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第百四十八話 無理矢理洗い流された

トンッ、と軽い音を立てて置かれた透明の小瓶をすぐに手に取る。一応リンクに確認をとってから匂いを嗅いでみるが、ほぼ無臭に近かった。のだけど。


「〜ッ!!!アステア様!閉めてください!」


なぜかエスターが涙目になりながら訴えてきたので、急いで蓋を閉める。気を利かせてくれたアーロ君が鼻に当てるための布を渡してくれたので、エスターはなんとか落ち着く事ができたようだ。


「なんなんですかソレ!!匂いキツ過ぎじゃありませんか!?」

「これ、匂いするの?」


確認のために小瓶をエスターに近づければ、物凄い拒否反応を示された。


「アステア様でも怒りますよ!?」


エスターにはよく怒られていたりするんだけど、これはなんて言うか、泣かせる寸前とかの感覚に似てるので素直に引いておこう。

私には全く感じられない匂いを嗅ぎ分けるなんて流石獣人だな、と思っていれば、リンクが申し訳なさそうに口を開いた。


「あー…すいません。カタルシアは亜人種の人があまりいないので失念してました。そういえばアステア様の周りって多いですよね…」

「おいコラ?なんか含みのある言い方だな、うん?」


にっこり笑ってやれば、リンクは「含みなんてありませんよ」と笑い返してきた。……まぁ、今回は見逃してやろう。


「で、これってどういうもの?」

「簡単に説明すると気付薬の一種…かもしれないですね。主に亜人種が使っている気付薬を参考に作ったので。エスターさんが反応したのは、参考にした気付薬にも入っている動物の尿の匂いじゃないかと…」


に、尿…ですかぁ…。小瓶を静かに机に置く。常温で保存されていたからなんだろうけど、冷たくもなかった温度にちょっとゾワッとした。


「亜人種だけが嗅ぎ分けられる匂いも多いので…すいません、もう少し改良した方が良いのかもしれないです…」

「いや、気付薬なら良いんじゃない?匂いで起こせば良いんだし」

「!?これで目覚めるんですか!?地獄ですよ!?」


私そんなの嫌です!と嘆いているエスターだけど、なぜに自分が使われる前提なのか。まぁ、クレイグだったら笑顔で顔面に押し付けてきそうな気もするけどね…。


「って、ん?でも、これって薬でしょ?」


聞けば、リンクはわかりやすく私から目を逸らした。魔道具じゃないって自覚はあったのね。これなら参考にした気付薬でも代用は効きそうだし、リンクは何を作りたかったのか。

少し待っていると、リンクは渋々話し始めた。


「本当は使いやすいから飲むタイプが一番良いかと思ったんですが、作る最中に味のキツさに気付いてしまって…試し飲みはしてないですがたぶんこの試作品は気絶するくらい不味いです。塗るタイプも効力があり過ぎて肌荒れは免れないですし、医療の力を借りて直接流し込むのだって体に合わなければどうなるかわからない…そこで、気づいたんです」

「おぉ?」

「飲むでもない、塗るでもない、流し込むでもない…そう!書けば良いんだと!」


………は?


「最初の発想口は皇太子殿下の疲れっぷりですね。仕事での疲れを一時的に回復させるための術式をすでにこの液体の中に混ぜているので、多少の魔力を流し込みながら書き込むだけで魔術師が描く術式と同じ効果が得られます」

「つまり、これは薬じゃないって事?」

「そうですね!本当は薬に近い感じにしたかったので悔しいんですけど、道具の種類的に言えばインクだと思います。直に体に書き込むので」


悔しいから話す時渋ってたの…?ダメだ、リンクがわからん…。

一応これが「インク」で、薬じゃないって事は理解できたけど、いまいち使っているところが想像つかないんだよな。あと、それからもう一つ重大な案件がある。


「これの名前、なんだっけ」

「「これがあればストレスなんてへっちゃら!馬車馬の如く働ける液」です!」

「長いわ!!」


リンクってネーミングセンスなかったのね…。


「もっと縮めて!コンパクトに!」

「えぇ…?良い名前だと思ったんですけど…」

「本気で言ってんの…?」


このままリンクに任せていたら、便利なのに名前がダサい魔道具が量産されてしまうかもしれない…私の頭に一瞬そんな未来が過ぎった。


「あの…」

「ん?」


控えめに手をあげたのは、ずっと黙っていた可愛いアーロ君。何か言いたそうにしているので「どうしたの?」と声をかければ、やはり控えめに提案をしてくれた。


「インクは昔、シャーチクと呼ばれていました。今は使われていない言葉なのでそれで良いんじゃないかと…」

「し、シャーチク…?」


なんか、妙に聞き馴染みのある言葉のような気が…。


「おぉ!それ良いな!」

「え!?」

「?…ダメですか?」

「ダメってわけじゃないけど…」


インクの効果的には合っていなくはない…んだけど…えー…。

だって完全に社畜…。


「ま、まぁ、リンクが作ったものだし、リンクが良いなら良いけど…」

「じゃぁ!シャーチクで!」


一切陰りのない笑みで言われ、まぁ良いか、と流した。というか無理矢理洗い流された。ちなみに誰かもわからないがシャーチクという言葉を作った人の事は理不尽だけどなんとなく嫌いになった。以上。

お読みくださりありがとうございました。

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