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第百七十八話 違う事を言っているような…

後半視点なしです。

「ただいま帰りました愛しのベッドォ…」


ぼふん、柔らかな掛け布団に顔を埋める。最高級品のベッドにはすでに慣れたけど、毎日洗ってくれる事で生まれる太陽の匂いには毎回癒される。

今度使用人の人達全員にプレゼントでも用意しようかなと考えながら、私は母様の事を思い返した。

母様に要求された事は、私が起こした…まぁ、問題と言っても良いような出来事を自分の口から話す事だった。

その時点で長くなる事は目に見えていたので覚悟を決めたから、今の時刻を見ても驚きはしない。終始話しっぱなしで疲れたのも仕方ないと受け入れている。と言うか、受け入れて即座に疲れを外へ放り投げている。寝れば元気になるって素晴らしい、若いって素晴らしい。


「………母様にしては、ちょっとあっけない感じがあるよね…」


ただ一つ。疲れた体を素直に休ませる事ができない理由、それは母様があまりにも大人しすぎたからだった。いつもなら私や兄様のみならず、姉様さえ多くのギクリとするような指摘を受けるのに。今回はたまたま?本当に話を聞きたかっただけとか?………あり得ない。あの時の美しく笑った母様の表情は、何か面白いものを見つけた時のような、私や姉様達が「厄介だ」と思う時のような母様だったんだから。それに何より、帰り際に言われた言葉が引っかかる。


──執着を消す事ほど難しい事はないわ。まぁ、がんばってみなさいな──


きっとフード男の事を言っていたんだろうけど、それはつまりフード男は執着してるって事だよね?確かにリアンを騎士にする事に執着してるけど…なんとなく、それを言っているわけじゃない気がする。

もっと何か、違う事を言っているような…。


コンコンッ──


「!」


ドアのノック音が聞こえ、疲れのせいなのか寝落ちしかけていた体を起こす。ノックしたのはクレイグのようで、私が疲れている事を知っているため「遅くに申し訳ありません」と先に謝っていた。


「どうかしたの?」

「お手紙です」


短くも正確に耳に届いた言葉に、ギリギリ間に合ったかと急いでドアを開く。そこには一通の手紙を皺にならないよう丁寧に持ったクレイグが立っていた。ちょっとばかり疲れが顔に出ている私を見て、クレイグが一言。


「これで明日の準備は整いましたので、紅茶でも飲みましょう」


たぶんこれはクレイグなりの気遣いだろう。クレイグの淹れるお茶は不思議と体を癒してくれるから。私はいつもより若干優しい声色のクレイグに微笑した。


「一杯だけ飲んどく」

「そうされるのがよろしいですね」


きっとこの時間はすでにエスターとリンクは夢の中。ヨルは自室にいるのかすらわからないけど、寝ている事だろう。それぞれの客室にいるサーレとフード男も、客人らしくぐっすりと眠っているはずだ。そう思うと、物音のしなかった部屋がより静かに思えてくる。そこに、小気味良いコポコポとしたお茶を淹れる音が小さく響くものだから、案外夜遅くまで起きているのも悪くないと感じる事ができた。


───












「第二皇女様はまだ十四なのですから、もう少しご配慮ください」


咎めるようなカミラの声に、ロゼッタは苦笑いとともに「そうね」と言葉を返す。さすがに去り際の眠たそうな顔を見てしまうと、多少の申し訳なさが募っていたようだ。


「けど、話したい事は話せたし満足だわ」

「第一皇女様の婚約を進められるおつもりで?」

「もちろん。一番の壁になりそうだったあの子が応援してるんだし、何より若者の恋は応援するに限るもの」

「壁…ですか?」


珍しく少し不思議そうな顔で首を傾げたカミラに、ロゼッタは美しく笑う。


「一番騒ぐのはクロードや陛下でしょうけど、あの子は静かに淡々と、最愛の姉にふさわしいかを見定めるわよ」

「それが壁ですか」

「わかってないわね。ふさわしくなかった場合、どうなるかわかる?あの子とその周り全てが拒絶するようになるのよ。簡単に言えば掌返しね」


やっと結婚まで漕ぎ着けて、最後の砦というなら皇帝や皇太子の難問はクリアしているのだろう。けれど、最後の砦であるらしいアステアに拒絶されれば、全てがやり直しだと言うのだ。


「…挑むたびに厚くなっていきそうですね」

「あの子の周りには色々な人が集まるもの、当然じゃない」


私とそっくりなんだから、と付け加えられた言葉にカミラは頷く事はせず、けれどそれゆえにこの箱庭の中から出る事をしない主人に対して「そうですね」と言葉を返した。


「執着を消す事ほど難しい事はない、昔学んだ事を娘に教える日なんて来ないでほしかったわ」


長女は美しく育ったが皇族然とした気質ゆえに執着されても突き放す事ができるだろう。皇太子として表舞台に立ち続けなければいけない息子だってそれは同じだ。ただ一人だけ、末の娘だけが自分と同じ。


「………あの子には、できるかしらね」


ボソリ、小さく呟き落ちた声にカミラが目を見開く。これに言葉を返す事はできない。だってそれは、目の前の、何事にも縛られないと断言できてしまいそうな人でもできなかった事だから。


「人の執着より面倒なものはないわよ、アステア…」

お読みくださりありがとうございました。

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