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第百五十六話 細められた瞳は悲しげだった

「まだ陛下の元にいた二十年以上前、妻のお腹にグウェンが宿りました。国王陛下も祝福してくださり、これ以上ないくらいに幸せだった…。ですが、その時期から毎晩のように予知夢を見るようになったのです。それまでもありましたが、あれほどまでに多く見たのはあの時だけでしょう」


苦々しく表情を歪めたドリューが、視線を窓の外へ投げる。遠い昔へ想いを馳せているのか、細められた瞳は悲しげだった。


「今でもはっきりと思い出せます…あの子が、妻が亡くなった事で今よりも酷い自暴自棄になり、周りも伯爵子息だからと下手に止められず人々に乱暴をする姿。そして何より、尊ばなければならない国王陛下の娘君に手をあげる姿を」

「!…それは…」


それはつまり、ドリューが貴族位を返上していなければグウェンはリリアを虐げていた一人になってたって事?

リリアは王城の半数以上によく思われていなかったし、心ない言葉を言われる事もあった。だけど、さすがに暴力をふるわれるなんて事はされなかったはずだ。でもドリューの見た夢は、グウェンがリリアに手をあげるところを予知していた。クロス・クリーンの中で、もっと絞るならアルバのキャラクターの中で、リリアに手をあげた人って言えば…。


「……モブ伯爵…?」


ヒロインに結婚を申し込み、攻略対象を選ぶきっかけとなるモブ伯爵。クズのテンプレで、確かおまけのような形で配信されていた結婚した場合の短編ではリリアに暴力を振るう場面もあったと記憶している。

え?でもモブ伯爵はグウェンみたいに細くないよ?飲みたいだけ酒を飲み、女に溺れ、主食は脂っこい肉ばかり。仕事は部下に任せっきりで人望も何もあったものじゃない。だけどグウェンは、どちらかと言うと窶れているように見えた。


「……あの、関係ない事を聞くようですが、グウェンは何を食べて生活していますか…?」


本当に関係なさすぎて笑えるが、どうにか答えてもらおうと申し訳なさそうな顔で聞く。するとドリューは首を傾げながらも、「酒ばかりですね」と答えてくれた。


「飲んでは吐いてを繰り返す生活がずっと続いています。ミアが用意した食事にもほとんど手をつけていなくて…一度だけ医者に見せた時には「このままでは若いうちに死ぬ」と言われてしまいました」


だからか!!

言ってはなんだがここはものすごい田舎だから、都心のようになんでもあるわけじゃない。上質な肉はあるかもしれないけれどそのほとんどは王都へ流れるだろう。メイドであるミアは実家で食事を作っていた家事当番だったし、食事にはうるさいはず。そうなると、自ずと食べるものは健康的なものになってくる。

それを拒否して酒ばかり飲んで、挙げ句の果てに吐いてしまっていれば、あんな窶れた顔にだってなるはずだ。


「話を止めてしまってすみません…」

「いえ、大丈夫ですよ」


笑顔のドリューに胸を撫で下ろし、また考える。モブ伯爵がグウェンだった場合、ヒロインの攻略対象選択はどうなる?

そもそもきっかけがないんだから、婚約者候補なんてものはリリアの立場を考えると上がりにくいだろうし、アーロンから疎まれている姫をもらおうなんて考える貴族もまずいないだろう。

なら、もしかしてリリアはまだ誰も選んでいないのか…?

ぐるぐると回る頭の中に、「当時は信じられなくて、離れるのに数年かかりました」とドリューの優しげな声が響いた。


「え?」

「予知夢を見た当時はまだ王妃様とも婚約中で子供の気配はありませんでしたから、単なる夢であって欲しいと何度も願ってしまいまして。自分の力なのですから、自分が一番わかっているはずなのに情けない事です」


それは、仕方ないのかもしれない。私は姉様が傷つく夢を見たらどんな手を使ってでも止めようとするけど、自分が姉様を傷つける夢を見た場合、どんなに動揺するか分からないから。


「ですがグウェンが生まれてから数年が経ち、アルベルト様が生まれ、リリア様が王妃様のお腹に宿りました。その時、私はすぐに決断できなかった自分を責めるしかできなかった」

「なぜ、ですか?」


いらない問いだったとわかっているけれど、強く目を閉じ悔しそうに話すドリューが話をやめてしまうんじゃないか。そう思うほど辛そうだったから、言わずにはいられなかった。


「…妻が、精神的に参ってしまって、そのまま病にかかってしまったんです。元々体が弱く人付き合いが得意な方ではありませんでしたから。もっと早く、それこそグウェンが生まれる前に貴族位を返上していれば、妻も病にかからなかったかもしれない。運命と言われてしまえばそれまでですが、そう考えずにはいられなくなって…」


こんな人がアーロンの側にいたのかと驚きを隠せない。アーロンが惜しんだ気持ちが、少しわかる。


「だから私は、もうこれ以上の後悔はしたくないと国王陛下の元を離れました」


優しいはずの声色は、悲しげに伏せられた表情によって寂しそうに聞こえてきた。

お読みくださりありがとうございました。

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