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第二百三十四話 身を焼く事になろうとも

ルカリオ視点です。

アルベルトが貴族達に黙認を得て丸一日が経った。社交界にも頻繁に顔を出しているアルベルトは貴族達とも深い交流があり、アルベルトを王にと指示する者達は簡単にアルベルトの志に賛同している。

──あのアルベルト王太子が言っているのだ、嘘なわけがない。

全員とはいかないが、アルベルトに心酔している者はなんの疑いもなく、そんな事を瞳で物語っていた。


「とめてくれる者はいない…か…」


頼みの綱であったスミス辺境伯は陛下への復讐心にかられ、アルベルトの嘘を見抜いているはずの一部の貴族達も口を閉ざしたまま。誰も、アルベルトをとめてはくれない。

他人任せだとは自覚しているが、誰か、誰かアルベルトにもう一度考え直させる機会をくれないものか、考えるのは、そればかりだった。


「ルカリオ様、こんなところでどうしたんですか?」

「!…リリアちゃん…」


可愛らしい声で名前を呼ばれると、柄にもなく舞い上がっていた時期もある。それほどまでに愛らしいアルベルトの妹に声をかけられ、俺は顔をヒクつかせた。


「気分転換に少し歩いてただけだよ。最近悩みの種が多くてね」

「お兄様も忙しそうだし…大変なんですね。もうすぐ貴族の方とのお話も終わる様ですし、お兄様と一緒に3人でお茶でもしませんか?」

「良いの?ならお邪魔させてもらおうかな」

「はい!ぜひ!」


正直に言ってアルベルトが陛下に謀反を企てる理由になったのは、リリアちゃんだろうと思う。

アルベルトは彼女が傷つく事を、守れない事をずっと悔やみ続けていたから。けれどその度に、もう少し待て、と言い聞かせてきたのは俺だった。王位を継ぐ前に揉め事を起こせば、最悪王位継承権を剥奪されかねないからだ。


「…リリアちゃん」

「?」

「リリアちゃんは、陛下とアルベルトに仲良くしてほしい?」


花の様なお姫様。アルベルトの可愛い妹に、出る限り棘を隠した言葉を投げた。

もし、もし頷いてくれるなら、俺は心置きなくアルベルトをとめられる。リリアちゃんが望んでいると言うなら、アルベルトだって踏み止まってくれるはずだ。


だけど、リリアちゃんの答えは、俺の望む答えではなかった。


「お父様は、私の事が嫌いだから」


「っ…!」


ニコリと微笑まれて、なぜだか悪寒がした。そこに、どんなに突き放され虐げられても健気に父の愛を求めた少女の面影はない。

あぁそうか、アルベルトが謀反を起こすのは、リリアちゃんを守るためじゃない。


リリアちゃんが、それを望んだから。


「………君は、アルベルトをどうしたいの?あいつは、君の願いを叶えるために死ぬかもしれないのに」


王に反逆するという事は、そういう事だ。その身を八つ裂きにされても文句は言えない。


「…ルカリオ様は、どうしたいの?」

「え…?」

「お兄様は、私のためなら身を捧げる事だってできるって言ってくれました。なら、ルカリオ様は?ルカリオ様は、お兄様のために何がしたいの?」


王族の証とも言える琥珀の瞳が、虚な色を浮かべて聞いてくる。頭にこだまする様な問いかけに、俺は無意識にリリアちゃんから視線を外していた。


「俺は……」


続きの言葉が出てこない。わかってる、俺が何をしなければいけないかって事は。俺は、サリンジャー家の人間だ。王が過ちを犯したその時は…。


「俺は…あいつを…」


言いたくないのに、アルベルトと同じ琥珀の瞳が訴えかけてくる。王に忠誠を誓うなら、遂行しろと。それが例え、王の身を焼く事になろうとも。


「──…ルカリオ?リリアもこんなところで何してるんだ?」

「!!」

「お兄様…」


口からついて出そうになった言葉はもう一度飲み込まれ、現れたアルベルトの姿に心底ほっとしている自分に嫌気がさした。


「アルベルト…」

「ルカリオ、顔色が悪いけど大丈夫か?」

「あ、あぁ」

「そうか?あ、なら話したい事があるんだ。今、平気か?」

「もちろん」


俺達の会話を聞いてリリアちゃんが残念そうにシュンとしてしまう。アルベルトは「今度埋め合わせするからな」と言いリリアちゃんの頭を撫でてから、俺を連れて場所を移した。


───











王太子のための執務室。防音の魔法が完備されており、おそらく陛下であってもそう簡単には盗聴できないだろう。……正直、今ここにいたくはない。


「アルベルト、話ってなんだ?」


振り向かないアルベルトに、嫌な予感がするから。


「………」

「おい、黙ってたらわからないだろ。それとも何か?昔みたいに脇腹をくすぐって欲しいのか?」


無理に笑いを作ろうとしても、振り向かないアルベルトの姿に心臓がうるさくなっていって気持ちが悪い。


「ルカリオ…」


やめてくれ、部屋に入るまでは普通だっただろ。


「なぁ、俺のために、俺と同じ罪を背負ってくれるか?」


そんな、縋る様な目で俺を見ないでくれ…ッ。













───……俺が自分の父親を殺めたのは、それから、二日後の事だった。

お読みくださりありがとうございました。

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