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第二百四十七話 祈るくらいはしてあげるよ

「ちゃんとわかるように説明しなさい!」


疲れすぎて水も飲めないイザベラとロックをソフィアとマシューに頼んでリンクを正座させる。イザベラとロックにはどうやら体を重くする魔術がかけられていたようで、なるほど、だから騎士学校のエリートである二人が素振りであんな疲れてるわけか。


「少し扱こうと思っただけです…」

「稽古は明日からでしょ?」

「お言葉ですが、それはあまりに甘いと思います。騎士学校の生徒でしたら臨機応変さも兼ね備えていると仮定して良いかと思いますし、何より学生だから、と言うのは彼らを甘やかす理由にはなりません。半人前の生徒とは言え騎士は騎士、志した時から騎士なんです。いついかなる時も戦場へ出る覚悟を持っている人間が、今日は疲れたから休みましょうなんて、そんな生優しい事を言っていては精神が育ちま──」

「結論」

「アステア様の休ませてあげようと言う優しさはわかりますが、それだとつけ上がるだけだと思います」


ムカついたから扱いただけなのによくもまぁこれだけスラスラと…。

騎士として、腕だけは一流の親の元で育ったリンクなら当然の意見かもしれない。けど、その本質は全く別だ。

そうだな、そう言えばリンクって結構短気だったもんな。


「……はぁ…リンクは元々貴族だったし、騎士としての心もある。イザベラ達の指導には確かに適任だと思う。けどそれはクレイグの許可が必要なの。全部一任してるから」

「それは…わかってます」

「わかってないから言ってるの。イザベラ達はインターンシップ生と同時に貴族の御令嬢御令息、まだ騎士としてちゃんとした証も何もない彼らは客人としても扱わなきゃいけないの」

「………だから苦手なんですよ、貴族って」

「元小伯爵様が何言ってんだよ」

「過去の話です!」

「残念でしたー!過去は消えないんですぅ!」


ダメだなこりゃ、永遠平行線になる気しかしない。リリアと兄様の出会いを止めにアルバに行ってからというもの、なぜか私の周りは問題が途絶えない。

今回だってそうだ。少しディウネの話を聞いていただけで庭ではこんな面倒な事が起こってた。


「…マシュー、イザベラとロックは回復しましたか?」


聞くと、回復魔術をかけていたソフィアが涙目で見つめてきた。マシューは少し慌てた様子で「め、目が覚めなくて…」と震えた声で言ってくる。


「………リンク」

「体を重くする重力系の魔術をかけただけです!本当ですよ!」

「じゃ、目覚めない心当たりある?」

「あー…魔力酔いかな…?いや、でもこの二人は素材的には良いしそれはないか……んー、可能性は低いですけど体力の消費が原因じゃないかと。魔術をかけたまま運動する事なんてほとんどないと思いますから」

「そう、なら体力回復の魔術なら効きそうだね。って、あれ?でも兄様の騎士とか普通に魔術重ねて戦ったりするらしいけど…」

「騎士の卵と上位の騎士を一緒にしないでくださいよ…」


そんな呆れた目で見なくても良いじゃんか。騒ぎを起こしたのはリンクなのに、これは反省してないな。クレイグに言っても今回は笑って許しちゃいそうだし…。ていうか、なんでリンクはこんなに怒ってるんだ?

いくら短気とは言えリンクは小伯爵だった事もあって少しは自制を効かせる事ができるだろうし、二人が喧嘩したくらいで怒るはずはないと思うんだけど…。


「うわぁあああ!!」

「!?」


いきなり大声がして振り返ると、マシューとソフィアが「良かった!」と声を上げる。どうやらイザベラとロックが目覚めたようだ。さっきの大声はおそらくロックのもので、叫び声を上げるほど扱かれたのかと思うとちょっと可哀想に思えた。………のだけど、数秒後、私は前言撤回する事になる。


「お前の指示だろ!!いくら皇女だからって良い気になるなよ!!」

「はぁ?」


呆れた。なんでそういう思考回路になるのか。いや、確かにリンクは私専属の職人だし、私の指示で動く事もある。けど、勝手に喧嘩してたのは自分だろうに。こんな罪の擦りつけられ方は初めてだ。

私が呆れ果てて声も出ないでいると、なぜか私の方を指差すロックの瞳に怯えが浮かんだ。なんだ?と思ってその視線を辿ると、そこには私の隣で青筋を立てているリンクの姿が…。なぜだろう、正座しているはずなのに怖い。


「アステア様、ご許可を」

「な、なんの…?」

「決まってるじゃないですか。コイツを真っ二つに切る許可です。木刀でも一応いけますよ、断面は汚くなりますが」


ニッコリ、それはもう綺麗に笑ったリンクに、これヤベェな、と直感する。リンクがこの調子なら、エスターとクレイグの腹の中はどうなっているのやら。あの二人は確実に私を侮辱したロックに怒っているだろうからな…。


「………あーなんか、頑張れ、ロック」


私はムカついていたはずの相手にエールを送るほど物凄く同情してしまった。生きて学園に帰れるよう、祈るくらいはしてあげるよ。

お読みくださりありがとうございました。

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