第二百三十話 穏やかスマイル執事め
クレイグに子供達の事を任せてから二日後。私は朝、目が覚めてクレイグ達が起こしに来ない事を不思議に思いながら部屋を出た瞬間、絶句する羽目になる。
「あ!お姫様!」
「サラ、アステア様って呼ばないとでしょ?」
「よ、よろしくお願いします!アステア様!」
待ってくれ、ちょっと待ってくれ。なんで私の屋敷に子供達がいるわけ?しかもみんなが着てるのって、第三屋敷の使用人が着る制服…だよね!?
「お姫様?どーしたの?」
アッ可愛い……って、そうじゃない!!
「な、なんでみんながここに…?」
「??お姫様が来て良いよって言ったんでしょ?」
「え?はい?」
私が…?
全く状況が飲み込めずにいると、サラちゃんが「大丈夫?」と言いながら頭を撫でようとしてくれる。え、可愛いの権化ですか?とりあえずしゃがんで頭を撫でてもらっていると、次はディウネが泣きそうな顔で「まだ怒っていらっしゃるんですか?」と聞いてきた。
「おこっ…?」
「本当にすみませんでした。まさか全部知ってて私達に接してきてくれているとは知らなくて、私、みんなを守らなくちゃって…っ」
「え!?え!?なんで泣くの!?別になんも怒ってないんですけど!?」
「ほ、本当ですか?なんて優しい…!」
「とりあえず泣き止んで!!」
なんでほっとしても泣くのよ!!めっちゃ焦るからやめて!本気で目が飛び出るほど驚くから!!
「アステア様、ごめんなさい。ディウネのお姉ちゃんね、嬉しくて泣いちゃってるんです。アステア様が僕らのこと、利用しようとしてないから」
上目遣い可愛いな……ってちゃうやろがい!!
ダメだ、このままだと可愛いと驚きの過剰摂取で心臓止まる。
「と、とりあえず、移動しよ…か?」
この状況をどうにかしようと、きっと元凶であるだろう男の元へ向かわなくてはいけない。穏やかスマイル執事め、私が驚くってわかってて絶対隠してただろ。私が移動しようと言うと、ディウネ、サラちゃん、ノノの三人は素直に頷いてくれた。
───
「おや、アステア様。おはようございます。起こしにいけず申し訳ございません」
「だからどういう事だっつの!!」
ニコッと笑いかけてきやがった執事様に怒鳴ってやれば、ビクッと反応してしまったのは…。
「こ、怖いぃ…」
「あ、いや、君達に怒ったわけじゃないからね!うん!」
可愛らしい子供達がフルフルと震えながら見上げてくる。クレイグが心なしか楽しそうに笑い、近くで子供達に話しかけていたエスターが、「アステア様!」と言いながら駆け寄ってきた。
「え、なんでエスター驚いてないの?もしかして知らなかったの私だけ?」
「びっくりさせようと思ったんです!それに知らないのはライアン様とリンク様も同じですよ?」
「あぁ、お二人には先ほど説明しましたよ。なのでもうすぐ来るはず…」
「第二皇女殿下!!!!」
「今度は何!?」
壊れるんじゃないかって勢いで部屋の扉を開けたのはライアンで、私はいつも穏やかで真面目なライアンの初めて見る姿に目を見開いた。
「感服しました!!まさか子供達全員を引き取るとは!!このライアン、仮だとしても第二皇女殿下の近衛騎士になれた事を誇りに思います!!」
めっちゃデジャブを感じる…。あ、あの時のか。リアンが騎士にしてくれって言ってきた時と全く同じ感覚。やっぱり騎士の才能がある者同士似通ってるところがあるのかもしれない。
「ライアン、いきなり叫んだらアステア様がびっくりするだろ?それに子供達も怖がるからやめてやれ」
「はっ!す、すみません!子供達も、いきなり叫んでごめんね…?」
ライアンの後ろからひょこっと顔を出したリンクが、穏やかに笑う。なんだろう、リアンの弟とは思えないほど心の癒しだ。………リアンに向かって死ねとか殺すとか言っていた事には見て見ぬ振りをしておこう。
「……で、クレイグさんよ。この状況は説明してもらえるんだよね?」
じろり、にこやかに笑うクレイグを見れば、クレイグは至って普通に「もちろんです」と答えた。毎回思うが、なんでそんなに余裕なのか…。
「結論から言えば子供達を引き取りました。部屋も余っていますし、面倒は私やエスターが見る予定です」
「それは良いけど…」
「もちろん子供達の魔力についても確認済みです」
「!」
やっぱり子供達は魔術じゃなく、魔法が使えるらしい。こんなに早く動くとは思っていなかったけど、クレイグに確認してもらえた事で少し安心する。
「子供達の事は責任を持って、精鋭に鍛え上げて見せますとも」
「…………ん?」
あれ?今の聞き間違いかな?
「せ、精鋭って…」
「サラね!お姫様を守るかっこいい魔法使いになるんだよ!」
「えっ」
待て待て待て!使用人として子供達を引き取るのは物凄く良い案だと思うよ!?でも、子供達を魔法使いとして育てるのはいかがなものか!
「魔法使いになる事の危険性や、アステア様を守る事の重要性は全て説明しました。それでも学びたいと。他に何かしたい事が見つかればもちろんそちらを応援しますし、それまでは学んでおいて損はありません」
「うっ…正論…」
私が肩を落とすと、私を見上げていたサラちゃんがニッコリと笑う。
かくして、私の屋敷はまた一段と騒がしくなったのだった。
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