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第百五十四話 ここに来た価値があった

ミアはリリアの専属メイドで、虐げられてきたリリアの唯一の友人となり、アルベルト以外のルートではリリアを攻略対象と共に支える重要なキャラクター。けれど、アルベルトルートではアルベルトに恋をしてしまい、姉様やサーレのような復讐ではなく、純粋な恋のライバルとして対立している。

……まぁ、最後は姉様やサーレと同じく、死んでしまうんだけど。


「やっぱり…ミアがなんでこんなところにいるの!?」


思わず大きくなる声なんて気にせず、握っている手に力を込める。ミアは戸惑った様子で、私の顔をジィッと見入るだけだった。

ミアは実家から出稼ぎに来ているはずだから、誰もやりたがらず、けれど給金の良いリリアの世話役を買って出るはずなのに。なのに、なんで…。


「お嬢様、初対面の少女にそれは些か無作法かと」

「えっ」


そっと優しく私の手をミアから離させたのはクレイグで、その隣ではヨルが眉間に皺も寄せずに無表情で佇んでいる。

お、おじょ…?え?今お嬢様って言った…?


「……身分を公にして歩きますと危険が伴いますので」


ぼそっと耳打ちされて、なるほど、と一応納得する。いきなりお嬢様なんて呼ばれて驚いたけど、そういう事なら仕方ない。


「わかった……手、離して」

「これは失礼しました」


ニコッと笑いかけてくる姿は見慣れたものだけど、なんとなく猫をかぶっているようにも見える。私は一つ溜息をつくと、ミアと向き合った。


「…申し訳ありません。少々取り乱してしまいました」

「え…あ、はい!大丈夫です!」

「それは良かったです。この屋敷のご主人にお会いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、旦那様からも招待するようにと仰せつかっております!」


ペコリと頭を下げてから「こちらです」と案内を始めるミアに、少し違和感を覚える。いや、違和感と言うほどのものでもないけれど、リリアのメイドだった時はもっと明るくて笑顔満点のイメージだったから…。こんなに落ち着いているミアは、ちょっと不思議だ。

忌み者であるヨルにすら表面上は臆す様子を見せないミアに案内され、屋敷の中へ入る。風通しが良く爽やかで、木材が多く使われているからなのか温かい雰囲気だ。

………うん、なんか好きだな、こういうところ。

初めてきたはずなのになんだか居心地が良くて口元を緩くさせていると、振り返ったミアが「ここです」とすでに開いているドアの向こうをさした。浅い深呼吸をしてから、意を決して入る。


するとそこには夢で見た時と同じ少しふくよかな男性が立っていた。


「ドリュー伯爵、でよろしいですか…?」

「貴族位は国王陛下にお返しいたしました。どうかドリューとお呼びください」


なんの嫌味もなく優雅な表情で微笑みかけられ、まるで貴族の手本のようだと思った。知性や気品は体から滲み出るものだ、と誰かが言っていたような気がするけど、この人にはそんな言葉がぴったり似合う。

私は敬意を払うために小さく頭を下げた。


「お招きありがとうございます、ドリュー。訳あって名前は明かせませんが、それでもよろしいですか?」

「もちろんですとも。今の私は一国民でありますから、高貴な方のお心の内を覗こうとは思っておりませんよ」


それはつまり国王を支えていた伯爵だった頃なら、容赦なく覗き込まれていたという事だろうか。想像が飛躍してしまいそうになるが、こうも素が見えない優しげな顔をされると裏を勘ぐりたくなってしまうものだ。


「どうぞこちらへ。何かお話があるのでしょう」


招かれた席は、ドリューの目の前。クレイグとヨルがぴったり後ろについて立ち、なんとも威圧的だと自分の事ながら思った。


「お嬢様は相当大事にされているようですねぇ…。それで、何が聞きたいのでしょうか」


探りを入れる事もなければ、疑う様子もない。どこまでも純粋に、優しげに。

私は一言、「教えてください」と言った。


「貴方は、予知夢を見る事ができるのでしょうか」


ミアはいつの間にか席を外していて、この問いを聞いたのはクレイグ、ヨル、そしてドリューだけ。ドリューは淡い蒸気を上げている紅茶の水面を見つめながら、「そうですね」と答えた。


「答えはイエスです。お嬢様の考えられている通りだと思いますよ」

「!」


その答えだけでここに来た価値があったと思う。だけど私はこの優しげな雰囲気で調子に乗って、もう一つ質問を投げた。


「貴方はなぜ国王陛下の元を離れたのですか?もしかしてそれは、予知夢で何かを見たからなんじゃ…」


予知ができるなら、もちろんリリアやアルベルトの未来も知っている事だってあり得るだろう。アーロンに忠誠を誓っていたのならアーロンの首を切る可能性のある二人を放っておくはずがない。だけどドリューはここにいて、今アーロンの側にはいない。もしかして側にいる事ができなくなった何かがあったんじゃないのか。

一拍ほど置いてから、ドリューの口が動きかけたその時。


パリンッ──


聴き慣れない派手な音が部屋に響いて入り口の方へ振り向く。そこに立っていたのは、酷く酔っている男だった。

お読みくださりありがとうございました。

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