第二十三話 嘘吹き込むんじゃないよ!
「フィーちゃん!リアンどこ!!」
バンッ!!!
皇女らしからぬ荒々しい音を立てて扉を開ける。
「あれ〜?皇女様がこんなところになんの用?」
「おっとり口調可愛いね!!でも今はそこじゃないの!リアンなの!!」
「相変わらず意味不明だね〜」
ふふふっ、とおかしそうに笑う目の前の少女は、皇宮お抱えの医者、の助手。
──レフィ・ドットーレ──
超がつくほどの美人で、一応私と同い年。だけど身長がずば抜けて高く、確か最近測った時は178㎝だったらしい。
まだ14歳だからもっと伸びるだろう、末恐ろしすぎる。
同い年という事もあって一時私の話し相手をしていた事もあったが、相手が誰であろうと自分の姿勢を崩さないマイペースだったため、早々に辞退してしまった。
まぁ、その時の名残で私は素を出して話しているし、フィーちゃんも「友達」と思ってくれているらしい。皇女という立場にいる私からすれば有難い存在だ。
いつもならフィーちゃんの好物であるお菓子を持参して、フィーちゃんの養父であり皇帝の主治医である男が帰ってくるまで食っちゃべっているのだが、今回はそうもいかない。さっさとリアンが寝ているというベッドへ案内してもらう。
「確かあっちで寝てるよ〜」
「あっち?って、ベッドに入ってないの!?」
「なんか「俺のためにベッドを一つ潰すなんてとんでもない」とか言って毛布でくるまって寝ちゃって…」
確かに、フィーちゃんの養父兼皇帝の主治医様には部屋が用意されていて、その部屋にあるいくつかのベッドは高級品揃いだ。部屋のイメージは学校の保健室なのだが、ベッドで寝る事に関しては恐れ多すぎて遠慮する者が多いだろう。
「あー…リアンさん?起きてますか〜?」
恐る恐る声をかけてみる。地下で負わされていた怪我は浅いものばかりだったため、ほとんど癒えているらしいが、それでも病人だ。寝ているんだったら明日の方が良いかなぁ、と我ながら優しい事を思ってみる。
だが、声をかけたリアンの反応は、全く予想だにしていないものだった。
「アステア・カタルシア・ランドルク第二皇女殿下ですか!?」
まさかのフルネームで勢いよく飛び起きたのは、檻に入れられ蹲っていた男…のはずだ。
「俺、じゃなくて、私はリアンと申します!」
「お、おう…元気だな…」
「はい!」
最初に見た時は今にも死んでしまいそうなほどか弱く見えたのに、何故か今は尻尾を千切れんばかりに振る犬にしか見えない。え、近所にいた元気すぎる犬と激似なんだけど…。
意味がわからずフィーちゃんに助けを求めると、何故かニコッと微笑まれた。
「ずっと「俺を救ってくれたのは一体誰ですか?」って聞いてきたから、たーっぷり、十二分ってほど教えてあげたよ〜、私偉いでしょ〜」
それって世に言う洗脳じゃないですよね、レフィさん。この懐きぶりは異常よ、なんなの。もう頭撫でたくなってきたんだけど!?
「皇女様!どうか私を側に置いてくれませんか!?」
「なんでそうなんの!?」
とりあえず状況確認が最優先って事で!!誰か私に状況を説明して!!
───
どうにかリアンを落ち着かせて、フィーちゃんから話を聞く。
曰く、私がリアンをアルバから連れて帰ってきた時の事を最大限美化して語ってあげたそうだ。
「アルバの悪徳辺境伯に捕まった民がいる事を察して潜入し、身を挺して奴隷となった者を救い、挙げ句の果てにはその身元も保証した聖女の様な人?誰だそれ、ワタシソンナヒトシラナイヨ」
「でも面白くない〜?」
面白くないよ!面倒すぎるよ!!
私が連れ帰ってきたのはヨルとリアンだけ!他の人はアルバの国王であるアーロンに全投して帰ってきたし!身元保証の話も、納得のいく処遇を提示してもらっただけです!そもそもアルバの王宮内に地下牢のある屋敷があり、その地下牢で見世物小屋紛いの事がされていたのだ。知っている者を全員殺すか、知っている者全員に満足いく処遇をしてやるかの二択しかない。知っている者の中に他国の姫や皇太子である私や兄様がいるのだから、どちらを選ぶかなどわかりきっていた事だ。
だから全部放っておいて帰ってきたのに!リアンに嘘吹き込むんじゃないよ!
「り、リアン、私が言った事聞いてたよね?私、そんな事してないから」
「ですが、そこまでの判断をされたのは第二皇女殿下です。それなら私が仕えるに値いたします!」
えー…話全然聞いてくれないんだけど…。
「……とりあえず、名前教えて、フルネームで」
「はい!私の名はリアン・リディア。元ではございますがフィニーティス王国の小伯爵でした!」
………キラキラした目をとりあえず閉じて欲しい。そして、おそらくリアンと正反対の性格であろうヨルに今すぐ会いたい。
私は切実にそう思った。
お読みくださりありがとうございました。




