第百八十五話 何があっても逆らう事は許されない
その瞬間、反撃しようと思ったのかリディア伯爵の目が吊り上がる。
「王族と言えど判決を下す権限は持っていないはずだ!この国で処罰を下すと言うなら皇帝の許可がいるはずではないか!!」
王族じゃなくて皇族だっつの。
「勘違いしないでください。ここはフィニーティスではないんですよ?確かにフィニーティスでは国王に許可を取らねば罪人を裁けませんが、カタルシアでは皇族であれば可能なんです」
「なっ!?カタルシアでは十四の娘に人を裁かせるのか!?」
年齢なんて生温い話じゃない。カタルシアでは皇帝が一番上であり、皇族はそれに次ぐ絶対的権力者なのだ。何があっても逆らう事は許されない。
「友好国なのにカタルシアの事何も知らないんですね…」
わざとらしく肩を落とすと、リディア伯爵は口をパクパクと開いては閉じて、そしてやっぱり閉じる。
うん、なんとなく言いたい事はわかるよ。知ってるんでしょ?騎士の事なら。
本当に騎士の事しか頭にない馬鹿なんだって事は十分に理解できたから、もうその事に関して口開かなくて良いよ。
「貴様のような小娘に裁かれる義理はない!」
「いや、義理とかではなく決定した事ですし…何より誰に向かって口を聞いてるんですか?」
「!!」
ここはカタルシアで、私は皇族、リディア伯爵は罪人。そんな口の聞かれ方をする覚えはない。
「確かに貴族位は剥奪していませんから伯爵である事に変わりはありません。けれど、罪人の分際で首を垂れる事すらしないなんて無礼にも程がありますよね?」
一つ、リンクへ視線を送る。すると何を察してくれたのか、素早くリディア伯爵の元に駆け寄ると、即座にリディア伯爵を跪かせて見せた。押し当てた膝がリディア伯爵の背中に食い込んでみるからに痛そうだ。
「っ!父親を虐げるか!!」
「縁は切った!今俺が従うのはアステア様だけだ!」
もうあんたの言う事は聞かない!そう宣言し、リンクが足の力を強める。リンクを見上げるリディア伯爵の顔がみるみるうちに歪むのは酷く気分が良い。
少しすると、小さく「ふざけるな…」という声が聞こえてきた。
「死神すら恐れ慄く騎士を虐げる事など神ですらできはしない!お前のような小童に膝をつかされてたまるものか!!」
大きな腕が振り回されて、リンクの体が払い除けられる。さすがに騎士として剣を学んでいたとはいえ、それを教えていた父にリンクが勝てるはずもない。………本当に実力だけは確かな、フィニーティスが誇る騎士団長だもんね。
けど、この場にはカタルシアが誇る騎士団長がいるんだ。
駆け出したのはどちらが早かったか。実力的にはまだ差がある二人とはいえ、速さだけで言えばレイラかな?
キィン、と耳に響く嫌な音が鳴り響く。誰も喋らず、リディア伯爵が放った叫びの余韻すらない空間に、誰かの息を飲む音が木霊する事もなく消えていく。
「騎士だというなら最後くらい潔く腹を決める事をお勧めする」
「膝をつかされた事よりも、まず主君以外の人間に跪いた事を悔いて欲しかった…これ以上失望させないでください…」
ブレイディは変わらず無表情のままで感情を読み取る事ができないが、レイラは悲しそうに目を細めていた。きっと、リディア伯爵を騎士として尊敬していたんだろうな。加えてリアンの父親なんだから、少しは庇いたい気持ちがあるはずだ。
だけど庇う要素すらない男だから不幸というかなんというか…。
リディア伯爵の顔の両脇スレスレを通った二本の剣が、ゆっくりとした速度で元の鞘へ収まっていく。
「リディア伯爵、貴方への処罰は四つあります」
許可証がある限り、どんな罰でも全て実行される。
「一つ目は、今後一切貴方からリンクへの接触を禁じ、リンクの視界へ入る事を禁ず。リンクの道を妨げる事も同じです」
さすがにここまで否定されれば、これに関して文句は言えないだろう。リディア伯爵は黙ったままなので、気にせず続ける。
「二つ目は、他国有罪処罰許可証が出た事に関して、罪状を「王城器物破損」と偽る事」
「…?」
ポカン、と口を開けた姿が間抜けで見ていられないけど、まぁ自分でも何言ってんだって思うよ。けど、こうでもしないと現時点では、「リディア家の当主がカタルシアの皇女と揉め事を起こした」っていうなんとも厄介すぎる話で終わってしまうんだ、事実だけど。それだとどうやったってリディア家の名前自体が地に落ちるし、リディア夫人やリアンへの被害も計り知れない。それは絶対にダメだ。
だから、リディア伯爵の性格を知る人間なら一応は納得できてしまいそうな罪状にすり替える。クレイグやエスターが変装でもして街中に「騎士団長が引退するのは殉職以外では滅多にないから、こういう手段を取った」という噂を流せば簡単に事は済むだろう。
私は笑いながらリディア伯爵を無視して話を進めていく。
「三つ目は、リアン・リディアへ跡継ぎの座を移行する事です」
お読みくださりありがとうございました。




