第二百二十話 新キャラ登場ですかー!?
城門まで来ると、私に気づいた騎士達が驚くより先に列を正した。歓迎のために集まっていると言っても数人程度だ。おそらく訓練を抜けられる人間が迎えに来ているだけなのだろう。
「第二皇女殿下におかれましてはご機嫌麗しゅうございます。失礼を承知でお聞きしますが、このような場に何用でしょうか?」
そう言って一歩前に出たのは、ショートを通り越した短髪がよく似合っている女性。確か姉様の近衛騎士団で副騎士団長をしてる人で、名前は…。
「……ご機嫌よう、第一皇女近衛副騎士団長」
ごめんなさい!!忘れました!!
いやね、姉様の事守ってくれてるのは感謝してるんだけど、なにぶん話すのがレイラくらいなものなんで全くと言って良いほど近衛騎士団の子達と会う機会がないって言うかね…うん…ごめんなさい…。
なんとかポーカーフェイスを保ったまま対応すると、副騎士団長は端正な顔をピクリとも動かさずに「はい」と答えた。うーむ、笑顔も見せないとはある意味個性的である意味無個性な子だな…。
「それじゃあ無愛想が過ぎんじゃねーの?マジャちゃーん?」
「マーティン副騎士団長、私に話しかけるより第二皇女殿下へのご挨拶が先ではないですか?あと触らないでください」
おっと新キャラ登場ですかー!?
姉様の副騎士団長の頭をグリグリと無遠慮に撫で回した男は、私の記憶を漁る限り、たぶんきっと父様の副騎士団長だ。名前はやっぱり覚えてない。
関わるのが騎士団長しかいないんだよ!
騎士団長は基本的に主人である皇族の側を離れない。代わりに副騎士団長がそれぞれの騎士団をまとめており、訓練などの指導も行っている。
ちなみに兄様の近衛騎士団は別で、副騎士団長がいない。なので、ブレイディが訓練指導も行っており、普通の騎士団長よりも負担が倍増しているのだ。
「おぉ、確かにそーだなぁ。こりゃ失礼」
ガハハハと大笑いする姿はどっかのバカ親を思い出させるが、ちょっと違うのは掴み所がない点だ。
脳ある鷹は爪を隠すと言うけど、これはそのタイプかもしれない。
無造作に伸ばされた長い髪を雑に結んだ男、もとい父様の副騎士団長はニッと私に笑いかける。
「ご機嫌麗しゅう姫殿下」
デーヴィドと比べるとだいぶ男らしい父様の副騎士団長に言われ、私はにこりと笑って返した。どーしましょ、誰も名前わかんないんだけど。
笑顔を浮かべながら頭を悩ませて、結局知ってる人に聞くのが一番だよな!と思い至る。
と言う事で後ろに控えているクレイグを呼ぼう。
私が焦りを気づかせないようにゆっくりとクレイグに振り返った、その瞬間。
「副騎士団長!学生達が到着したようです!」
女性じゃないのでおそらく父様の騎士団の団員が、綺麗な姿勢で報告した。よく通る良い声ですね…。
「お?もー来たかー!」
楽しげに父様の副騎士団長が言うと同時、城門がゆっくりと開いていく。皇城に来るといつも見ている光景ではあるがそれは馬車の中でなので、こうやってほぼ真下から見るのは迫力があって面白いものだ。
学生達を乗せた馬車が三台、控えめに速度を落としつつ私達の前で止まった。
カタッ──
それだけで緊張が伝わってきそうなほど小さな音を立てながら、馬車の扉が開く。中から顔を出したのは、可愛らしい雰囲気の少女だった。
次いで出てきたのは、いかにも高飛車そうな子。どちらも物凄い美少女だ。
二台目の馬車から降りてきたのは吊り目で気の強そうな男の子と、ふくよかな体型が癒しを与えてくれるマシュー、最後にライアンだった。
男子と女子で分かれていたのだろうか。三台目には荷物が乗っているらしかった。
「わざわざ出迎えていただけるとは…。お心遣い感謝します」
ライアンが綺麗な所作で頭を下げると、父様の副騎士団長が面白そうに「ほぉ」と声を鳴らした。
「初めまして。到着して早々で申し訳ないのですが、名前を確認しても?」
姉様の副騎士団長がそう聞くと、ライアンを筆頭に全員が頷いて見せる。
いや、しかしまー…。
ライアン達が並ぶ姿はまさに理想のカースト上位組だこと…。癒しのポッチャリ系に不良系イケメン君やタイプの違う美少女二人なんて普通なら絶対に関わり合いがないだろうに。極め付けはライアンだ。あの、ザ・良い奴!みたいなライアンが真ん中にいる事で全体の雰囲気が神々しくなってらっしゃる。
こんなのリアルに存在するんだな、まぁゲームの世界なんですけど、と私が思っていると、どうやら全員の確認が終わったようだった。
「わかりました。では女子生徒二人は第一皇女近衛騎士団に仮入団という事になります。指導は近衛騎士団副団長である私、マジャが行います。速やかに荷物をまとめて用意していた部屋へ移るように」
「は、はい!」
「わかりましたわ」
「そこの吊り目は皇帝の近衛騎士団だ。このオレ、コール・マーティンが指導してやるんだから光栄に思えよー!ガハハハ!」
「吊り目!?テメェもっぺん言ってみろ!!」
これだけでなんとなく性格がわかるのってすごい事だ、と特に個性的な返事をする吊り目ボーイを見て思った。
お読みくださりありがとうございました。




