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第百六十二話 見守っていれば良いのに

「配った当日なんて凄いですね」


カタルシアの国土はそれなりに広いから国民全員に配るなんて夢のまた夢だけど、それでも聞きつけるには早すぎる。情報を集めるために誰か雇っていたのか、それとも魔道具か。私は窓から満面の笑みで国民達を眺めている父様に話しかけた。


「そうだな。これにはさすがの私も驚いた」

「自分でさすがとか言わないでください」

「ははは!すまん!」


なぜ機嫌が良いのかはなんとなく見当が付くけど、それが当たっていた場合、自分の機嫌が悪くなる事はわかりきっているのであえて言わないでおく。エミリーは私を椅子へ案内もせずに父様の側へ行ってしまったので、勝手にソファに座らせてもらった。


「大丈夫か?」


そう聞いてくる父様は嬉しそうで、若干イラッとしながらも「何がですか?」と聞き返す。


「いやなに、フィニーティスは平和な国だが騎士のレベルは高い。そんな騎士達を統率する男もまた国の中枢を担うに値する人物だ。あの伯爵がここまで激昂するとは、何をしたのかと思ってなぁ?」


面白さ、それは父様を動かすために必要不可欠なもので、父様が動いてしまう要因になり得るものだ。

きっと父様は今、面識のあるリディア伯爵が激昂し、私と対峙しているところでも想像して笑っているんだろう。あぁ嫌だ、見当が当たってしまった。


「リンクの事はご存知でしょう」

「あの男が息子の事でここまで激昂するか?もっと違う何かに執着しているように思えるんだが」


アルバの国王はいけ好かない、フィニーティスの国王は穏やかだけどどこか底知れないところがあるような気がする、父様は全部わかっているような瞳をする。

…ホント、なんでどいつもこいつも王様っていうのは扱いが面倒なんだろうか。

父様が言っている予想は概ね当たり。エスターが健気に調べてくれた情報のおかげで、リディア伯爵が執着しているのはリンクやリアン個人ではないという事がわかっている。


「……お答えしかねます」

「なんだ、相当怒ってるみたいだな」


少し驚いたような表情をした父様が窓から視線を外し、私に振り向く。


「怒っていますよ、それはもう。私は家族に恵まれた人間ですから」


リンクやリアンが恵まれていないという話ではない。ただ、私から見て気に入らないというだけの話。

私の言葉をどう受け取ったのか、父様はクスッと笑うと「そうか」と呟いた。


「お前に危害が加わる事さえなければ自由にすると良い。元々リンクが来た時点でわかっていた事だ」

「ありがとうございます」

「若い芽を摘むのは惜しいからな。感謝されるような事じゃないさ。あぁ、そういえば、一つ聞きたい事があるんだ」


真面目な顔の父様が私と真正面に向き合ってそう言うものだから、ちょっと身構える。だけど、それが馬鹿な緊張だったというのはすぐにわかった。


「最近カリアーナが文通している相手はブラッドフォード王太子だと言うのは知っていると思うが、あの二人はどこまで進んでるんだ?」

「娘の恋愛に首を突っ込む気でいらっしゃるんですか?」


即聞き返せば、父様は「国同士の問題が〜」とか「親として知っておきたい〜」とか言い訳を述べていく。あの二人が自分の身分も忘れて問題を起こすとも思えないし、親として、というなら「どこまで進んでるんだ」なんて言わずに見守っていれば良いのに。


「過保護も行きすぎると嫌われますよ」

「なっ!?」


おそらく今まで一度だって姉様から「嫌い」なんて言葉を言われた事がないだろう父様が、あまりのショックに崩れ落ちる。


「おのれブラッドフォードぉ…ドレスだって私が送った物ではなくあの王太子のものを着たそうじゃないか、カリアーナの心はすでに決まっているのか!?なぜだ、昔は「お父様と結婚する!」とまで言ってくれたのにッ!」


娘の「お父さんと結婚する!」という言葉ほど信じられないものはないというのに哀れな事である。それに気づけないのが父親の性なのか。というか、姫という立場にある姉様がいずれ結婚するのは当たり前の、事なのに、やっぱり娘を取られるというのは嫌なものなんだろうか…?

そう考えると、私だって姉様を取られるのは嫌だ。嫌だけど応援すると決めてしまった以上、父様の味方をする事はできない。


「そろそろお互いに姉様離れの時期ですね、父様」

「か、カリアーナ離れ…王太子ともなれば王太子妃として嫁ぐ…あぁぁああ、嫌だ…だがこれ以上に幸せな巡り合わせもそうはない…」


結局は応援してくれると思うけど、父様がこれだと兄様に教えた時が心配すぎるな…。ブラッドフォードが抹殺されなきゃ良いけど…。


「皇帝の威厳が崩壊していく…」


額に手を当てながらヨロめいたエミリーを見て、私は思わず笑ってしまった。父様が姉様や家族の事を大好きなんて今に始まった事じゃないのに。父様と兄様、こういうところがそっくりなんだよなぁ…。

クスクスと笑う私をエミリーは恨めしそうに睨んできたけど、諦めがついたのかガックリと肩を落として溜息をついた。

うん、諦めも大事だよ、エミリー。

お読みくださりありがとうございました。

※誤字脱字修正しました。加えて、内容は変わっていませんが一部台詞などを変更しました。

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