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第百五十七話 教育的指導を始めようか

ドリューの話に嘘偽りはないのだろう。私の後ろでクレイグとヨルが黙って聴いているのが良い証拠だ。だけど一つ、まだ解決されていない疑問がある。


「ミアは…」

「…あの子も予知夢で見ていたんです」


素直に答えてくれるドリューに、申し訳ないと思いながらも先を急かす。


「毎晩見ていた夢のうちの一つに、ミアがリリア様を傷つけているものがあったのです。夢を見た時には生まれてすらいませんでしたので、ミアが王城へ訪れた際に国王陛下にお願いして連れてきていただいたというわけです」


ミアはリリアの親友だし、傷つける事なんてないはずだ。あるとすれば、アルベルトルートの時だけ。

なら、ドリューはアルベルトルートの夢を見たって事?夢のうちの一つって事は他にも見てるって事だろうけど…。


「……わかりました。お答えくださってありがとうございます」


これだけ話を聞けるとは思っていなかった。今回の収穫は、攻略対象選択のきっかけが元々消えていた、っていう事だな。どうしてそうなったのか、なんでドリューが予知夢を見る事ができるのか。色々とわからない事だらけだけど、転生者っていうイレギュラーな自分がいるんだからなんでもアリだろう。

最初から全て食い違っていたという事実は、考えを改めなければいけないという現実をなかなかに突きつけてくるけど、とりあえずは満足できた。

もう満足した私を見て、ドリューが微笑む。それから「お疲れでしょう」と声をかけてくれた。


「屋敷の中は自由に歩いていただいて結構ですので、休んでいかれませんか?」


後ろのクレイグを見れば、にこやかな笑顔を返される。まだ時間に余裕もありそうなので一つ頷けば、ドリューは優しそうに笑った。


───










好きに歩いて良いと言われたけど、人の家を歩き回る趣味はないので早々に涼しい廊下の端に腰を下ろす。一応皇女だから廊下に座るなんていつもなら絶対にしちゃいけないんだけど、ここでなら「謎のお嬢様」って事になってるし少しくらい良いよね。ドリューの好意でクレイグは書斎の本を読み込んでいるところだし、ヨルは外へフラッと出かけてしまった。だから、久々の一人だ。


………だけど、それが間違いだった。


「グウェン様!まだお体の方が!」

「うるせぇ!触るな!」


慌てた様子のミアと、自暴自棄になってる元伯爵子息野郎の声が聞こえちゃったよナンテコッタドウシヨウ。

いや、でも口喧嘩みたいな感じだし、そぉっといなくなれば問題はないはず…。


「触るなって言ってるだろうが!!」

「キャッ」


ドンッ──


………え?あれ?今突き飛ばした?女の子相手に手あげたの?もしかして。

いや、でもここ乙女ゲームの世界だよ?女の子が主役の世界だよ?そんな世界で女の子相手に手をあげるような馬鹿はいないでしょ。


「も、申し訳ありません、グウェン様。でも、まだ目覚められたばかりなのに…」

「殴られたいのか!?いますぐ黙れ!!」


いたよー、クズいたよー、そもそもクズ設定の馬鹿伯爵だったよー。

女の子相手はダメだろ、と思って重い腰を上げる。しゃがんでから立ち上がる時特有の膝の重さが嫌になって、色々と吐き出すために息をはいた。


コンコンッ──


「ドリューの馬鹿息子はここですか?」


半開きだったドアを開け、わかりやすくノックしてやれば私の存在に気付いた二人がハッとしたような顔でこちらを見る。ミアを見れば壁にもたれるような形で座り込んでいて、やっぱり突き飛ばされたんだという事がわかった。


「一回気絶したから少しは酒が抜けたはずだと思うんだけど、これは一体どういう事ですか?」

「……お前、さっきの…」

「早く答えてください」

「答える義務はないだろ。ここは俺の家だ、部外者は早く出て行け!」


どの口が言うのか。父親にあんな悲しい顔をさせておいて、世話をしてくれるメイドを突き飛ばしておいて。


「素面の状態でそれはダメだわぁ」

「は?おい、こっちに寄るな!」


歩きやすい低めのヒールで鈍く音を鳴らしながら、グウェンに近く。警戒したように睨まれたけど、そんな事は気にならなかった。

グウェンの目の前の一歩手前。そこに立つ事ができればバッチリ。


「マザコンなのはわかるけど、限度ってものがあるでしょう?そんな事もわからないの?」

「なっ!?テメェ…!!」

「グウェン様!おやめください!」


大きく掲げられた拳が自分めがけてやってくる。だけど、とてつもない安心が私にはあった。だって、少し前の私ならいざ知らず、今の私にはかっこいい近衛騎士がついてるんだからね。


「壁登るの地味に面倒なんだが?姫さんよ」

「!?」


ダンッ──


一瞬のうちに現れて、やはり一瞬のうちにグウェンを床に叩きつけたヨルが言う。


「私の近衛騎士ならこのくらいしてくれないと困ります」


そう言って答えてやれば、ヨルが「ハードルたけぇな」と笑った。

何がなんだかわからず目を白黒させているミアが可愛くて微笑むと、ヨルの足によって押さえつけられているグウェンが悔しそうに表情を歪める。


じゃ、とりあえず、教育的指導を始めようか。

お読みくださりありがとうございました。

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