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第百五十話 ひっくり返る

数日後、エミリーからはなんのお咎めもなかったので、シャーチクの完成品を父様へ献上する事になった。用意された場所は謁見の間で、リンクの事を気にしていた兄様はもちろん、カタルシアの貴族達が多く集められていた。


「よく来てくれた!この日をどんなに待っていた事か!」


早く見せてくれ!と楽しげに笑っている父様に比べ、集められた大臣諸々貴族様方は不満げな様子だ。理解あるカタルシアの民でも、やっぱり魔道具士という未知数の人間を受け入れるのは抵抗があるらしい。兄様は父様が楽しそうにしている時点でリンクを認めつつあるから、とりあえずは様子を伺っているという感じで、認めたくないオーラは出てるけど黙ってる。

手っ取り早くリンクの事を広めて地位を確固たるものにしたいのだけど、今のところ状況は最悪そうだった。


「では、こちらへ」


まぁそれも、いつひっくり返るかわからないけど。

エミリーの言葉に従って私の後ろを歩いていたリンクが父様の前へ出る。

父様は楽しそうに目を細め、リンクが持っている真っ赤な布に包まれたインクとペンを見つめていた。


「説明を」

「はい。名前はシャーチク。疲労を一時的に回復させる効果があります」

「一時的?では休まないといけないのか?」

「はい。体への負担や精神面の不具合が起こってしまう場合があるので、休養はしっかりと。あくまでこれは補助するための魔道具です」

「なるほど。カタルシアの国民は皆働き者だからなぁ。休息を取らねばならない魔道具であれば、安心して使わせる事ができる」

「はい!……はい?」


リンクが首を傾げ、私も「うん?」と首を傾げる。

あれ?なんか今変な事言わなかったか?

父様の言い方が引っかかったのは私達だけではないようで、集められた貴族達が目を見開いていた。うん、そうだよね、いきなり出てきた見知らぬ魔道具士の魔道具を国民に使わせるって言ったんだもんね。………え?


「と、父様?今なんて…」

「安心して使わせる事ができると言ったが?」

「え、と、それは誰にですか?」

「もちろん国民達に決まっているだろう。献上だけでは勿体ないからな!」


ハハハッ!と笑う父様は私達の驚く顔を見てさらに笑い声をあげる。兄様は半分くらい諦めた顔で「発言をお許し願えますか?」と聞いた。


「あぁ、この際言いたい事がある者は言うと良い」


父様の許可の言葉を皮切りに、貴族達から不満の声が湧き出てきた。例えば「国民に使わせるなど信じられません!」だの、「信用できない!」だの…。リンクの腕を知らないとはいえ、好き放題言ってくれんなぁオイ。

若干イラついてきてしまった私は、ニコニコと笑っている父様を見る。すると、父様の隣で溜息をついているエミリーと目が合った。


「お静かに。皇帝陛下の前でみっともないですよ、皆様」


おっと…?これはもしかして、あれだったりするのか…?

静まり返ったその場に、エミリーの声だけが響く。発言力やエミリーが持つ天性の雰囲気もそうだけど、これは今まで築いてきた実績があってこそ為せる技だ。


「シャーチクの効果は私が保証いたします。皇帝陛下に国民への配布をお勧めしたのも私です。彼の魔道具は素晴らしいですから。何かあるなら、私が応答します」


淡々とエミリーの静かな目が文句を言っていた貴族達を見下げている。

カタルシアきっての天才であり、初の女性宰相。その実力は誰もが認めるところだ。そんな人間が、リンクの魔道具を認めた。これがどういう事を指しているのかわからない貴族達ではない。


「宰相殿が言うのであれば…なぁ?」

「そ、そうですね。ここは皇帝陛下と宰相殿の目利きを信じましょうか」

「まだ若い芽だ。様子を見るのも悪くないか…」


次々にひっくり返っていく貴族達が愉快で仕方ない。だけど、それ以上に私が愉快なのは…。


「期待していますよ、リンクさん」


エミリーががっつりリンクの味方に回ってるって事ですよぉぉおおお!!ハッハー!やっぱりエミリーはシャーチクの虜になったな!!リンクに笑いかけるエミリーには鳥肌が立ちそうになるけど、その行動力と発言力は素直に称賛する!

エミリーはカタルシアで最も忙しい人間だ。仕事の補助となる魔道具だって多く持っている、と思う。詳しいところは知らんけど。加えて使えるものは使わないと勿体ないって事をよく知っている人でもあるから、腕の良いリンクが作った効果抜群のシャーチクをみすみす逃すような馬鹿な事もしないと踏んでいたのだ。


いや〜、本当に実験体にエミリーを選んで良かった!


この調子なら、エミリーの部下達もリンクの味方になってるかな?あの人達、いつも仕事ばっかだけど実際国支えてる張本人達だから、味方にしておいて損はないんだよなぁ!

あーダメだ、ニヤニヤが止まらない。何がどうなっているのか分からずにポカーンとしているリンクが可愛いし、兄様の諦め具合を見るにリンク関連で騒がれる事もなくなるだろう。それにエミリーと父様がリンクの後ろ盾なら、リンクの成長する機会を誰にも邪魔される事はなくなるはず。


「今日は良い日だね、リンク」


驚きと嬉しさとで色々と感極まっているリンクに声をかければ、「はい!」と良い笑顔で返されたのだった。

お読みくださりありがとうございました。

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