幸せであるのなら、あの二人を幸せにする一歩を踏み込ませてくれた恩人ならば。

こうしてすぐに心配して手紙を送ってきてくれる彼女ならば、ドリューだって納得のいく結末に導いてくれるだろう。


「………この不甲斐ない臣下を、どうかお許しにならないでください。我が王よ」


ドリューは軽やかな風の吹く窓から、自分を見つけた事でパッと笑った二人に微笑みかけた。


───











「はぁあああああああああ!?!?」


「!?」

「ど、どうされたのですか!?第二王子殿下!」


第二王子の執務室で部下二人が驚きの表情と共に心配の声をあげる。第二王子であるクリフィードは、なんでこんな事になってるんだ、届いた一通の手紙をグシャリと握り潰した。

これには国王から、第二王子が国のひと柱になれるよう支えてあげてね、とにこやかに命令された部下二人もどうしたら良いのかわからない。


「アイツはなんなんだよ、俺にどうしろってんだよ」


女嫌いであるところを除けば理想的な上司であるクリフィードの取り乱しようを見て、部下二人は心配そうに「あの…」と声をかける。二人に気づいたクリフィードは、心を落ち着かせるためにも一度息をついた。


「悪い、取り乱した」

「いえ…手紙には何が書かれていたんですか?殿下が取り乱すなんて…」

「ん?あー……クソ女からのお願いという名の命令がだな…」

「「女ぁ!?」」


あの超絶女嫌いのクリフィード第二王子に手紙を送って、剰えそれを読んでもらえる女性がこの世に存在するのか!?

部下二人はこの世の人間ではないのではないかとさえ思いながら、グチグチと不満を言うクリフィードを見つめた。


「あいつ、兄上を引き合いに出されたら俺が文句言えなくなるのわかってて書いてるから本当に質が悪すぎる!」

「お、王太子殿下ですか?」

「そうだよ…クソッ、馬鹿正直に従うのも嫌だが、王太子として頑張っている兄上から心の癒しを奪うのも気が引ける…」


クリフィードも王太子を支える立場として十分頑張っていると思うが、自分より兄を優先するところは昔かららしいので仕方ない。部下二人はそんなクリフィードの優しさに表情を緩ませ、けれどどこか緊急みを帯びている雰囲気に仕事をもらう気満々で待機していた。だが、そんな二人の思いはあっさりと裏切られる事となる。


「良いか?この事に関しては他言無用だ。お前達も一切関わるな」

「!?な、なんでですか!?」

「お役に立ちますよ!?」

「そういう問題じゃない」


クリフィードとしては気に入っている二人の部下をクソ女と称する皇女に見せたくないのが一番なのだが、それ以前の問題として、彼らの手を煩わせるほどの事もないのだ。


「そんなに使える駒が欲しいんなら、自分に心酔してる奴を使えって話だよなぁ」


部下二人は最近仕事に追われっぱなしだったクリフィードがニヤッと笑った事で、「なんだか楽しそうだなぁ」とふわふわとした事を思って、素直に頷いた。

お読みくださりありがとうございました。

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