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第三百十話 目覚めた事を報告…

途中から視点なしです。

レントさんから動いても良いと許可が降りたので、とりあえず最初は父様へ目覚めた事を報告…。


「良かった…本当に、良かった…ッ」


執務室を訪ねてからかれこれ1時間。涙は流さないものの安堵の言葉を永遠と繰り返す父様に抱きしめられるばかりの時間が過ぎていた。


「父様…」


流石にいい加減にしてください…。

最初の10分とか、長くて30分なら私も感動できていた。こんなに心配してくれたのかと。でも1時間は長いて。私これから母様にも姉様にも兄様にも挨拶行かないといけないんだから。

ちょっと冷たいかもしれないが、父様の腕を解く。


「そろそろお母様のところに行かないといけないんですけど…」

「そう、だな…ロゼッタにも元気な姿を見せてやってくれ」


心底惜しいというふうだけど、母様の名前を出されては父様は引くしかない。


………この様子だと、ヨルの事を聞くのは無理そうだ。


1時間も私を抱きしめていたせいで父様の服はヨレヨレになっていて、しかも本当に穏やかな安心した表情を見ると、この空間に親子の事以外は持ち込んではいけないような気がしてしまう。幸いなんでも知っているのは父様だけじゃない。

私は父様に「ご心配かけてすみませんでした」と一礼し、早々に部屋を出る。

まだ抱きしめられていた時の余韻が残っていて、あんなに父親と長い時間一緒にいたのは久々だったな、と思ってちょっと心の中が暖かくなったのは内緒だ。


部屋を出れば、親子水入らずの時間を邪魔せず待っていてくれたクレイグとエミリーと顔を合わせる事になった。


「急かしてしまいましたか?」

「1時間もいれば十分でしょう。仕事、中断させてしまってごめんなさい、フォーレス侯爵」

「………いえ、ご回復心よりお喜び申し上げます。第二皇女様」


形ばかりの祝辞を聞き、お互いに小さく頭を下げる。エミリーは足早に執務室へ戻って行き、私は次に挨拶に行かなければいけない母様の元へ向かった。


───











「何も聞かせないなんて酷い事をしましたね。知る権利はあったのでは?」


娘との短い逢瀬の時間も過ぎて、この世の終わりのような顔で書類仕事を進めていたディルクにエミリーが言う。

一瞬エミリーを一瞥したディルクだが、その視線はすぐに書類に戻された。


「……珍しいな、お前があの子の肩を持つのは」

「持っているつもりはありません。ただ、彼は皇女様の騎士であり、皇女様が連れてきた者ですから。彼の処遇について、最も責任を持たなければいけないのは第二皇女様です」


そんな事は貴方なら百も承知でしょうに、と言う言葉は続けられる事はなかったが、確かにその意味合いはディルクに届いていた。今日は少しばかり自分の分が悪そうな小言にディルクはどうしたものかと考えるが、エミリーに嘘をついても碌な事にはならないような気がし、素直に話す事にした。


「…あの子は、一生血を見ずに生きる事だってできるんだ」


ポツリと呟かれた言葉を聞きエミリーがディルクを見つめる。けれど、ディルクの瞳は遠くを見つめている。


「花に囲まれ蝶と戯れ…民には疎まれてしまいそうだが、そうやって生きる事も不可能じゃない」

「それは…」


確かにできるだろう。カタルシアほどの強国の姫であり、何より皇帝、皇后、皇太子という国のトップ達に溺愛されている。彼女が心から好いている姉とともに一生苦労せずに暮らす事など造作もない。


「それでも、あの子はそんな事を望んではいない。親としてもそう思うが、もし他人だったとしてもあの子の周りを見ていればわかっただろう。自分に刺激をもたらしてくれる存在を側に置いているんだからな」


それがアンデッドや路地裏の子供、他国の元小伯爵に忌み者なのだから刺激がありすぎるという話だけれど。


「だが、あれは選択を誤った」


ぶつりと、エミリーの思考を無理矢理切ってしまうほどに冷めた声が部屋に落ちた。最近ではめっきり聞かなくなってしまったその声は荒んでいた頃を彷彿とさせ、けれど名工によって研ぎ澄まされた剣のように整然としている。


「アステアの目利きは今も健在であり、あの男もその目に選ばれたよりすぐりだ。だが、粗かった。自分の心を覗けない者を近衛騎士の座に座らせておくほど、私がアステアを愛していないと思うか?」


つまりそれは、感情のコントロールすらままならない愚者には側にいる権利はないと言っているようなもの。

正直なところを言ってしまうと、エミリーも彼がどこに行ったのか、どんな言葉をディルクにかけられたのか知らない。ただ知っているのは、彼が突如として姿を消したという事実のみだった。

エミリーが何も言えずに黙り込むと、ディルクの纏っている空気がふっと和らぐ。


「…それに、きっとすぐ知る事になる。今回に限っては、私以上にあの子に甘い奴がいるからな」


その言葉から感じられるのは優しさと慈愛だけ。すぐにエミリーは見当がついてしまい、小さく「そうですか」とだけ返事をする。


「私は反対だが…アステアは、どんな決断をするんだろうな」


それは皇帝としてなのか、父としてなのか。その言葉に、エミリーが声を返す事はなかった。

お読みくださりありがとうございました。

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