表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
244/313

第二百四十四話 優しく教えてあげる

前半視点なしです。

ルフの叫びが風を諫める。だんだんと弱くなっていく風は確かな意思を持っているようにも見え、ディウネは底知れない嫌な予感を抱えてしまった。それは、風に関する事ではない。

風から解放された、自分達を支配する男を見て、嫌な予感がしたのだ。


「………お前、魔法が使えたのか…?」


ジュード自身も子供達同様コロシアムの幻影魔術を発動させるための術式に適合しているため、魔法が使える可能性のある特別な魔力を持った人間だ。

けれど、ジュードは魔法を使えた試しがなかった。

それは一重にその欲深さのせいであり、ただ単純に魔法を使う事を神が許容しなかったのだ。だが、だからこそ。ジュードは自分と同じであるはずなのに同じではない子供達を奴隷のように扱い、自分を上の存在だと刷り込ませた。そうしなければプライドを保つ事ができなかった。それに、最初にコロシアムの術式を見つけたのは自分だ。なのになぜ自分だけが特別ではないのかと考え、結局自分が特別だから魔法が使えないのだと言うとち狂った思考にまで発展したというわけだ。

これが、ジュードが子供達をただの燃料だと思い込み、自分が特別だと思い込む理由だった。


そんな男が、子供達の中でもリーダー格である一層特別な少年が魔法を使えると知ってしまったら…?


「来い」


感情の抜け落ちた顔をするジュードなど、子供達は今まで一度だって見た事はなかった。ずっと不機嫌そうな顔をしているか、怒っているかのどちらかだったからだ。なのに、今はなんの感情も読み取れず、ただただ恐怖を煽ってくる。

ガタガタと震える子供達が身を寄せ、それに気づいたディウネが、精一杯の声で「待ってください!」と叫んだ。


「る、ルフを、あの、ど、どうするんですか…?」

「………」


すでにルフの腕を掴み無理やり立ち上がらせていたジュードが、ディウネを見据える。その瞳には嫉妬とも憎悪とも取れる色が滲んでいた。


「…お前らは黙って魔力を注いでろ。それしかできる事もないんだから。なぁ?」


ガンッと、ジュードが無理やり立たせたルフの頭を殴る。腕を掴まれているルフは倒れる事もできずに、覚束ない足で立っている事しかできない。


「お前らは何もできない、それしかできない。そうだな?」


同意しか許さないとばかりの声がディウネの頭にこだまする。恐怖する本能のままに頷けば、ジュードは少し満足そうに口元を緩めた。

子供達同様ガタガタと震える手を握りしめ、ディウネはジュードに腕を掴まれているルフを見た。助けを求めたわけではない。けれど、少なからず希望を見ていた事は確かだ。


──みんなの事、頼んだ──


ルフが微笑すると、口すら開いていないはずなのにルフの声が聞こえた気がした。幻聴かもしれない、思い込みかもしれない。だがディウネには、ルフが風を使ってそう伝えてきているように思えてならなかった。

わかった、そう伝えるために涙を流しながら頷く。地面に落ちた涙には恐怖と信頼が映っていて、アンバランスなそれにディウネがまた涙を零した。

ジュードはルフが笑っている事にも気づかずに、とうとうルフを連れて地下を去ってしまった。


それから、ルフが帰ってくる事はなかった。


───











「あの時、私がもう少し早く庇っていれば、何かが変わっていたんじゃないかと思うと、不甲斐なくて…」


惜しげもなく流される涙は、それだけディウネの後悔や自責の念を表しているようだった。

……初めて会った時、ディウネがリーダーではないと思った自分の直感は正しかったのだ。

きっと子供達の中で、一番はルフなのだろう。それが変わる事はなく、それはディウネも同じだ。だからこそディウネはリーダーらしくない。ディウネの胸の中に、まだルフは生きているから。


「…だからサラちゃんが魔術じゃないって言った時も珍しく前に出てきたんだ」

「はい…」


あの時、「魔術じゃない」と抗議したサラちゃんは気が緩んでいたのだろう。ここには優しい人ばかりいるからと。けどディウネは違った。

ずっと警戒し続けていたんだ。術式を通しているからと言って、魔法が使えるとバレないわけではない。ずっと、子供達を守るために警戒し続けていた。

甘いと思わなくもない。そんなに警戒するなら最初から口酸っぱく言い聞かせ、たとえ術式を通してでも魔力すら使うなと教えておけば良かった話だ。

だけどそれをしなかったのは、ディウネの甘さと、ディウネがルフの魔法を好きだったからだろう。ルフのように自由に魔法を使って欲しい、どこかそんな思いもあったから、魔法を使うなとは言えなかったのでないか。


「………我慢するのはしんどいね」


自分の力を好きなのは良い事だ。家族とも言える子供達にも自分の力を好きなってもらいたい、そう思うディウネは間違ってはいないのだろう。ただ、環境が悪かった。

慰めるようにディウネの頭を撫でると、泣き虫なディウネは案の定泣いてしまった。私はディウネが泣き止むまで気長にディウネの綺麗な顔を眺めて、それから少し落ち着いた頃に優しく教えてあげる。


「みんなの安全は、私が保証するから」


そう言ってもう一度だけ撫でると、ディウネはまた泣きながら頷いたのだった。

お読みくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ