第二百三十七話 友達大好きっ子という事はわかった
私の見解では、私達が今生きている世界はクロス・クリーンを土台にした世界だと思う。だからこそゲームのシナリオ通りに話が進んでいないわけだし、もしゲームの世界なら私がどれだけ妨害しようがシナリオ通りに進むはずだからだ。
そしてリリアは私に執着していて、その兄であるアルベルトは姉様に求婚した。王を崩御させるほどに強引な手段をとると仮定すると、このまま行けば確実に戦争になる。
まだ公にはなっていないけど、姉様の婚約者(仮)はフィニーティスの王太子だ。しかも戦においていくつもの武勲を上げている戦の申し子。
軍事国家であるカタルシアとフィニーティスの戦人を揃って相手取るなんて、アルバにできるわけがない。
そうなると、やっぱり何かアルバには秘策があるのかもしれない。
今は警戒が強いだろうし、流石のクレイグも子供達の面倒を見ながらじゃただでさえ情報の秘匿が厳重なアルバを探るのは無理だろう。
「何か手はないものか…」
父様から今日中に学生達を私の屋敷へ移すと言われた。
きっと兄様と父様に任せていれば姉様は守られるけど、戦争になる可能性がぐんと高くなる。そうなると被害を被るのは国民だし、できればアルバの国民にも被害は出したくない。
一番、姉様が悲しむ結末にはしたくないから。
「………この状況で冷静に判断ができそうで、人を使わさせてくれそうな奴…」
…一人しか思いつかないな。とはいえ、友人とも言えない私に人員を割いてくれるかどうかはわからないけど。
まぁ、文句のいくつかは聞いてやるか。
これ以上クレイグの負担を増やすのは、たとえクレイグがアンデッドだからと言っても気が引ける。そのために取る手段だ。
私はチリンチリンと部屋の呼び鈴を鳴らすと、パタパタと可愛らしい足音でやってきたサラちゃんと、それを追ってやってきたエスターに便箋の用意を任せた。
ちなみに二通だ。一人、アルバの国王が亡くなった事で、気にかけなきゃいけない人がいるからね。
───
一応皇族なのだからと教えられた美しい文字達を踊らせ、さっさと便箋を速達で相手の元へ届けさせる。もちろん速達なのだから魔術だ。
前はクレイグに頼むばかりだったけど、今はリンクが作った魔道具のおかげでクレイグをわざわざ呼び出さなくてもできるようになった。日に日にリンクの魔道具が増えているけど、便利なので何も言わないでおこう。
「さて、じゃあ迎えに行きますか」
ガチャッ、ドアを開けると待っているのはもちろんライアン君。忠犬っぷり凄まじいライアンの背後で、おそらく幻覚だろう尻尾がもの凄い勢いで揺れている。
「この度は学友を受け入れてくださってありがとうございます。心からの感謝を」
「嬉しくて仕方ないって顔だね〜」
「!な、なんで…」
「いや、見てればわかるから」
そんなに友達が好きなのか、うん、良い事だ。
学友に慕われて、なおかつ本人も学友の事を大事にしている。なんと素晴らしき関係か。一方通行なのは女の子達の恋心だけってね。
「そろそろ来る時間だし、迎えに行こう。あの子達もライアンが出迎えた方が気が楽だろうし」
「はい!」
できれば睨まれない方向でお願いしたいなぁと思いながら、ライアンを連れて廊下を歩く。途中で出会ったエスターもお供してくれると言ったけど、その両手いっぱいに子供達の洗濯物が抱えられていたから丁寧に断った。
「そういえば、ライアン以外の子達ってどんな子なの?」
見た目だけで十分個性が伝わってきそうだけど、一応聞いておいて損はないだろう。
少し考えたライアンは、パッと顔を明るくさせて説明を始めた。
「第二皇女殿下も一度会われていると思いますが、ふくよかな体型をしたマシューはその体格からは想像もつかない剣捌きの持ち主です。力も十分にあってヴィ先生も目をかけています。性格は穏やかで、誰とでも仲良くできますね」
「お〜、仲良くできそう」
「逆にもう一人の男子生徒、ロックは少し尖ったところがあります。喧嘩っ早いと言いますか、あまり敬語も得意ではないので、そこらへんは多めに見てもらえると助かります。あ、でも、剣の素早さと正確さは学園随一だと保証できます!」
「ライアンが言うなら確かなんだろうね」
「次に女子生徒ですが、赤みがかった髪の方がイザベラ。大国の公爵家の令嬢なので少し高飛車なところはありますが根は素直で、剣術にもそれが現れていると思います。女子生徒の中で最も剣術に優れている事は間違いありません」
「あぁ、あの気の強そうな子か…」
「最後はソフィアですね。彼女はヴィ先生が連れてきた特別生で、その特性ゆえに剣術の授業には参加していません。その代わり、得意な治癒系魔術を伸ばすために毎日のように生徒の治療を行なっています。少し弱気なところもありますが優しい子ですよ」
「ほほ〜」
………ライアンが友達大好きっ子という事はわかった。
「剣術の説明も合わせてするところがライアンらしいね〜」
クスクスと笑えば、無意識にしていたらしいライアンは「えっ」と言いながら顔を赤くさせ、慌てて謝ってしまった。その姿がなんだか可愛かったので頭を撫でてみると、また顔を赤くさせた。………うん、やっぱ犬系って癒されるわ。
その背後からエスターの殺気が篭った視線が送られてきたような気がしたので、ちょっと駆け足で屋敷の門まで向かったのは内緒だ。
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