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第百七十話 皇帝の隣に立っていても

まぁ、面と向かって「貴方何か違います」と言うわけにもいかないので、一応それとなく対応してみる事にしよう。


「お初にお目にかかります、アステア姫殿下」

「初めまして、学園長」

「………」

「………」


………うん!?あれ?なぜここで会話が途切れた??

学園長なら貴族連中ともある程度の付き合いはあるはずだし、スムーズに誘導してくれると思ったんだけど…もしかして慣れてないのか?少し待っても会話が再開される事はなく、仕方ないとばかりにライアンが前に出た。


「こちらにお座りください」


結局学園長の名前も聞けずソファに座る。学園長の側へ移動したライアンは、学園長へ何か耳打ちをすると自然な動作で窓際へ佇んだ。………そう、本当に自然に、ただ一つを除いては。


「学園長、皇帝陛下からお話は通っていると思います」

「あ、あぁ」

「少し込み入った事情がありましてすぐにでもお会いしたいのですが、皇帝陛下の騎士団長様はどちらにおられるのでしょうか」


最初に感じた違和感が段々と大きくなっていくのが不快感へと繋がって、思わず少しキツい口調になるのは許してほしい。リンクはハラハラと緊張した面持ちで様子を伺っていて、クレイグがどこか呆れた様子なのも違和感に拍車をかけてくるのだ。あー!もう!むず痒くて仕方ない!

私の言葉に返事をしない学園長を見て、私はニッコリと微笑みかける。額に汗が滲んでいるけど、まさかこの程度で緊張なんてしてないよね…?


「学園長、お返事をいただけませんと時間が進むばかりなのですが」

「!!…あー…え、えっと、あ、いや、ゴホンッ!それもそう、だな!」


冷や汗ダラダラで逆に心配になってくるレベルだ、挙動不審にも程があるだろ。

目線をキョロキョロと彷徨わせて、何度も何度もライアンへ助けを求める姿は大きい体に似合わず小動物の様に見える。これで学園長が務まるのか?いや、でも実力主義の騎士学校の学園長がお飾りなわけがないだろうし…。

不可解な顔をして首を傾げてしまうと、後ろでクレイグが溜息をついた。クレイグにしては分かり易すぎる行動に思わず目を見開けば、小さく紡がれたのはなんともカチンと来る言葉だった。


「子供騙しの方がマシと言えますなぁ」


真意はどうかわからないが、それはつまり、これは騙されてるって事で良いんだよな?うん?


「………クレイグ」

「よろしいので?」

「先に仕掛けたのはあっちでしょう」


努めて落ち着いた声色で笑いかけると、クレイグも笑顔を返しながらパンッと手を叩いた。未だにオロオロとしている学園長もどきには悪いが、皇族を騙した罪として反省してもらおう。

クレイグが手を叩いた事によって鳴った音が異様に木霊し、部屋の中を反動する。すぐに机へ倒れ込んだのは、もちろん学園長もどきだった。


「ッ!?」

「マシュー!!」


反射的にだろうか、ライアンはそう誰かの名前を叫びながら学園長もどきに駆け寄った。そう、その人マシューって言うの。


「学園長を呼び捨てにするなんて、随分と仲がよろしんですね」


わざとらしく優しげに声をかけてやれば、ライアンがキツい目線で睨みつけてきた。でも、私がいつも誰と睨み合いしてると思ってるの?国を支え続ける宰相様に比べたら、そんな強がりに怯むわけがないじゃないか。

私の顔色が一切変わらないところを見たライアンは酷く驚いた顔をして、それからガックリと肩を落とした。


「…先生、お願いですから本当に怒らせる前に出てきてください」


そう呟かれた途端どこからともなくクスクスと言う笑い声がして、その声を必死に探し当てようと耳を澄ませば、本棚の方へ視線が移った。え、まさか…と思っていれば、そのまさかで本棚がズズッと動き出す。随分と大掛かりな隠し扉だ。


「皇帝の娘と聞いて楽しみにしていたけれど、いやはやこれは参った。皇帝とは違った面白みをお持ちの方の様だ」


現れたのは、さらさらと美しい長髪を靡かせて耳馴染みの良い通った声で笑う男だった。均等の取れた筋肉のつき方をした体は美丈夫な面持ちによく合っていて、自分の魅力を最大限に生かしている様にも見える。


この人なら、父様の、皇帝の隣に立っていてもおかしくはない。


マシューと呼ばれた男は父様の隣に立つには分不相応すぎたのだ。筋肉ばかりがつき動きにくそうな体と、男前と言うには暑苦しすぎる顔立ち。挙動からは誇りも気位も感じる事ができず、ただただ違和感だけを残していた。

それは、ライアンが側へついた時も。

きっと後ろに人がいる環境に慣れていないのか、それともライアンが後ろにつく事がまずないのか。どちらにしても、ライアンの動きに違和感はなくとも、マシュー自身が戸惑ってばかりで可哀想とまで言える有様だった。

でもそうか、この人なら、全く違和感はない。


「貴方が、父の騎士ですか?」


自然と紡ぎ出された言葉は、私の中にストンッと落ちてきた。

お読みくださりありがとうございました。

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