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第二百三十二話 密かな会合

視点なしです。

時は約一週間ほど前に遡る。

アステアがライアンを近衛騎士として歓迎していた頃、アルバ国のとある屋敷では王太子であるアルベルトが貴族家の当主達を集め、密かな会合を開いていた。


「アルベルト王太子、今回のお声掛けはどういう意図ですかな?」

「そうです。ご様子を見るに国王陛下も承知ではないようですし…」

「王太子としての地位が確立されてきたのは確かですが、あまり勝手な事をなさるのはいかがなものかと思いますぞ」


ここに集まったのは皆アルベルトを王太子として認めた者達だ。カリスマ性があり、現国王の実子であり一人息子、民からの信頼もあるアルベルトを誰が支持しないのかという話ではあるが、それでもここにいるのは特にアルベルトを次期王にと強く声を上げた者達。

つまり、アルベルトにとってはこの上なく動かしやすい「駒」であった。


「単刀直入に言います、貴公方に王へ刃を向ける覚悟はありますか?」


ガタッ──


思わず立ち上がってしまったらしい貴族が、アルベルトをあり得ないものを見る様な目で見つめる。他の者も皆そうだ。

確かに現国王であるアーロンは父親としては最低な人間であるかもしれない。けれど、国王としては文句の付け所がないのだ。あるとすれば、少々浪費家なところか。それでも何を言わずに補える範囲の事だ。

言ってしまえば、アルベルトがアーロンに反逆する理由など、この世のどこにもないはずなのである。


「王太子殿下…今のお言葉は聞かなかった事に…」

「この意志を変える事はありません」

「っ!ここはお聞きください王太子殿下!国に混乱をもたらす気でいらっしゃるのですか!?」


アルバの貴族が最も大切にしているのは「国」そのものだ。国を守るという事は国の民を守る事と同義。そしてそれは自身らの家族を守る事へも繋がる。

だからこそ、貴族達は信じられなかった。国を治めるに値する人間だと思っていたアルベルトが、国を、自身らの家族を危険に晒す様な事を言うのだから。


「そう騒ぎすぎるな。アルベルト王太子殿下も何も考えなしに言っているわけではないはずだろう」


その重厚な声は、アルベルトへ非難の視線を向ける貴族達を振り向かせるには十分だった。


「スミス辺境伯…!」


貴族の誰かが言う。

その名は、最近までアルバでは口にする事が控えられていた名であった。

理由は至極簡単。今椅子に座っているスミス辺境伯の実の息子が何を血迷ったのか、カタルシア帝国の第二皇女を襲おうとしたからである。もちろん第二皇女とともに来日していたカタルシア帝国の皇太子は大激怒。皇女が取引として保護していた人間を要求していなければ、国同士の亀裂…いや、戦争になっていただろう。

軍事国家であるカタルシア帝国と戦争など馬鹿でもしない所業だ。


「アルベルト王太子殿下、理由は話してくださると思っていますが、それは我々が納得できるものでなければ最悪の場合王太子の座から降りてもらう事になります。それでも、先ほどの言葉を聞かなかった事にはするなとおっしゃいますか?」

「もちろんです」


スミス辺境伯の言葉に間髪入れずに答えたアルベルトに、貴族達が目を見開く。


「………陛下はカタルシアと戦争をしようとしています」

「なっ!?」

「そんなわけがないでしょう!殿下!」

「やめないか、最後まで話を聞こう」


驚きを隠せずアルベルトの言葉を遮る貴族達を制してたのは、やはりスミス辺境伯だった。息子があれほどの失態を犯したとなれば親である者も糾弾され蔑まれるが、スミス辺境伯はその人柄や国への忠誠心ゆえに変わらず貴族達から信頼を寄せられている。そんな男の一声だ。

誰もがアルベルトに意を示したい中、誰も声をあげる事はなくなった。


「目的はカタルシア帝国の第二皇女…。おそらくはあの事件で、国王相手に堂々と取引を持ちかける威風堂々な姿が気に入ったのでしょう。その美貌も、陛下が気に入るには十分です」


そんな事で戦争など、と言い切れないのがアーロンという男だった。アルバがここまで栄えているのは、アーロンの貪欲さゆえの商才も大きいのだろう。

あの美しさや完璧を求める性格は、すでに国民にも広く知れ渡っていた。

本当に気に入ったのならば、戦争とはいかなくとも、姫を手元に置くためにはどんな手段も選ばないと言う事が容易く想像できてしまう。


けれど、カタルシア帝国の第二皇女は謎が多い人物だ。


その美しく愛らしい姿から「妖精姫」との呼び声高く、帝国の天使と謳われるカタルシア帝国第一皇女の実の妹。皇帝に溺愛され、誰の目にも触れる事がない様に隠されてきたとも言われているほどだった。加えて、好んでエルフの忌み者を側に置く奇怪な趣味の持ち主でもあり、執事は人間ですらないと言う。

あくまで全て噂だが、それでも皇帝が子供を溺愛していると言う話は本当だろう。

もしそんな麗しの姫を奪おうとすれば…。


確実に、戦争になる。


全てを加味した上でならば、先ほどのアルベルトの言葉も頷けない事はなかった。


「どうかご一考ください。私は戦いの王者カタルシア帝国と争い民を無駄死にさせるよりも、王を…父を力尽くで止める事を選びます」


深く、深く頭を下げるアルベルトに、その場の誰かがゴクリと生唾を飲んだ。

お読みくださりありがとうございました。

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