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第二百二十六話 全く違う晴天の

教会から屋敷の方へ戻ってきてます。

この世界には魔物や亜人種、魔術に魔法などが存在している。無論それに準じた職業も複数存在しているわけで、その中でも最も知られているのが魔術師だ。

この世界の人々には馴染みのあるものでも、転生者の私にとっては憧れるには十分すぎるほどのものだった。

しかも皇族として生まれたおかげか生まれつき魔力量も多く、クレイグによれば使おうと思えば使えるらしい。まぁ、兄様のように戦場に出なければいけない機会があるわけでもないから、危険を伴う魔術の授業はさせてもらえていないんだけど。

そして、魔術の授業禁止令を出している張本人、我が父親様に聞いた事があった。


──魔術は勉強しないと使えないの?──


前世で転生などを取り扱った漫画や小説を読む事もあった。そのおかげであまり取り乱さずに状況を整理できたところもあるし。

そんな漫画や小説の中では、主人公は自然と魔法や魔術を使う事ができていたのだ。だが、現実は物語のようにはいかないらしく。


──魔術は術式を完璧に理解しないと使えるものじゃない。もし勉強せずに使えるのだとすれば、その者は魔法使いなんだろうな──


もう童話でしか聞かなくなってしまった言葉。もし本当に存在するのであれば、どの国も喉から手が出るほど欲しがる人材だろう。

戦争の道具にする事だって、国を豊かにする生贄にする事だって、果ては謎を解明するための実験体にする事だって可能なんだから。


「あの子達は……」


可能性なんてゼロに等しいだろう。だけど、直感的に思ってしまったんだ。あの子達は、そうなんじゃないのかと。

でも、それは私じゃ確認できない。だからこそ、クレイグに…。


コンコンッ──


部屋にノック音が響く。

クレイグは先ほど出たばかりだし、もう夜なのにわざわざ私の部屋を訪ねてくるなんてエスターか?


「ライアンです。お聞きしたい事があるのですが、お時間よろしいでしょうか」

「ライアン…?」


予想外…というか、あの子夜中に女の子の部屋を訪ねるような性格だったか?

何か急ぎの用かとも思ったが、声色的にそうでもないようだし。私はとりあえず「入って良いよ」と声を返した。


「失礼します…」


そう言って入ってきたのは、もちろんライアン。だけどその顔は真面目そのもので、笑みすら浮かべてはいなかった。


「どうかしたの?夜中に訪ねてくるなんて…」

「すみません…あの、先ほどクレイグさんが外へ出て行かれたのですが、どこに行ったのでしょうか」

「………」


これはもしかして、今ライアンは私に探りを入れてるのか?

え、なぜに。


「教会で何か気になる事でもあった?」


思い当たる事と言えばそのくらいだ。もっと言えば私が聞かれたくない事も思いつくんだけど、直球で聞いてきたらその時はその時。

ライアンにそのつもりはないんだろうが、主人に探りを入れるなんて騎士としては不合格、落第点ものだから。少しキツく言っても教育としてライアンは素直に受け止めてくれるだろう。

私が質問で返した事で少し戸惑ったのか、ライアンは数秒口を噤んだ後に、「第二皇女殿下の近衛騎士を努めていた人がいたとは聞いていました」と話し始めた。


「詳しくは知りませんが、第二皇女殿下が初めて選ばれた騎士だとも聞いていました…なのに、なぜその方の話が一度もないのでしょうか?話が上がったのは今日の教会だけ。私には皆さんがわざとその方の話題を避けているとしか思えなくて…」

「知ってどうするの」


純粋ゆえの疑問だろうがなんだろうが、従者が避けるという事は主人が避けている事と同義。ライアンは貴族出身ではない事に加えて、騎士学校という普通の学校とは違ったところで暮らしている。そのせいで少し鈍くなるのも仕方ないが、これはあまりにも鈍感すぎだ。

冷たい空気を纏った私の言葉が、真っ直ぐに私を見据えていたライアンへ刺さる。けれど、ライアンが目を逸らす事はなかった。


「短い期間とは言え、私は第二皇女殿下の近衛騎士を全うすると決めています。であれば、第二皇女殿下が望んだという先達の事を知っておかなければいけないと思いました」


強い眼差しはなんとも頼もしく、物語のヒロインにでもなれそうな美少女二人が惚れ込んでしまうのもわかる気がする。

きっとライアンは、わかった上で聞いているのだろう。私やクレイグ達がわざと避けているのだと、全てわかった上で。


「ヨルは強かった、綺麗だった。ただそれだけだよ」


懐かしい濁った夜空の色をしたエルフ。忌み者と言われていようがなんだろうが、私の目には綺麗なものとして映っていた。笑う姿がカッコ良かった。

なんで出て行ってしまったのか理由なんてわからないけど、それだけは事実で、私はそれだけの理由でヨルを側に置いていたのだ。

私の口から出た言葉に、ライアンは少し目を見開いて、それから頷いた。


「ありがとうございました」


ヨルと似ているはずなのに、全く違う晴天の夜空が覗いてくる。少し寂しくなった日には濁った夜空がお似合いなんだけどなぁ、と思いながら、私は部屋を後にするライアンの背中を見送っていた。

お読みくださりありがとうございました。

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