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第二百四十六話 その落差に目眩がしてきた

ディウネが泣き疲れたのか眠ってしまい、私は静かにディウネにブランケットをかける。少し身動いだので起きてしまったのかと驚いたけど、どうやらぐっすりと眠っているようだった。起こさなかった事にほっと胸を撫で下ろし、ディウネが持っていた本へ視線を移す。

ほぼほぼ魔法と魔術の本なのはディウネの真面目さゆえかなんなのか。きっと私は本を開いた瞬間に寝ると思う。

と、言っても、魔法関連の本は童話が多い。それもそのはずだ。魔法は滅多にお目にかかれないし、そもそも利用されないためにも隠している人が大半だ。

クロス・クリーンの世界は魔力を持っている事が普通であり、魔術は学問。つまりは学ぶ機会がなければ使えなくて当たり前。魔法が使える事を隠しながら生きるなんて簡単だろう。

魔法が使える使えないの判別も、本人にしかできないだろうし。


そう考えると、ディウネ達は不幸なのかもしれない。


もちろんコロシアムの地下で仕事をさせられていたのは不幸な過去ではあるが、引き取った私が軍事国家の姫というのもなかなかに酷い話だ。私の側にいる限り、戦争に利用される可能性がずっと付き纏うだろう。

現にクレイグは精鋭に育てるとか言ってるもんなぁ…。


すやすやと眠るディウネの頭を、優しく撫でる。


起きる気配のないディウネに微笑みかけてから席を立つと、ちょうどディウネが持ってきた本の中で、一番上に積まれている本のタイトルが視界に入った。


「神龍と、聖女…?」


思わず目を見開く。なんで、いや、でも神龍だって聖女だって、本にされてもおかしくはない存在だ。だからきっと、これも偶然…。


「んぅ…」

「っ!」


ディウネが身動ぎ、大袈裟に心臓が跳ねる。ダメだ落ち着け。いきなりの事で焦ったけど、普通に考えてディウネが「神龍と聖女」っていうありきたりすぎるタイトルの本を読んでただけだから。


………リリアの事を思い出したのも事実だけど。


私は一気に煩くなった心臓を落ち着かせるため窓際に腰を預ける。けど、心臓が煩くなるのも仕方ない話だ。神龍と聖女なんて単語、クロス・クリーンでは重要な鍵になるものだし…。


「ストーリーが始まってもいないからって、油断してた…」


神龍の事に関しては警戒する必要もないかもしれないけど、ストーリー通りに進まないのはアルバの王が崩御した時点で確定してる。これからどうなるか全くわからないんだから、警戒しておいて損はない。

そうだよな、神龍と聖女なんて絶対忘れちゃいけない単語だ。


だって神龍と聖女は…──。


「もっと腹から声出せないのか!!!!」

「!?」


本を見つけた時とはまた別の意味で心臓が…というよりかは体が跳ねる。何事かと外を見れば、庭に何人か人が集まっていた。

その中心にいるのは確かに見慣れたリンクで、その手には木刀なるものが握られている。


「………何事よ、マジで」


とりあえず、ディウネがあの大声を聞いても起きなかった事に奇跡を感じながら、状況を整理しよう。


───











「まぁ状況整理できなかったわけだけども」


今現在、私は庭に出てきている。ちなみにディウネは私の部屋で寝かせたままだ。起こすの可哀想だし。


「あ!お姫様だ!!」

「おぉ、サラちゃん。これ何事?」

「お勉強だって!」


ギュッと足に抱きついてくる天使の頭を撫で、ずっと近くで様子を見ていたというので話を聞く。

どうやらサラちゃんが子供達と一緒に庭で遊んでいたら、リンクがインターンシップで来ているイザベラ達を連れて来たそうだ。そして庭で遊んでいたサラちゃん達に「ここで剣の勉強をしたいんだけど良いかな?」と聞いてきたらしい。

もちろんサラちゃん達は良い子なので了承し、剣の稽古が始まったと…。


「いや、意味がわからん」


そもそも指導は明日から本格的に始めるんじゃなかったの?ていうか指導役はクレイグだろ。リンクには魔道具の方に力を入れてほしいから剣の稽古を頼まなかったのに。


「もう息が上がるなんてどういう鍛え方してんだ!もっと力込めて剣を振れ!!」

「だから意味がわからんって」

「!アステア様…!」


やっと私がきた事に気づいたリンクが駆け寄ってくる。リンクが私の方へ来た事により一旦素振りをやめようとしたイザベラとロックが動きを止めると、リンクがギロっと睨んだので二人はまた素振りを再開させてしまった。


「…なにしてんの」

「二人が喧嘩しているというので様子を見に行って、そこまで元気が有り余っているなら剣の稽古でもしてやろうという事になっただけですよ」


きゅっと唇を結び目をきゅっと閉じる。ダメだ、眩しい笑顔で目が潰れそう。なのにイザベラとロックが今にも吐いてしまいそうな顔で素振りしてるからその落差に目眩がしてきた。


「……ねぇ、一つ聞いても良い?」

「なんですか?」

「なんか怒ってる?」


私が聞くとリンクは数秒笑顔で固まり、次の瞬間にはまた良い笑顔で答えた。


「ムカついたので扱いてやろうとか思ってないです!なので怒ってません!」

「怒ってんじゃん!!」


私は嘘をつくような子に育てた覚えはありませんよ!!

お読みくださりありがとうございました。

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