第二百二十一話 面白いなとか思ってませんから!!
まぁ自己紹介の部分で副騎士団長二人の名前が知れたのはラッキーだ。
そういえばマシューとライアンはどうしてるかなと思い、二人の方を見ればマシューのところには見知らぬ丸メガネの男が立っていた。
「皇太子近衛騎士団の副騎士団長代理をしてます。基本的な指導は僕がするから、よろしくね、マシュー君」
「あ、よ、よろしくお願いします!」
な、なんて穏やかな人!?!?無表情な副騎士団長と、見るからに男臭い副騎士団長を見た後だと何故か目に染みる!!
代理って事はあの人がブレイディの補佐でもしてるのかな?
「あの…」
「え?あ、ライアン…」
控えめに声をかけてきたのは、何を隠そうライアン君。私の挙動不審さにどうすれば良いのかわからないと言った顔をして、それでも気遣うように「大丈夫ですか?」と聞いてくるなんて!優しすぎるよこの子!
「久しぶりですね」
「はい。今回はお世話になります!」
太陽のような笑顔で言われ、若者の笑顔って眩しいな、と思う。目の次は心に染みるわぁ。
私の目に狂いはなかった、なんてちょっと上から目線で思ってみたりして。私は控えていたクレイグに、ライアンの荷物を私の馬車へ移すように指示を出す。このまま一緒に帰ってしまっても良いだろう。
「えーと…マジャ副騎士団長」
「はい、なんでしょう」
「このまま学生達が各々の騎士団に行くようでしたら、もうライアンを連れて行きたいのですが…」
「わかりました。他の生徒もすぐに移動させるのでご自由になさってください」
はっきりした物言いは時に人を突き放すんだよ、マジャ…。
そんな心の声はもちろん心の中だけに仕舞っておいて、私は空間魔術を駆使してさっさと荷物運びを終わらせたクレイグと並んで、改めてライアンに向き直った。
「改めて、これからよろしく。ライアン」
一応仮とはいえ私の近衛騎士として動くわけだし、敬語はいらないだろう。私が握手をしようと手を差し出すと、ライアンは少し恐縮しながらもその手を取ってくれた。と、その時だ。
ギロッ──
「!?」
背筋にゾワッとした悪寒が走った。え、何…と思って見渡してみると、目があったのは高飛車そうな女の子…。
あっあー…。
「…モテる男は辛いね、ライアン」
「?」
よく見てみればその後ろから可愛らしい女の子もこっちを凝視してるし、なるほど、三角関係か。あの二人が手を組んでいるにしろ、ライバル関係にしろ、私はどこからか横槍を入れてきた見知らぬ女ってところか?いやー、ライアンの事は応援してるけど、そういう意味じゃないんですけどね…。
奪うつもりとかないよー、と伝えるために二人に手を振ると、何故か高飛車娘にはさらに睨まれて、可愛い子にはムッとされた。
………恋する乙女の勘違いを加速させてしまった。
いや、ちょっと面白いなとか思ってませんから!!
「こういう時は気にしないに限る!」
「え!?そ、そうですね…?」
「ライアン様、アステア様の独り言には反応されないのがよろしいかと思います」
すでにクレイグから助言をもらって、礼儀正しく「わかりました!」と返事をするライアンの良い子な事よ。なんか最近私の周りにエスターといい、リンクといい、ライアンといい、犬系が増えてるのは気のせいだろうか。
無意識に癒しを求めてる…?
「クレイグも実は犬系だったりする?」
「………まだ体をお休めになった方がよろしいかもしれませんなぁ」
「なんか遠回しに頭おかしいって言われた気がするんだけど!?」
「はて、どうなのでしょう」
ニコニコの笑顔で言ってくるクレイグに「う〜!」と唸る。まぁ、そんな事がクレイグに通用するはずもないけどね。
「はぁ…まぁ良いや。さっさと帰ろ」
兄様から譲り受ける件は別に急がなくても良いので、後日挨拶に行く事にしよう。
クレイグが馬車の扉を開き、近衛副騎士団長達に会釈をしながら馬車に乗り込む。途中、他の学生達がライアンとの別れを惜しむように悲しげな顔をしていたので、ライアンは相当慕われているらしい事が伺えた。
「………確かに、皇太子の騎士にはもってこいだな」
「え?」
無意識に出てしまった独り言にライアンが反応する。なんでもないよ、と首を振ると、先ほどもらったクレイグからの助言を素直に受け止めたライアンが小さく頷いた。
慕われて、助言を受け入れる素直さもある。何より学園長から推薦を受けた。それはつまり現皇帝の近衛騎士団長が最も期待をかけているという事でもある。
そんな子をわざわざ近衛騎士団も持たない私に回すなんてな。若い暴れん坊がいるって話だったけど、もしかして気を遣わせてしまったのだろうか。
大臣連中の迫りを避けるためとはいえ、ちょっと申し訳ない事をしたなぁ、と思ってしまった。
………兄様に挨拶行く時、ちょっとは可愛いげのある妹でいよう…。
「…クレイグ、期待に添えるよう鍛えてあげてね」
私にできる事といえば、ライアンに騎士の卵として有意義な経験をさせてあげる事くらいだ。
笑顔で応えたクレイグを見て、私はこれからとことんしごかれるであろうライアンの未来を思い、同じく穏やかな笑みを浮かべた。
決してクレイグの厳しいしごきを思ってライアンから目を背けたわけではない。
決して!!
お読みくださりありがとうございました。




