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第百九十六話 嘲笑うかのような声

時折こけそうになりながら無骨な石が荒く削られた廊下を歩く。カタルシア建国当時から建っているとあり昔の技術がそのまま残っているため、なかなかに歩きにくい廊下だ。


「今日の祝祭はご存知ですか?」

「えぇ。もちろん。妖精達を祝うために剣闘士の皆さんも戦い方を変えられているのには驚きました」

「そのくらいしないとお客様は満足してくれないんですよ」


本当に目が肥えていらっしゃる、と笑う声は愉快そうで、仕方なく私も笑って見せる。チラリチラリと寄越される視線が鬱陶しくて目元が引くつけば、次の瞬間には「出てみませんか?」となんの脈絡もなく告げられた。


「出る…?」

「はい。今まで何人もの剣闘士を見て来ましたが、姫君の騎士様はどうやら別格の強さを誇っているようですから!」

「え、あぁ、ヨルの事ですか…」


話に登場したヨルと言えば、私の後ろで呑気に欠伸をかいている。元々許可が降りれば参加させようかと思っていたからちょうど良い提案なんだけど、どうもこの欠伸を見る限りではヨルの興味が失せてしまっているようだ。


「……あまり大勢に見せるのは趣味じゃないの」

「ッ…何を言いますか。騎士様は素晴らしい容姿をお持ちですし、きっと妖精の如く剣を振るってくださるに違いありません!」


だから、趣味じゃないって言ってんでしょうが!このわからずやが!…なんて怒鳴りはしない。そのくらいの我慢はできる。

けど、米神がピクリと反応するのは仕方ない事で、私とジュードが笑顔の応酬を繰り広げ始めて少しすると、ヨルが呆れたように溜息をついた。


「出れば良いんだろ」


ぼそっと呟かれた言葉は、きっと私とジュード両方が面倒になったから出た言葉なんだろう。若干ショックを受けながらも「良いんですか?」と聞く。


「おう。……それに、少し調べるのもアリだからな」

「?」


首を傾げて見せても、それ以上ヨルが何か返事をする事はなかった。まぁ、ここに来たのもヨルのためなので、ヨルが出ると言えば止める理由はない。

嬉しそうに笑っているジュードに声をかけようとした時。


「あの、ヨルさんの戦いを近くで見たいんですけど良いですか?」


控えめにあげられた手を見て、少し驚く。手をあげたのは部屋を出てから一向に喋る気配のなかったリンクで、その表情は申し訳なさそうな色をしていた。


「リンク…?」

「アステア様、お願いします」


ダメだと言う理由もないけど、私が初対面の相手と二人っきりになるのはまずい。するとヨルが、「姫さんも観覧してりゃ良い話だろ」と言った。


「な、ジュード…だっけ?」

「え!?あ、は、はい!姫君が望むのであれば…」


どこへ案内するつもりだったのか聞きそびれていたけど、そこまで落ち込むか?と言うほどジュードの肩が下がる。けど、ヨルの言葉に頷くしかなく、仕方なさそうに「どうしますか?」と私に聞いてきた。


「もちろん、観覧させていただきますよ」


せっかくヨルの戦えるところが見れるんだ。ジュードなんかの相手をしている暇はない。

私が笑顔で頷くと、ジュードは「そうですか…」とどこか冷めた口調で答えた。


───











どうやらリンクは間近で戦いを見たいらしく、私が案内された観覧席とは違う、野次馬飛び交う観客席へ足を運んだらしかった。


「こちらのお席へどうぞ」


結局二人っきりになってしまったが、まぁ案内された場所の側では数人の観客が楽しげに闘技を見ている。これなら二人っきりとも言えないか、と自分を納得させ席に座った。


「あちらが騎士様が出てくるゲートです」


指差された先には、意味もなく鎖の巻かれた門。鎖が太いからか、はたまた門が酷く高いからなのかはわからないが、どうにも威圧感のあるそれをジィッと眺めていると、ワッと会場が盛り上がった。


『これから登場するのはバイコーンをモチーフにした剣闘士!無名?見た事ない?いいや侮っちゃいけない!絶対に見て損はさせない漆黒の剣闘士の登場だ!』


ヨルをバイコーンとは良い度胸だなオイ。確かに黒い感じは同じだけど!ヨルの愛馬も確かに真っ黒だけど!

バイコーンはユニコーンの亜種であり、ユニコーンが純潔を司るなら、バイコーンは不純を司ると言われている。そんな妖精をヨルに演じさせるなんて本当に良い度胸だ。似合っている事は否定できないが、皇女の近衛騎士をバイコーンなんて…。

私の不機嫌を察したのか、ジュードが申し訳なさそうに囁いてくる。


「あまり怒らなくて結構ですよ?」


それは謝罪の言葉ではなく、気分が良さそうに何かを嘲笑うかのような声。


「妖精の仲間入りをしましょうか」


「何をッ──」


頭に強く衝撃が走ったのは、たぶん、ヨルがゲートから現れるのと同時だった。

お読みくださりありがとうございました。

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