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第百四十九話 見てなさいって

「あの〜、それで…」

「うん?」


できればなんですけど、と言葉を続けるリンクに首を傾げる。なぜにそんな畏まってるのかね。


「献上する前に念のため試しておきたいんですが、誰か良い人いませんかね」

「あ、実験体?」

「言い方が悪いですけど、そうです」


そう言えば完成したって報告しにきた時に似たような事言ってたな。

父様はリンクを受け入れる気満々だから形だけでもなんら問題はないだろうけど、皇帝に献上する品に何か異常があると、これからのリンクに泥がつきかねない。


「………実験体、何人欲しい?」

「!…できるだけ多く!人数は多ければ多いほど良いに決まってますから」


まぁ多ければ、その分だけパターンを記録できるもんね。


………ふむ。


「この際、リンクの味方を増やしてみようか」


───











「いつもお世話になってるフォーレス侯爵様方へプレゼントです!」

「毒入りですか?」


即座に毒入りか聞いてくるところが本当にムカつくね!

訝しげに探りを入れてくる視線をガン無視してエミリーの公務室へ立ち入ると、そこには仕事机とお友達になった大人達が死んだ目で仕事を進めている姿があった。


「相変わらずブラックっぽい雰囲気ですね」

「休憩時間と休暇はちゃんと与えています。仕事時間にできるだけの仕事をしようとすればこうなるのは当たり前でしょう。というか、勝手に入らないでいただきたいのですが」

「いくら国中から集めた天才集団でもこれは可哀想だと思いますけど?」


ここはエミリーの公務室兼カタルシア帝国が誇る天才達の仕事場だ。昔仕事のしすぎでエミリーが倒れ国の経済が傾きかけた事があり、父様が急いで国中から集めた頭脳明晰な天才達。交代で休んでいる人を入れると十人ほどいて、今ここにいるのはその半分の五人。元々はもっと増やす予定だったんだけど、エミリーについてこられるだけの能力がある人間が国中探してもこれだけしかいなかった。


「邪魔しに来たんじゃないんですからそう邪険にしないでください」

「もし邪魔しに来たのであれば皇帝陛下もお怒りになるでしょうね」

「否定できないですね〜」


ここは国の中枢を担っている場所でもあるから、確実に怒られるね。ここにいる間だけでもエミリーの事は怒らせないようにしないといけない、気に食わないけど。


「皆さんにとって良いお話ですよ。リンク、入ってきて」


扉の近くに立っていたリンクを側まで呼び込む。するとあからさまにエミリーの目が細まり、その場が緊張に包まれた。…まぁ、エミリーの部下達は気にせず、というか無視を決め込みながら仕事を続けてるわけだけど。確か、仕事中は喋る事もできないくらい集中するから声をかけても反応しない、だったっけ?

全員に無視されるから、皇城にいる大抵の従者はエミリーの公務室には近寄りたがらないんだよね。


「……それは?」


リンクが持っている小瓶とペン。それを目敏く見つけたエミリーが鋭い声で聞いてきて、私はニッコリと笑みを作った。


「リンクが父様に献上しようと作った魔道具です」

「…そうですか」

「ですが、献上するだけではありますが相手は皇帝陛下。なら、それ相応の実績を先に上げておきたいと思って」


私の笑顔が気に障ったのか、それとも自分達を実験体にしようとしているのを察したからなのか。たぶんその両方だろう。エミリーの表情が一層険しくなった。そのせいでリンクが慌て始めているけど、まぁまぁ、見てなさいって。


「効果は一時的に疲労を回復させるものです。ぜひ、皆さんに使って欲しいと思っているんです」


私の言葉を聞いたエミリーの額にピキッと青筋が立ったが、次の瞬間には感情を押し殺すような無表情に早変わりしていた。


「………もし、一人でも身体的に異常が見られる者が出た時は、わかっていらっしゃいますよね?」

「もちろん!責任は私が取らせていただきますよ」


それならば良い、とでも言うように頷いたエミリーが、リンクへ視線を移す。


「仕事中は何をされても無視し続けるので、するならお早めに」

「は、はい!」


爆発寸前のエミリーに睨まれて、リンクが焦りながら部下達の肌へインクをつけていく。書き込む文字や絵に意味はないらしいので、リンクは適当に書き込みながら少しずつ魔力を込めていった。

数分もすれば作業は終わり、額の汗を手で拭ったリンクが笑顔で駆け寄ってくる。エミリーに視線をやると、すでに仕事に戻っていて全身から早く帰れオーラを出していた。


「………帰るか」

「はい!」


───











屋敷へ帰る途中、リンクがポツリと呟いた。


「断られるかと思いましたよ」

「なんで?」

「あんなに怒らせたら跳ね除けられるじゃないですか、普通」


確かにそうか。けど、エミリーが断る確率は極めて低かった。基本的にエミリーは私の事嫌いだから、失敗したら失敗したで告げ口ができる。父様の目を覚まさせる良い機会とでも思ったのかもしれない。


「…まぁ、大丈夫だよ」

「え?」

「あの人は、嘘をつけないからね」


特に、忠誠を誓って心まで捧げている相手には…ね。

お読みくださりありがとうございました。

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