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第百八十六話 後悔し腐れば良い

「!?」


思わずと言った顔で私を見上げたリディア伯爵は目を見張り私を凝視する。その視線に応えるように笑いかけ、「必要ないとは思いますが」と言葉を付け足した。


「リンクがいなくなった以上、跡目を継ぐ事ができるのはリアンだけですからね。もちろんそのおつもりだったんでしょう?」

「っ!私がここに来た理由を知っているはずだろう!!」


知ってますとも、リンクを連れ戻しに来たんでしょ?けど、そんな事許すはずがないじゃないか。


「許可証がある限りこの罰は絶対です。わかっていますよね」

「……わかってる…」


いやいやいや、絶対わかってない。不服だと言わんばかりに逸らされた目が可愛いわけがなく、私の目を汚すばかりだ。

……やっぱり、処罰を四つにしておいて正解だったかな。


「四つ目の処罰を言いますね」


リディア伯爵の機嫌なんて知った事ではないから話を進めると、リンクが不思議そうに首を傾げる。あら、ちょっと声が上向きになってた事に気づかれたか?まぁそれならそれで構わない。この処罰を受け入れないなんて選択肢はリディア伯爵にないのだし、上機嫌になるには十分すぎる事だから。


「私の執事、クレイグと盟約を結んでいただきます」

「めい、やく…だと?」

「はい。約束をするんです。簡単でしょう?」

「そんな事が罰になるはずがない!何を企んでいる!?」


随分と警戒されるようになってしまったが、別に大した事ではない。


「企むだなんて嫌な言い方を…ただ盟約を結べと言っているだけでしょう。そんな小動物みたいに警戒なさらないでください」


鬱陶しい、という言葉は飲み込んで、クレイグがリディア伯爵へ近づいていく姿をじっと眺める。クレイグが歩き出した事によってレイラとブレイディがリディア伯爵から離れようと試みていたのには苦笑いしかできないが、クレイグがリディア伯爵の前に立つとそれも諦めたのか、リンクを盾にする様に立ち並んでいた。それで良いのか騎士よ…。


「かの有名なリディア伯爵と盟約を結べるとは思いもよりませんでした」


にこやかに告げる姿は胡散臭さの塊の様だった。自分の執事ながらクレイグは色んな顔を持っているから面白い。

リディア伯爵に手を差し出す様に言うクレイグは、素直に差し出される事のない手を無理矢理に掴み取った。


「剣を握られてきた良い手ですね。………ですが、些か我が主人に触れるには分不相応な様だ」

「!?」


クレイグがもう一度にこやかに微笑んだ瞬間、蛇の様な紋様がリディア伯爵の体を這いずり回る。刺青の様なそれにリディア伯爵は気味が悪くなったのか「な、なんだ!?やめろ!!」と無意味に叫んでいたけど、少しして収まったそれを見て「なんだったんだ…」と呟いた。


「これで盟約は完了しました。いい余生をお過ごしください」


クレイグはそう言いながらリディア伯爵の手を離すと、早々に私の元へ帰ってくる。汚いものでも見るかの様に自分の手を眺めた後、静かに手を拭っていたのには笑うしかできなかった。そんなにリディア伯爵が汚物に見えてんのか、クレイグの目には。


「魔術での盟約…ですか?」


この状況でやっと理解が追いついたのはブレイディ。さすが兄様の騎士だけあって、処理能力が高い様だ。


「そうです。クレイグはこう見えて魔術が堪能なんですよ」

「…見かけ通りですね」


冷たく細められた瞳は呆れの色を含んでいる。関わりたくないとでも思ってるのかな?なら大正解。深く関わっても良い事なんて一つもないからね。


魔術師によって行われる盟約。


それは普通の人間同士で行われる盟約とは異なり、言ってしまえば悪魔との契約に近いものだった。代価を支払う代わりに魔術師が提示した盟約の内容を守り、破った場合には死ぬ以上に辛い罰が下されると言われている。


「で、ですが盟約を交わす事ができる魔術師なんて一握りですよ!?」


その一握りにクレイグが入っているだけの話だ。レイラの動揺を無視してやれば、今だに理解ができていないリディア伯爵が不思議そうな顔でこちらを見上げた。

………あっそう、魔術師の事にも興味ないのね、貴方。


「魔術師と盟約を結んだ場合、その盟約内容は絶対となります。言ってしまえば、国の許可証なんてただの紙切れにしてしまう世の理の様なものです」


──だから、裏で動こうとしても無駄ですよ?──


続けられた言葉にリディア伯爵が驚いた様に目を見開いた。いや、分かり易すぎるから。きっと裏で動けばどうにかできると思って、三つ目のリアンを跡継ぎにするという内容にはなんの抵抗もなく頷いたんだろうけどそんなわけないからね。


「リディア伯爵、貴方は盟約を結んで、私の手には許可証まである。どうしてこうなっているかわかりますか?」


言っている意味がわからない、とでもいう様な顔のリディア伯爵は、やっぱりまだ盟約の意味すらわかっていないんだろう。それが心底ムカついて、それ以上に何も伝わらない男に疲れてきて、満面の笑みで言い放ってやった。


「私の気分を害した罰ですよ」


盟約の意味がわかった時、その足りない頭で動いた事を後悔し腐れば良い。

お読みくださりありがとうございました。

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