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第二百三十三話 笑い合ってきた友だとしても

視点なしです。

「………ご自身がそうしたいのならばそうすれば良い。我々は…少なくとも私は、国が安泰ならばどんな王でも支持いたしますとも」



そう言ったのは、スミス辺境伯。責任の伴うその言葉に、アルベルトは小さく、けれど力強く頷いた。


「…アーロン国王陛下は話を聞かないところがあらせられる。この際、少し早めの戴冠式を行ってしまうのも良いだろう。それがこの国のためにもなるはずだ」

「そ、それは…そうとも言えますが…」

「この国のための選択…確かにアルベルト王太子殿下なら…」


きっと、アーロンの代わり足り得るだろう。幼少の頃からあの完璧を求めるアーロンの無理難題な要求に応えてきたアルベルトの実力を、疑う者はいなかった。


「……陛下の過ちは必ず私が……そして国をより良い方向へ進ませて見せます。どうかその時は、お力添えを…」


また深々と頭を下げるアルベルトに貴族達が言葉をかける事はなかった。たとえ国に忠誠を捧げていたとしても、王への反逆を黙認するという事は、仕えている主人を見殺しにするという事と同義。

国のためとはいえ、新しい王の誕生を祝福する身とはいえ、一度は跪き王と敬った者を見殺しにするなど…と、貴族達の心中は複雑なのだ。


けれど、それでも。


あのカタルシア帝国と戦争など、国が滅びかねない。アルベルトの人柄を考えるにすでに進言はしているはずだろう。そしてアーロンはその言葉を聞かなかった。

どれほど国が栄えていようと武力で蹂躙されてしまえば終わりだ。

それだけの力が、カタルシア帝国にはある。そもそも皇帝が化け物染みている事に加え、皇太子であるクロードは父親譲りの武の才と冷静さを欠かさない頭脳ゆえに若くして軍の指揮を任されてきたと聞く。

そしてそんな王が率いるのは、カタルシア帝国が誇る近衛騎士団。特に隊長、副隊長クラスは騎士の中でも別格とされているほどの実力者だ。

貴族達は知っているのだ、カタルシア帝国と争う事が何を意味するのか。


だが、それならば貴族達は阻止しなければならなかった。アルベルトが王を打ち、そして…。


カタルシア帝国の逆鱗に触れる事を。


───











「スミス辺境伯!お待ちください!!」


王にバレない様にと選ばれた、そこまで広くない屋敷の廊下に若い声が響く。振り返ったのは名を呼ばれたスミス辺境伯だった。


「……直接お会いするのは貴方が子供の頃以来か、サリンジャー子息」


その真っ赤に染まった髪は王を守り導く炎と称され、アルバ国では数少ない王の守り手の証。それゆえに王から特別な特権を数多く与えられているサリンジャー家の次男坊ルカリオが、スミス辺境伯を呼び止めたのだ。


「なぜ王太子をとめてくださらなかったのですか!?貴方ならあの嘘に気づいたはずだ!!」


ギッと睨み付ける瞳にまで炎が宿る。スミス辺境伯はその熱に火傷でもしてしまいそうな気分になり、それでも全てを凍らす氷の様な冷静さで答えた。


「…陛下には貴方の父君であらせられるサリンジャー公爵がついています。カタルシア帝国と戦争などという事態になれば、王太子より先に公爵が動くでしょう」

「やはりわかって…!」

「だが、それがなんだと言うのか」

「!」


スミス辺境伯の言葉は、ルカリオの熱くなった頭を少しずつ冷ましていく。それはルカリオにとって、あまりに残酷な事だった。


「王太子殿下は我が愚息に多少なりとも温情をくださった。そのご恩に報いる事ができるのならば、私はどんな事でも致しましょう」

「ッ……嘘をおっしゃらないでください!貴方はただ息子を見捨てた王が憎いだけでしょう!あの男が犯した罪をお忘れですか!?あんな愚かな──」

「愚かでも私の息子だ!」


ルカリオが捲し立てようとした時、スミス辺境伯が初めて声を荒げた。その言葉はあまりに父親らしく、彼を知る者ならば目を見開くほど愚かな言葉であった。


「国を危機に晒した、確かにそうだ。けれど…私の愛した息子だった。それは今でも変わる事はない。だから私は王太子の言葉に乗ったんだ」

「…もしその結果、国が混乱の渦に飲み込まれたとしても、そうおっしゃいますか?」

「無論、その時はこの命を賭してでも国を守ると誓います………だが、貴方にそれを言う権利があるのか?サリンジャー子息」

「そ、れは…どういう…」

「カタルシア帝国の名を使えと王太子に入れ知恵したのは貴方だろう」

「ッ…!」


あの優しく志高いアルベルトが己の思いを貫くためとはいえ、他国の名を汚すとは思えない。ならば、誰がカタルシア帝国の名を持ち出したのか。それは一人しかいない。

次世代の王を支えるために生まれた公爵家の子であり、アルベルトが全てを吐き出す事のできる人物。───…ルカリオ・サリンジャー、ただ一人。


「共犯者の顔が見れて安心したところで私はそろそろ失礼します。これからは同じ王を敬う家臣として、国の益々の発展に尽力しましょう。サリンジャー子息」


にこりと笑ったスミス辺境伯は、またコツコツと歩みを進めた。ルカリオは奥歯を噛みしめ、苦渋に濡れた顔を隠す様に額に手を当てる。


「なんでこんな事にッ…俺に、俺にお前を殺させないでくれ…アルベルト…ッ」


幼少の頃から笑い合ってきた友だとしても、ルカリオはアルベルトに忠誠を誓った臣下だ。ルカリオはアルベルトの決断を否定できない。それがたとえアルベルト自身の意思で、なかったとしても…。

お読みくださりありがとうございました。

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