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第二百四十一話 泣き止んでもらう事が先決だ!

最後視点なしです。

第三屋敷にイザベラ達が訪れ、屋敷はさらに賑やかさが増していた。同世代としか触れ合ってこなかった子供達はイザベラ達を怖がっているようで、その騒めきが屋敷中を漂う空気感となって伝わってくる。少し可哀想な事をしてしまったかとも思ったけど、これから大人に囲まれる事も増えるだろう。慣れるにはもってこいの機会だ。

だからこそ、ディウネにも紹介の場に代表として参加してもらったんだけど…。


──よほどの実力者でもないのに、何が特別だよ──


あんな馬鹿がいるとは全くの予想外だ。ディウネだって最年長として頑張ってはいるけど、子供達同様人に慣れていないところがある。私達や教会の人間以外で、初めて接触するのがアレっていうのは、ちょっと選択を誤ってしまった。

本当はあの場でその頭を引っ叩くくらいしてやりたかったんだけど、クレイグは貴族位を持ってないから貴族相手に武力行使すると後々面倒になりかねないし。あ、指導者とか特別な立場を与えられていれば別だけど。

紹介するというだけのあの場において、早々にクレイグがのしてしまうのは純粋に面白くないという思いもある。

そこで活躍してほしいのがライアンなんだけど、学友という事もあって睨んで咎めるだけだった。

あの時点でなんらかの形でロックを黙らせるのが、言ってしまえば私の近衛騎士としては正解なのだ。だって私の意思を汲み取って動かなきゃいけないからね。

………やっぱり自分で選んだ人じゃないと、なんて思ってしまう。


「………いつまで引きずってんだろ、私」


出て行ったのはヨルなんだから、さっさと切り替えないといけないのに。エスターだけならともかくクレイグまで怒っているのに、連れ戻せるわけもない。

考えないようにしようと首を振り、それからまた思い出すの繰り返し。こうなると無限ループになるしかないので、振り払うように部屋の扉を乱暴に開けた。外で空気でも吸えば気分も晴れるだろ。


「きゃっ」

「!?え、ディウネ!?」


扉を開けた先にいたディウネが、持っていた数冊の本を床に投げて尻餅をつく。驚いて目を見開いた私に、ディウネは「す、すみません!」と急いで謝った。


「み、道を邪魔しちゃって…!」

「あ、いや、それは良いけど…気づかなくてごめんね、痛くない?」


ディウネがここにいるという事はもう自己紹介は終わったという事なんだろう。だけど、流石に今はディウネの体の方が心配だ。怪我とかしてないよね…?


「あ…ありがとう、ございます…」


差し伸べた手を取ってくれたディウネが立ち上がる。距離が近いからか俯き気味な顔がよく見えて、その可愛らしさに「…本当に綺麗だね」と呟いてしまっていた。


「え!?」

「何そんな驚いてるの?ディウネもサラちゃんもノノも、他の子もみんな綺麗な顔してるよね。何かあるのか…」

「き、綺麗…?それを言うならアステア様です!それにここにいる皆様は全員優しくて、周りの水が綺麗なのが証拠です!」

「水…?」


なぜここで水が出てくるのか。私が首を傾げると、ディウネがわたわたと慌て出してしまった。


「え、えと、水っていうのは私の魔法属性の事で、あ、魔法を使う魔法使いには属性があって、えっと、あの…!」

「お、おぉ、そうなのか…」


頑張って伝えようとしてくれているのはわかるが、どうも要領得ない。終いには目を潤ませ始めてしまった。だからなんで毎回泣くのよ!!

今まではのらりくらりとかわして掴みどころのない奴とか、どれだけシバき倒しても私を睨みつけてくる奴とかしか周りにいなかったから、泣き虫の相手なんてどうして良いか全くわからない。どうも手に余るディウネを泣き止ませるには何が一番効果的か考えた末に、私はある事を思い出した。


「そ、そういえば!ディウネの同い年の子が他にもいたって話!途中で終わってたよね!中で話聞かせてよ!」


元々聞く気ではいたし、泣き止ませるには落ち着かせるのが一番だ。外の空気を吸う暇もなく部屋へ逆戻りする。確かクレイグが残しておいてくれた茶葉があるはずだ。お茶くらいなら私でも淹れられるだろうし、まずはディウネに泣き止んでもらう事が先決だ!


───












『…………また来たのか。私は君を招いた覚えはないよ』


冷めた洞窟の奥の、そのまた奥底。光が差すはずもないそこには、力強い緑葉と凍えそうな氷が混在していた。


「はははっ、そんな邪険にしないでいただきたいものですな。ただお告げを伝えに来ただけですよ」

『何がお告げか。何度目だ?こんな遊戯には飽きたと言っていたはずだろう』

「だから今度は異界の話を持ち込まれたのだろう?混ざり込んだ人の子も面白いからそのままにしていると。あなたとこの話をするのも何度目になるか…」


お互いに睨み合い、けれどお互いに呆れている。両方ともに、どちらもただ付き合わされているだけなのだ。


『とにかく、もうここには来るな。君が来るとあの子が警戒してしまう』

「昔拾った森人の事かな?そんな事より、あなたが動いてくれなければ話が進まないのだがね…」


溜息をついた片方が、静かに洞窟の出口へ続く暗闇に消えていく。芽吹く緑葉と凍る氷河が混在するその場で目を閉じたのは、遥か昔、女神に恋をした哀れな龍だけだった。

お読みくださりありがとうございます。

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