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第百六十三話 潰させてたまるもんですか!

途中で一日後に飛びます。

姉様を嫁がせたくない父様がのたうち回る姿を思う存分笑った後、私は早々に自分の屋敷へ戻った。私がエミリーについて行ったと気づいたらしいクレイグのおかげで、配布式について来ていたリンク、エミリー、クレイグの三人はすでに屋敷に戻っていたようだった。

一人だけ屋敷に残っていたヨルも合流して、私は四人をそれぞれ用意された椅子に座らせる。


「リディア伯爵に早速気づかれました」

「!」


私も同じように椅子に座り早速告げれば、すぐにリンクが目を見開いて驚いた。まぁ、こんな早くバレるなんて予想外ではあるよね。


「シャーチクはリンクの名前が少しでも広がれば良いと思って配ってたから、もちろん誰が作ったかも国民に伝えてる。バレた速さとかは置いといて、ここまではなんとなくそうなるだろうなって感じだね」

「接触は…」

「ないよ。フィニーティスの王様が極秘で、しかも速達で教えてくれたからわかっただけだから…。リディア伯爵は王様に何も言わずに動くつもりなんじゃないかな」


騎士団長ともあろう男がそんな不忠な真似をしてしまえば王からの信用はガタ落ち必須だろう。そうなるとリディア伯爵だけではなく家紋にも泥がつく。夫人やリアンのためにも、そんな事しないでほしいって言うのが本音だけど…。


「父ならやりかねません…」


息子が言っちゃったら予想が本当になる気しかしないわ…。


「それは残念この上ないね…。まぁ、そうなったら夫人とリアンへの被害は最小限に抑えられるように頑張ろう」

「!…ありがとうございます!」


夫人はリディア伯爵の事で苦労しているだろうし、最後はリンクをちゃんと送り出してくれたんだ。リアンは私の苦手な忠誠心バリバリの男だけど、あんなにも真っ直ぐ信じられてしまうと多少は応えないといけないような気になってしまう。それに、なんの連絡もないからわからないけど、きっとリディア家の当主になるために頑張っているのだろうから。

あの二人の事は、ちゃんと気にかけようと思っている。

私は浅く一つ息を吐き出して、揃っている面々を見つめた。


「正直リディア伯爵の事でここまで長引くとは露ほどにも思ってなかったんだけど、長引いちゃったものは仕方ない。カタルシアでケリをつけるつもりなので、みんなもそのつもりでお願いね」


言葉にして伝えるって大事な事だ。ニッコリと笑っているであろう私の顔を見て、クレイグはいつも通り頷いて、エスターは「仰せのままに!」と元気よく応えてくれる。ヨルは「やる事あんなら言ってくれ。それまでは寝てる」とマイペースに呟き、一応当事者であるリンクは背筋を伸ばして感謝を述べていた。


父親だろうがなんだろうが、大事な才能を潰させてたまるもんですか!


───











「なんだこれは!!!」


机を強く殴る音と共に男の叫び声が部屋に響く。驚いて駆けつけてきたシスター達は、普段は滅多に怒る事のない大司教が怒りに身を震わせている姿を見つけ、何も言えずに立ち竦んでしまった。


「サディアス神は我らに生と死を教えてくださった…それはカタルシアの民とて同じはずだ!なのに、こんなものを配るなどッ!」


悔しさを滲ませた表情からは悲しみまでもが読み取れる。男が握りしめている新聞の一面には、年若くも腕の良い職人が開発したという魔道具の記事が載っていた。昨日発行されたばかりの新聞らしくシスター達には詳しい内容がわからないが、尊敬する大司教の姿を見つめ、それが如何に酷いのか想像する事ができた。


「大司教、どうしたんですか…?」


そこに、寝起きなのかと問いたくなるほど柔らかな声が通る。心配を滲ませる声色にその場の空気が幾分か落ち着きを取り戻していた。


「貴方は…これをお読みになられたか?」

「…それは…?」


どうにか怒りを抑えようとしている男が問うと、柔らかな声色の主はゆっくりとした足取りで男の元まで向かい、ぐしゃぐしゃになってしまった新聞に目を通す。少しの間顔を俯かせていたが、男と向き合う時には「これは…」と悲しげな表情で頷いていた。


「生と死を持つ人間は自然の状態で人生を全うする権利を持っている…。なのに、なんだ!これは!強制的に体を動かす事ができるだと!?人間として、生と死をサディアス神から授けられた者として、このようなもので無理矢理動いてなんの意味がある!!」

「落ち着いてください、大司教」


声を荒げる男に対し、やはり柔らかな声色で話しかけ落ち着かせる。男は何かを考えているらしい相手の言葉を待った。


「……僕が調査に行く、というのはどうでしょう」

「調査…?」

「そうです。これもサディアス神から与えられた試練なのかもしれませんから…。最近は書庫に籠ってばかりでしたし、自分の目で人々を見つめろと言われているのかもしれません…」

「な、なんと…!やはり貴方は神の子なのですね!」


嬉々として答えた男に対し、提案を述べた男もまたにこやかに応える。最後の一押しとばかりに男は相手の尊き名を呼んだ。


「よろしく頼みます!ブレア様!」


喜びを隠してにこやかに笑う姿は、神子と呼ばれるに相応しい姿だった。

お読みくださりありがとうございました。

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