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第二百十九話 歓迎するために

約一週間後。

治療魔術でかかった体の負担も回復して、レントさんから激しい運動をしても良いと許可がおりた。小走りさえさせてもらえなかったのは地味に辛かったので有難い事だ。


「今度はちゃんと守ってもらう事じゃな」


少しばかり嫌味の混ざった言葉に、私だけではなくクレイグも苦笑いする。

父様でさえ頭が上がらない人だし、何より尊敬できるため、レントさんにはクレイグも強く出れないのだ。


「あぁ、そういえば、アレがお前さんのものになるのは今日だったか?」

「アレ?」

「皇太子から譲り受ける約束をしたんじゃろう?面倒なだけだと言うに物好きな姫様だ」

「えー…なんで知ってるんですか、そんな事」

「そこら中で噂になっとるわ」


つまり、少なくとも皇城の人間であれば誰でも知ってると言う事だろう。別に何か企んでいるわけでもないから大事にしたくはないんだけど、これはちょっと面倒だな…。


「派手に動くのも大概にせい。そろそろ皇帝の退位と皇太子の即位の日程も決まる頃じゃ。それに、お前さんの大好きなカリアーナの婚約も進んどるようじゃし…」

「へぇ……えっ!?」


それドユコト!?

皇太子になって何年か経ってるし兄様の件はなんとなくわかるけど、姉様の婚約!?は!?


「騒ぐな。まだ王同士の話し合いで止まっとるわ。当人達も知らんはずだ」

「あ…そう、なんですか…」


もし知ってて私に一言もなかったらシメる、ブラッドフォードを。ついでにクリフィードもシメちゃる。


「そういう事だ。何か問題起こして大好きな姉に迷惑がかかるのも嫌じゃろう?」

「うっ…それ、私に一番効く脅しってわかってて言ってますよね…」

「当たり前じゃ。ただでさえ変な客人の対処をお前さんが寝てる間にしたのに、当の本人に反省がなけりゃ拳骨もんよ」


変な客人、というのはきっとブレア達の事だろう。ブレアは次期教皇候補というだけあって治療魔術などの知識が豊富で、それを見抜いたらしい父様が対処をレントさんに任せたそうなのだ。

私の治療もしつつ客の世話も押し付けられた事に腹を立てたレントさんは父様の頭に拳骨を入れてから、ブレア達を丁寧にもてなしてくれたらしい。


「もう少し早く目覚めておけば見送りの挨拶くらいはできただろうになぁ」

「私が起きる二日前に帰っちゃったんでしたっけ」

「あぁ、国の方から帰って来いと言われたんだと。全く最近の若いもんは隠し事もできんのか」


どれだけ仲良くなったのか、それともブレアの隠し事が下手なだけか。たぶん前者なんだろうけど、ブレアは名前や身分だけを隠し、その他の目的は基本的にレントさんに白状してしまったようだった。ちなみにカタルシアに来た目的と言うのはもちろんシャーチクの事で、こそこそと調べるのに飽きてレントさんに直接聞いてしまったらしい。

解説付きで教えてやった後にさっさと帰りおったわ!とちょっと拗ねたように言ったレントさんは、きっと話が合う若者が去ってしまって寂しくなっちゃったんだろう。本当に可愛いおじい様だ。


「レフィ!薬はまだか!?」

「せんせーうるさ〜い。もう用意できてるし〜」


耳を塞いで治療室の奥から現れたフィーちゃんの手には紙袋があった。おそらくその中に薬が入ってるんだろう。

できるだけ苦味を抑えてるらしいが、それでも薬と聞くとゲンナリしてしまうのは仕方のない事だ。


「もし体調に異変が起きたら飲むんだぞ?痛み止めと緩和の効果がある」


もう完全に回復しかけているとはいえ、やはりまだ完璧とは言えない。私は小さく頷いて見せると、レントさんに「ありがとうございました」と頭を下げた。


「レフィに会いに来る以外ここには来るんじゃないぞ。また怪我なんぞしおったら皇帝と皇太子の命はないと思え」

「父様と兄様を人質にできるのレントさんくらいですよ、ホントに」


冗談だから良いけど、レントさんが本気出したら本当にできそうで怖いところだ。

私はクレイグが薬を受け取るのを確認すると、上機嫌で椅子から立ち上がった。レントさんやフィーちゃんといるのも楽しいけど、今日のメインイベントはずっと楽しみにしてた事だから仕方ないよね!


「じゃあ失礼します!」


ニコッと笑って治療室を後にする。清々しい私の笑顔を見て、レントさんが呆れたように息を吐き、フィーちゃんは人を癒す笑みで見送ってくれた。


「クレイグ、もう来てる?」

「いえ、ですが一時間もしないうちに来るでしょう」

「そっか〜」


楽しみすぎて皇城の治療室から直で迎えに行く。たぶんエスターがいたらドレス着替えましょうとか言うんだろうけど、今日はリンクと一緒にお留守番中だからね。

私はニマニマと締まりのない顔をそのままに、学生達を歓迎するために集まった騎士達の元へ向かった。


「騎士の雛鳥を迎えに行きましょー!」


上機嫌な私の声が、広い廊下に響き渡った。

お読みくださりありがとうございました。

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