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第百八十二話 嬉しそうに笑った

リンク寄りの視点なしです。

リンクは自分の鈍感さに嫌気がさし始めていた。あんなにあからさまだったにもかかわらず、今この時まで理解できず、理解したくないと目を背け続けていたのだから。

騎士として育てられたのだから、一応の心得もあるし、騎士として生きるという事がどういう事なのか理解しているつもりだ。兄がいたからと言って、自分が誰にも騎士としての忠誠を捧げないとは思っていなかった。

だけれど、やはり父にとって、兄は別格だったのだろう。

父にとって兄は、騎士ゆえに剣の才を持ち、騎士ゆえに現状に不満を持ち、騎士ゆえに主人を探し求める。生粋の騎士だったのだ。


「リアンが持って生まれた騎士の才能は私以上だった!それをみすみす潰すなんて事できるはずがないだろう!!」

「だからと言って子供を道具に成り下げる親がどこにいる!!」


その気迫は皇族だからなのか、否、それはアステア自身の怒りが身に纏われたからだ。目を釣りあげ声を荒げる姿は、修羅とも言って良いほどだった。


「自分のエゴを押し付けて二人ともを押し潰そうとしている事にまだ気づかないの!?」


どれほど愚かなのか自覚しなさい!と続けられた言葉には、確かな怒りだけが込められている。初めてアステアの怒声を受けた父は、驚いたように目を見開くとなぜか助けを求めるようにレイラとブレイディに視線をやった。なんと愚かか、二人がこの場にいる時点で、誰の味方をするかなんてわかり切っているはずなのに。


「慈しむべき子を蔑ろにした時点で同情の余地はない。貴方の行動は目に余るばかりだ」

「全てにおいて不快感を感じざるを得ません…。どこで道を踏み間違えたか…もう一度振り返ってみてはいかがですか?」


長年皇族に仕えているとあって貴族のような煽りもお手の物のようだ。助けてくれるかもしれないという希望をいとも簡単に切り捨てられた父は、ガックリと肩を落とし、けれどアステアを睨む事をやめてはいなかった。


「な、にがわかる、何がわかるというんだ貴様に!!」

「わかりたくもないよ。けど、知ってはいる」

「何!?」


ひらりとアステアがかざしたのは、少し萎れた数枚の書類。一枚一枚に目を通してから、アステアはポツリポツリと話し始めた。


「齢10の頃からすでに戦地へ赴き戦い続け、その功績が認められて次期国王だった現フィニーティス国王の騎士となる。国王が学徒を卒業するとすぐに戦場へ戻り、フィニーティスの国境付近で起こっていた戦争を全て沈静。武勲を上げた事により騎士団長に昇格。それからは王都へ移り騎士団長として数々の騎士を育て上げた…」

「それがなんだというんだ!!」

「けれど!その実、戦闘を好む戦闘狂の顔を持ち、戦場で共に戦い身を捧げていった仲間に対して異常なほどの執着を持っていた。己を残して去っていく仲間の亡骸を見るたびにそれは増していき、挙げ句の果てには、育て上げた騎士達にその姿を重ねるようになっていた。そうでしょう?」

「っ…!!」


ヒヤリと底冷えするような瞳が父を見下げている。


「教え子達には随分と慕われた事だろうね。だって死んだ仲間と姿を重ねて大切にしてくれる師匠なんだもん。けど、貴方の行動はそれ以上にはならなかった。どこかで前途ある若者に死人の姿を重ねる事には躊躇いがあったから」

「そ、れは…」

「だけど、それも自分の子供であるという事実が加われば最も簡単に崩れちゃったんだね」


苛立ちを感じさせる口調に、父が力なく拳を握った。言い返す言葉もないのか、口元を結んでいた。


「リアンという騎士の才能を持った子供は貴方にとって何よりも眩しかった。何よりも大切にしたいと願ってしまった。そこまでなら良かったんだよ。だけど、やっぱり貴方の執着は異常だった。後から産まれてきたリンクを見て、貴方の中にはリアンを騎士にするプランが練り上がっちゃったんだ」


それは、父にとって希望だったのかもしれない。執着し続ける騎士の才能を開花させ自由に羽ばたかせる事によって亡くなった仲間達が笑ってくれるのではないかと、はたまた自分を置いて行ってしまった仲間達が少しでも悔やんでくれるのではないかと。自分と仲間を繋ぐ唯一の綱を、リアンに見てしまったのだ。


「っ…き、さまが…!」


俯けていた顔があがる。その目には敵意と最後の踠きと泣きたいほどの悲しみが込められていた。


「貴様がリアンを受け入れていれば!リンクはおかしな夢など見ていなかった!リアンは騎士になっていた!!全て貴様のせいだ!貴様が全てを壊したんだ!リディア家の未来も!リアンの未来も!!」


すでに理性なんてないに等しいんじゃないだろうか。叫ばれる全ての言葉に表情を歪めざるを得ない。あぁ、だけど、この場でただ一人。嬉しそうに笑った人がいた。


「今、確かにリディア家と言いましたね?」


それは、足を絡めとられた事を知らせる最後の笑みだった。

お読みくださりありがとうございました。

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